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92 作戦会議です。

 はれて上級冒険者になったヒビキ君はお仲間のフルル君と一緒にエリアに狩りに行きました。

 狩りの獲物は手強かったのですが、二人は知恵と勇気を振り絞ってなんとか倒す事に成功しました。

 めでたし、めでたし……とは行きませでした。

 なんと、獲物を売り払って得られる報酬よりも、獲物を狩る為に使った金額の方が、明らかに多かったのです。

 こんな事を続けれは、いつか二人は破滅します。

 はてさて、二人はこれから一体どうするのでしょうか?


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「やばい」


 大赤字だった今回の狩りの結果を受けて、俺は呟いた。


「本当にやばい。やばいぞー。どうすればいいんだろうフルル?」

「とりあえず、落ち着いたら? 別に今すぐ危険な訳じゃないし」

「だよなー」


 まあ、そうだ。死ぬ危険がある訳じゃない。

 とはいえ、赤字なのは問題だ。そして本当に問題なのはそこじゃない。


「いよっし! 作戦会議だ!」


 俺は決断した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 何処とも言えない亜空間ボックスの一室、一つの机を囲んで8人の人間が集まっていた。

 まずは総大将である俺。

 そして、俺の隣には副隊長のフルル。

 次に、それぞれの部門のリーダーが座っている。

 実働部隊のリーダーである1号。

 武器、防具の生産を担当している2号。

 紫煙花の育成、秘薬の精製を担当している3号。

 都市での情報収集を担当している4号。

 主に氷青鋼の採掘を担当している5号。

 金銭、資材の管理をしている6号。

 今ここに、蒼の軍勢の中核を担う存在が集まっているのだ!

 そのことにフルルが言う。


「隊長、帰ってもいい?」

「まだ始まってもねーのに⁉︎」

「でも、ちょっと疲れてて。隊長の遊びに付き合うのはまた今度にして欲しいです」

「遊びじゃない! 遊びじゃないんだ!」


 確かに遊び要素が全くないとは言えない。でも分身を召喚して会議を開くのには、ちゃんとした理由がある。

 何故なら、俺は既に600人を超える分身の動向を完璧に把握していないんだ。

 もちろん、分身たちとはいつでもテレパシーで意思疎通できる。

 でも、それはいわば1対1の会話だ。1度に1人としか話せない。俺には、10人の話を把握できたとかいう聖徳太子の様な能力は無い。仮にあったとしても、たかだか10人だ。全然足りない。

 だからこそ。こうやってそれぞれの分野のまとめ役を作っている。

 だから、遊び心だけで作戦会議をやっている訳じゃないんですよフルルさん⁉︎

 という訳で作戦会議が始まった。

 まずは本日の議題だ。俺はみんなに告げた。


「今日、上級冒険者のパーティーが狩る石弾カンガルーを狩った訳だが、余りにも武具、防具の損害が甚大すぎて、手に入れた石弾カンガルーの魔石では割に合わない件だ。まずは1号、実際に戦った時のことを報告してくれ」

「はい、隊長。俺たちは300人でカンガルーに挑んだんすよ。事前にカンガルーが土魔法の石つぶてを広範囲に撒き散らすことは知っていたので、盾持ちをきっちり並べて、その後ろから弓兵が矢を射かけたんすが、盾持ちは盾ごと吹っ飛ばされて、こっちの弓は当たってもかすり傷で、遠距離戦だと全然駄目っす。結構、犠牲覚悟の特攻で倒すことはできたんですが、カンガルー1匹狩るのに200以上の兵隊がやられちまいました。また、盾が10、鎧が25、剣が15、槍が11、弓が17が全壊。修理が必要な奴は更に数倍っす」


 分かっていたが、改めて聞くと頭が痛い。カンガルーの魔石が相場で1500万ゼニーって所で、武具の被害総額は、仮に店で購入するとするなら1億ゼニーを超えている。割に合わないってレベルじゃねえ。

  無論、店売りの武具を買ってる訳じゃ無いのだが…………。

  そこら辺を無愛想な2号に聞いた。


「……今は、武器も防具も自前で賄っている。流石に本職の鍛冶師には負けるが、そこそこの品質は保っている」


 そう、今の俺は武器も防具も自前で回している。装備の必要数が多すぎて親方だけじゃ無理なのだ。


「もっと、強力な装備は作れないか?」

「……無理だな、金と時間をかければ多少はマシになるが割に合わんよ。これからも山ほど作らないかんのだ」

「そうか……」


 1号が口を挟んだ。


「もっと、こう楽な敵はいないんすか?」


 それに情報担当、インテリな4号が返した。


「石弾カンガルーは上級が狩る魔物の中でも、比較的防御力が低い。むしろ、1号の言う楽な敵だ。他の魔物となると、それこそ、歯が立たん」


 そこなんだよなー。結局のところ問題はそこだ。兵隊の能力と狩るべき魔物との能力差が離れてきている。端的に兵隊が弱いのだ。

 状況は無限術師がオークに敵わないと言われていた時と似ている。あれから秘薬を作り、装備を整えて初級冒険者の戦士程度の戦力にはなった。そして数の優位を生かして上級冒険者までたどり着いたのだが、これから上のエリアでは、初級戦士がいくら集まっても蹴散らされる敵が沢山出てくるのだ。

 そして、問題はそれを解決する方法が思いつかない。空間術師とのコンボ、竹槍、紫煙花、武具と色々と試行錯誤してきたが、流石にネタ切れだ。これ以上強くなる道が思いつかない。

 いっそ魔導兵器という考えも浮かんだが、上級冒険者が狩るような魔物を倒せる魔導兵器は馬鹿みたいに金がかかって、個人がなんとかなるレベルじゃない。国防費とかそんなレベルの話だ。絶対に無理。

 それから会議は迷走した。

 分身たちもそれぞれの立場から意見を言うけど、やっぱり俺の分身なので、そこまで飛び抜けたアイディアが出ない。だいたい、俺にとって既知のアイディアだ。


「うーん……フルルは何かない?」

「戦いの方は全然駄目です。……でも」

「でも?」

「いっそ、僕たちより頭の良い人に、相談に乗って貰えばどうですか?」

「相談かー」


 それは、存外悪くない意見に思えた。例えば魔術師で例えるなら、駆け出しの魔術師が熟練の魔術師に教えを請うことはよくあることで上手い手だ。また魔術のアレコレを考える学者もいる。

 だから、誰かに相談するという意見は、全然悪い意見じゃない。問題は俺が弟子入りするような奴に心当たりがないってことだ。無限術師の先達はいないし、マイナーな無限術を研究している学者もいない。俺には、相談すべき誰かが全く思いつかない。

 それをフルルに言うと、フルルから自信なさげだが、1人の名前が帰ってきた。

 意表をつかれた。


(ああ、そう言えば、そんな奴がいたっけ)


 そんな風に思った。

 そして、それから、フルル以上の意見は出ず、ほどなく作戦会議は終了した。

 そして翌日、俺たちはたわわちゃんの所に向かった。

 でも、今日の目的はたわわちゃんじゃない。目的はたわわちゃんの周囲に週3のペースで現れるという、半ストーカーと化している、空を飛ぶ弓使い、アストリア=パールさんだ。

 今日も遠巻きにたわわちゃんを眺めながら、


「ああ、お美しい」


 などと呟いて、うっとりしている。

 そんな彼女に声をかけた。


「アストリアさん。こんにちは」

「おや、ヒビキさんじゃないですか? ヒビキさんもタワワ様ウオッチングですか?」

「いやいや、今日はアストリアさんに尋ねたい事があるんだ。あのさぁ、グレイスっつー、魔改造博士に会いたいんだわ」


 意外な言葉だったらしく、困惑げに彼女のメガネがキラリと光った。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] これはもうコピーではなくそれぞれが個人になりかけてる。 無愛想とインテリ(笑)
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