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83 都市を揺るがす大事件です。

たわわちゃんが上級冒険者への昇格試験へと旅だった翌日、ヒビキは気を取り直してレベル上げにいそしんでいた。

仮にたわわちゃんが試験に合格しても一歩リードされるだけだ。まだ巻き返しは効く。その為にも今は地道にレベル上げ装備を整えるべきだ。

とりあえず、たわわちゃんが帰ってくるまでにレベルを40まであげようと決めた。

そして、51番ゲートから進んだセカンドエリアでブラッドスネークをまる2日狩り続け、レベルが39になったところで迷宮都市に戻ってきた。


「ん? 」


街の様子がおかしかった。至る所で悲鳴や叫び声が上がっているのだ。


「なんだ?」

「なんなんだろう?」


俺とフルルは顔を見合わせながら首を傾げた。

とにかく、ロクでもないことが起こっていることだけはわかった。

警戒しつつも、ヒトが集まっているところに向かった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


人が集まっているのは教会だった。まさに押しかけている。教会は神に祈る場所であるとともに、治癒師が常駐していて治療を受けられる場所でもある。それに人々は顔にタオルやハンカチを当てている。


「疫病? それとも伝染病?」


おそらく、そんなところだろう。フルルにタオルを出してもらいヒビキ達も口を覆った。

そして、誰かに事情を聞こうと辺りを見回すと知り合いがいた。


「クーヤ!」


もとシーフの現商人に声をかけた。

彼女も厳しい顔をしているが比較的冷静に見える。


「ヒビキ、フルル、あなた達も治療に来たの?」

「いや、たった今エリアから帰ってきたところで、事情が全然わからないんだけど何の騒ぎ?」

「それがねぇ、ついさっき、どっかの馬鹿が街の中に紫煙花の胞子をばら撒きやがったのよ」

「えっ・・・?」


ヒビキは最初、クーヤの言葉を理解できなかった。

どこぞの誰かが紫煙花の胞子をばら撒いた?

そして、頭の中で繰り返してやっと受け入れた時、ヒビキは咄嗟に叫んだ。


「俺じゃない! 俺じゃないんだ!」


叫びつつも隣を見る。


(フルル心当たりある⁉︎)

(ありません! 隊長こそ何か心当たりはないの⁉︎)

(ないない!)

(ほんとに?)

(ほんとほんと!)


以上のやり取りを無言でアイコンタクトだけで交わした。

そんな俺たちにクーヤがおかしな奴を見る顔をした。怪訝げに言う。


「はあ? 誰もあんたが犯人なんていってないじゃない。ちょっと自意識過剰なんじゃない? 」

「そ、そうだなー!ちょっと、ほんのちょっと自意識過剰だったなー! 」


若干、声が裏返っていたがなんとかごまかした。


「そ、それで? 何処のどいつがそんな馬鹿な事をしたんだ」

「聞こえてきた噂によると商業地区のいいとこの令嬢だとか、知らずに紫煙花を育てたらしいわよ。世間知らずもいいとこね」


呆れた様に喋るクーヤ。それにはヒビキも同感である。


「それでクーヤは大丈夫なわけ?」

「私は煙を吸ってないからね。風向きが良かったわ。ギリギリ命拾い。でもあそこの人達は運がなかったわね。風に乗った煙を吸ってしまったの。かわいそうに」


そのかわいそうな人達は次から次へと教会にやってくる。


「一体、どんだけの人が煙を吸ったんだ?」

「軽く見ても5桁いくわね。最悪6桁いっちゃうかも」

「まじか・・・」


治癒師が紫煙花の毒を解毒する成功率はおよそ50%と言われている。つまり最低でも5000人は死ぬ計算だ。

そんな、今生死の狭間にいる人たちは狂乱を巻き起こしていた。

解毒に失敗した人が叫びながら泣いていた。

解毒に成功した人も叫びながら泣いていた。

まるで明日世界が滅ぶかのような地獄絵図だ。


そんな光景を複雑な心境で見ていると隣から、


「隊長・・・」


と、フルルが短く俺を呼んだ。隊長と呼んだだけで他にはなにも言わなかったがフルルの考えていることはわかる。

俺なら・・・俺たちならこの地獄絵図を変えることができるのだ。


(だだなぁ、解毒薬の材料に紫煙花が入っているのがなぁ・・・)


冗談抜きで命の危険だ。一歩間違えばマジで死ぬ。

と、ヒビキが躊躇していると教会で騒ぎが起きた。


「待ってくれ! 娘にもう一度解毒の加護を授けてくれ!」


40ぐらいの禿げたおっさんが若い男の治癒師の足元に縋っていた。


「無理です! 二度目の加護はほとんど成功しないんです!」

「やってみなければわからないだろう! もう一度だけ、もう一度だけ頼む!」

「無理です! 後ろを見てください! 解毒の加護を必要とする人はたくさんいるんです! 無駄に魔力を消費する訳にはいかないんです!」

「無駄だと⁉︎ うちの娘の命が無駄だというのか⁉︎」


激昂したおっさんが治癒師の男に殴りかかった。


「あっ! やめてください!」

「お父さん! もういいよ!」


俺より年下の・・フルルと同じくらいの年の女の子が泣きながら父親を止めていた。

周囲の人間がおっさんを取り押えて治癒師から引き離した。


「うおおおおお! 離せ! 離してくれ!」


なおも暴れるおっさんはそのまま引きずられて連れていかれた。

治癒師の男はもうおっさんのほうを見向きもしなかった。そんな余裕もないのだ。顔の怪我の治癒もせずに次の患者に向かいあっている。

そんな光景をみてヒビキは重いため息を吐いた。

そして、


「フルル、もしマズイことになったら、僕は奴隷なので主人の命令には逆らえませんでしたって言えよ」

「僕は確かに奴隷だけど、でも蒼の軍勢の副隊長です」


ヒビキはきっぱりと言われて二の句がつげなかった。


(うちの副隊長はどうにも意識が高くて困るな)

(もうちょっと自分の保身のことを考えて欲しいもんだ)


諦めの気持ちと共に再度重いため息を吐いた。


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― 新着の感想 ―
普段ダメよりだけどたまにカッコいいヒビキ好き
[良い点] ヒビキかっこいい。男の子はこうでなくちゃと思いました。応援します。
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