82 昇格試験です。
「突撃ーー!」
「「「おおおぉおおっ‼︎」」」
ヒビキの号令を受けた分身たちが雷獣へ襲いかかった。
雷獣は雷を纏った尻尾を振り回し幾人もの分身を屠ったがそれでも全ての攻撃を捌ききることはできなかった。
「ヴオオオオ!」 と断末魔の声を上げながら魔石へと変わった。
それを見届けたヒビキは、
「よし、雷獣の魔石ゲット」
満足げにそう呟いた。
ドレステルの厄災からはや半月、ようやく武器や秘薬の準備が整い依頼書をこなせるようになった。
「まったく、わりに合わない仕事だったぜ」
時折、あの時のことを思い返してそうぼやくヒビキだったが実のところ全てがマイナスという訳でもなかった。
確かに装備の大半を失ったし、それに見合う報酬を受け取った訳でもないのだが得るものはあった。
ありていに言えばレベルが上がった。それも一気に7レベルも。まあ、数えるのも馬鹿らしいくらいの敵と戦ったからね。そりゃレベルも上がるよね。その結果今現在ヒビキの分身の最大召喚数は300を軽く越えている。
それに、厄災を防いだ事が評価されて上級冒険者になる為のポイントがかなり入った。この分なら遠からず昇格試験を受けられるだろう。
「そろそろ本格的に上級冒険者を目指そうかな」
そんな風に考えている。実際レベル40あたりで皆、上級冒険者となるのだ。ヒビキがそう考えるのも妥当だといえる。
「よし、そうしよう。目指せ上級!」
と、いきよいよく拳を振り上げたヒビキに隣から冷静な駄目出しが入った。
「あの・・・無理ですよ」
「ええ⁉︎ なんでさ⁉︎」
「だって、昇格試験って確か今日ですよ。それに次の昇格試験は半年先です」
「えええええっ⁉︎」
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フルルから驚愕の情報を聞いたあと『転移』のスキルを使って街に戻ってたヒビキは中央ギルドに飛び込んだ。
毎度試験者はここに集まるらしい。
その事を受付嬢に尋ねた。
「今日が上級冒険者への昇格試験の日って本当⁉︎」
「え、ええ。これから始まります」
「今日を逃すと半年先って事も本当なの⁉︎」
「はい」
なんてこった。 ヒビキは愕然とした。
「なんでさ⁉︎」
「何がでしょうか?」
「昇格試験が半年に一度しかない理由! 月1でいいじゃん⁉︎ 来月には・・・いや半月あれば昇格試験を受けるだけのポイントが溜まるのに⁉︎」
「そんなこと言われましても規則ですし、そもそも試験を受ける資格を持つ人なんて、そう数がいるわけじゃないので半年に一度で十分なんです」
確かにそれはそうだ。上級冒険者までいける奴なんて冒険者全体からみれば一握りだ。わかる。わかりはする。でも納得できるかといえば別の話だ。
「俺、ちょっとだけポイント足りないんだけどなんとかならないかな?」
「無理です。規則です」
受付嬢は簡潔にキッパリと断言した。
「で、でもなんか方法ないの」
「そうですね・・・過去には都市や国家に多大な貢献をした冒険者を昇格させた例はありますが、何が心あたりはありますか?」
そう尋ねられたがある訳がない。しいて言えば厄災を防ぐ一助になったのだが、あの事件で一番活躍したのは天位の7番カテュハさんである。俺やたわわちゃんはそのサポートという位置付けだろう。そしてそれに対してはポイントが入ってきている。言い換えるなら昇格するほどではないのだ。
「・・・・・ない」
「では、半年後またいらして下さい」
そうにこやかに追い払われた。
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追い払われたヒビキはかといってそのまま帰る気にもなれずにぼんやりとしていた。
そうする内に今回の試験者達が集まってきた。
なるほど、確かにそう人数がいるわけじゃない、せいぜい5、60人ってところだ。
「なるほど、仮に全員が受かったと仮定しても上級冒険者になるのは年に100人ちょっとか・・・そりゃ、それくらいなら頻繁に試験する必要はないかもしれないけ・・・・・・・えっ? ええええぇええ⁉︎」
ヒビキは、その5、60人の中に金髪碧眼の美少女を見かけてそれまでの思考が吹っ飛んだ。
「たわわちゃん!」
ヒビキが彼女の名前を呼んだら、ヒビキの存在に気がついた彼女は軽く手を振ってくれた。
以前よりちょっとは打ち解けてくれたなぁ、と嬉しくなるが今はそれより大変なことがある。
「たわわちゃん! どうしてここに?」
「? どうしてって上級冒険者になる為に昇格試験を受けに来たんだけど、ヒビキもそうでしょう?」
「・・・俺はちょっとポイント足りないんだ」
「だったら何でここにいるの?」
「なんでだろうね・・・」
そんな会話をしながらも、内心焦りまくりである。
マズイ、マズイ、マズイこのままたわわちゃんが上級冒険者になったらまた差が広がるではないか。
なんとかならないだろうか? と、考えてみるもなんともならなかった。
俺の方はどんなアイディアも浮かばないし、たわわちゃんが不合格になることを祈るような男にもなりたくない。
結局、
「昇格試験頑張ってね」
と、応援するしかなかった。




