89 レベル40です。
次期領主のアーレストのおかげで、俺は上級冒険者に昇格することになった。
ただ昇格は、たわわちゃんを始めとした、現在試験中の奴らが帰ってきた時に、まとめて昇格させるとのことだ。
彼らが帰ってくるまで、まだちょっと時間がある。その間にレベル40になることにした。
50番代のファーストエリアで、レベル上げにいそしんでいたら、俺より先にフルルがレベルが上がった。レベル30だ。
そして、なんと新たなるスキルを取得したのだ!
『マーキング』
主にシーフなんかが取得するスキル。迷宮なんかで、二手に分かれなきゃいけない時に重宝するスキル。
もしくは、逃げを得意とする魔物を追跡する為のスキル。
このスキルと空間術師の組み合わせなら、おおよその使い道に見当がついた。
「とりあえず、使ってみっかマーキング」
「うん」
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「アホー、アホー」「アホー、アホー」「アホー、アホー」
59番ゲート、セカンドエリア、通称黒岩の谷。地球で例えるなら、グランドキャニオンの様な崖の底で、分身一号の率いる盾持ち25名、弓持ち25名の計50人からなる部隊は、石投げアホー鳥の群れと戦っていた。
因みに形勢は不利だ。
「退却! 退却っすよ!」
指揮官である一号の指示で引いていく部隊を、石投げアホー鳥の群れは悠々と追撃してくる。
地面に転がっている石ころを、風の魔法で巻き上げ、それを弾丸として分身達に浴びせてくる。
盾持ちが壁を作って防ごうとしても、幾つかは抜けて
弓持ちにヒットした。
「くっ、応射!」
無事な弓持ちが一斉射撃を仕掛けるが、アホー鳥の周囲は風が渦巻いていて、放たれた矢は逸れていった。
「アホー、アホー」「アホー、アホー」「アホー、アホー」
嘲笑するかの様な、石投げアホー鳥のさえずりにイラッとくるが我慢して部隊を下げた。
アホー鳥は、それを一定の距離を開けながら追従して、石をぶつけてくる。
アホー鳥は、決して素早くも頑丈でもないが用心深い。前衛の攻撃が届く場所まで絶対に近寄らない。倒すには遠距離攻撃が必要なのだが、アホー鳥の周囲は常に風が渦巻いていて矢では狙いをつけづらい。またマジックシールドを保有していて、魔法攻撃にも耐性がある。
倒せない訳じゃないが、とにかく面倒くさい。それが冒険者達の本音だ。
ヒビキにしたって、遠距離攻撃力の低い今の自分の力では倒せないと敬遠していた相手だ。
だが、フルルのマーキングのスキルで状況は変わった。
フルルがマーキングを使うとマーキング相手の位置が把握できる。つまり、そこまで転移できる。
「退却! もうちょっとだけっすよ!」
石つぶてを受けながらも、盾持ちが壁になることでなんとか生き残り、予定の奇襲場所まで連れてくることに成功した。
俺は、そんな一号達の頑張りとアホー鳥の群れを、真上の峡谷の崖の上から眺めていた。
そう、崖の上からである。今までならフルルに崖登りなどやらせることができなかったのだが、分身にマーキングをつけて崖を登らせ、崖の上の平地に転移したのだ。ちょっとフルルのサポーター力がとどまることを知らない。
そして、
「よし、標的は射程距離に入った。いけ! ムササビ部隊!」
「「「おー!」」」
俺の号令で分身達は虚空に飛び出した。アホー鳥めがけてスカイダイビング。
突然の上空からの奇襲にアホー鳥は対応できない。
事前に十数回繰り返した予行練習の成果で、分身達は上手くアホー鳥に狙いをつけている。そして、矢の何百倍もの重量を保持する分身は、アホー鳥の風の守りも効果がない。
ある分身は、アホー鳥を捕まえ、そのまま地面に落下した。
ある分身は、捕まえ損ねるも接触し、バランスを崩させアホー鳥を地面に引きずり落とすことに成功した。
そして実のところ、半分くらいはアホー鳥にかすりもせずに、そのまま地面に落下したのだが、元々ハズレを見越してアホー鳥より多くの分身を突入させていたので何の問題もない。
ムササビ部隊は、一度のダイブで8割のアホー鳥を殲滅した。
そして残りの2割を殲滅する為に、第二陣ムササビ部隊を突撃させ、
「ふっ、馬鹿鳥め、人間が空を飛べないと思うなよ」
と、クールにカッコつけてると、高い所が苦手でちょっと離れた所にいるフルルから、
「飛んでない。あれは飛んでない」
と、突っ込みが入った。
(まあな、あれは飛んでないよな)
ロマンがないので口には出さなかったが、内心では同意した。
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ついにレベル40だ。
ステータス
ヒビキ=ルマトール
無限術士Lv 40
闘気 0
魔力 845/1250
スキル 分身召喚×40 分身召喚数倍化×4(最大召喚数 640) 代行権
選択スキルで、分身召喚数倍化を取得した俺の分身召喚数は、とんでもないことになっていた。
因みに、もうひとつの選択スキルは贋作創造という、どことなく中二心をくすぐるスキルだったが俺は迷いなく分身召喚数倍化を選んだ。
もう、分身が増えることに夢中になっているのだ。
「とりあえず、武具を揃えないとな」
俺は呟いた。




