95 魔改造博士グレイス、その3です。
グレイス博士に出会い、仕事を依頼した翌日から博士がパーティーに加わった。最も博士は冒険者ではないので戦力にはならない。本人曰く、実際の狩りを見ることで無限術の有効利用を考えるらしい。
やる気に満ち溢れていて、とても頼もしい。
俺やフルルに根掘り葉掘り質問したかと思うと、分身を研究所に連れて行ったりと、凄く忙しそうだが楽しそうだ。
因みに研究所に連れて行かれた分身は、バラバラに解剖されている訳じゃない。色んな検査が主目的の様だ……と、思っていたら、得体のしれない物体を持たされた途端に突然、火だるまになったりもしていた。
その間、俺とフルルは、無闇に高いエリアに向かわずに、程々のエリアで物資の消耗を抑えながら狩りをしていた。
レベルを上げることよりも金策を意識している。なんせ、最低5000万ゼニーだ。
それから一週間ほど経過した所で、博士が『魔改造ショップ』に俺たちを呼び出した。
「方針が決まったぞ」
「本当か? どう? 俺たち強くなれそうか?」
「はっはっは、もちろんだ。私の魔改造が成功すれば『蒼の軍勢』は飛躍的な進化を遂げるだろう!」
自信満々に言うグレイス博士、これは期待せざるを得ない!
「では、順に説明しよう。まず分身を何人か召喚してくれ」
俺は博士に言われたとおり、分身を生み出した。
博士の説明は続く。
「さて、この生み出された分身は一見、何の変哲もないただの分身に見えるだろう? だが、実はとてつもない才能が秘められているのだ!」
「ええっ、マジで⁉︎」
「ああ、マジだ。そのとてつもない才能とは魔力だ。測定の結果、どの分身も魔力量が1000を越えている。これは、上級の魔術師に匹敵する量だ。おそらくはオリジナルのヒビキの魔力値を模倣しているのだろう。それも、ヒビキの魔力残量に関わらず常に1000の値を越えている。この前、駆け出しの頃に自分の怪我まで再現して、分身を召喚してしまったと言ったな? 見方を変えるなら、オリジナルが負傷していても、万全な状態の分身を召喚できる訳だ。そして、魔力に関しても同じことが言える。たとえ、オリジナルが魔力枯渇寸前でも魔力満タンの分身を召喚しているのだ」
「おお! よくわからんけど、なんかすげー! …………でもそれが何の役に立つの?」
「分身がスキルを使えない現状では全く役にたっていないな。もし分身が更に分身を召喚できたら凄いことになるのだがな」
それは確かに凄いことになりそうだ。いや、出来ないのだが……。
「そこで、俺の出番だ。使い道のなかった魔力に使い道を与える。つまり、人造魔法紋章をオリジナルのヒビキに埋め込むことで、分身達も魔法を使える様になるのだ!」
「すげー…………俺に? 分身達じゃなくて?」
「分身に埋め込んだって、直ぐに使い潰すだろうが、オリジナルに埋め込まないと意味がない」
それはそうかもしれないが……。
「因みに、その人造魔法紋章って、何か問題ないの? そもそも、そんな技術があるなんて初めて知ったんだけど?」
「余り需要のない技術だからな。そもそも魔力が豊富にある奴は、全員魔法が使える。普通は必要のない技術だ。マイナーな上に、そもそも未完成な技術で欠点もある」
「け、欠点?」
「うむ。二つほどある。一つは単純な魔法しか扱えない事だ。上級魔法や無限術を使えるようにはならない。が、単純であるが故に有用なケースもある。大した問題にはならないだろう。もう一つが厄介で、施術された人間が魔力枯渇で死亡するケースが多発したことだ。だからこそ、廃れて見向きもされない技術なんだが……だが、まあ、これも問題ない」
「問題ありまくりだよ!」
なに言ってんだ、こいつ⁉︎ 俺、死ぬじゃん⁉︎
「いや、大丈夫だ。死亡するのは一度使用してからだ。一度、自身の魔力を魔法紋章に流すと魔力の通り道が開くのだが、閉じることができず、魔力を流しっぱなし、魔力枯渇、衰弱、死亡という事になる。その欠点が改善できず未完成のまま放置されたんだ。だが、使わなければ死ぬことはない。魔法紋章を使うのは分身に任せればいいんだ」
そうなのか? 本当に大丈夫か、これ?
戸惑う俺に博士が力強く訴えた。
「そして、約束しよう! このヒビキ魔改造計画が完成すれば。君は今までの何十倍も強くなるだろう!」
「な、何十倍⁉︎」
「天位の座を目指しているのだろう⁉︎ なら力が必要なはずだ。そして、その力は君の目の前にある! 手を伸ばさない理由が何処にあるのだ⁉︎」
「ええー…………ええっと…………」
「お願いします! それだけでいいんだ! 栄光はその先にある。夢も野望も手に入れるんだ、ヒビキ=ルマトーーーール!」
「お、お願いしまーーーーーす!」
俺は力強く叫んだ。
……。
……。
……そして、そんな俺たちのやりとりを見ていたイレイスは隣に座っていたフルルに呟いた。
「私ね、最初にヒビキさんに出会ったとき、この人ちょっと頭がおかしいんじゃないかって思ったの。それで、今日、改めてこう思ったわ。ヒビキさんはちょっとじゃなくだいぶ頭がおかしいんだろうって」
「………………」
フルルは何ら言い返せなかった。