80 ドレステルの戦い、その7です。
フルルと一緒にあらわれた女の人はとにかく真っ赤でド派手な衣装を着ていた。
歳の割に落ち付きのない女性、というわけでもないだろう。
魔術師の上位職、炎術師が好んで好んでこういう格好をする。炎塊というのも上級魔法だ。おそらく間違いない。
そして、さっきの炎塊で下位悪魔だけでなく闇の幻獣も吹き飛んだという事はアステリアの祝福を保有しているという事だ。
その女性は、
「隊長、助けを呼んできました!」
と、言って近付こうとしたフルルを後ろから蹴っ飛ばした。
「空間術師がいつまでも表に出てるんじゃないよ! さっさと避難しな!」
言っていることに一理はあるがなにも後ろから蹴ることじゃない。
「なにすんだ、あんた!」
「隊長、いいんです」
俺が抗議しようとするのをフルルは止めた。
  
「ダリアさんお願いします」
そう言って頭を下げるとフルルは亜空間ボックスへと入っていった。
で、ダリアという人は、
「ふん。とっとと終わらせるよ。お前無限術師なんだってね。壁になりな」
不機嫌そうに言って、呪文を唱え始めた。
言いたい事はあるが抑えて分身を回した。
「燃えろ。目の前にある全てが燃えて灰になればいい・・・」
ずいぶんと物騒な呪文だ。呪文はある意味、自己暗示に近いので言ってみればなんでもいいんだがそれだけに性格が出ると言われている。
その理屈から言えばこの人は物騒な人だ。意味もなくフルルを蹴っ飛ばしたあたり間違ってないと思う。
そして、魔法が完成した。
「炎の世界!」
瞬間、視界が炎で埋まった。あまりにも広い範囲が炎に包まれた。下位悪魔も闇の幻獣も、そして俺の分身も。
「おい! 俺の分身まで燃えてんじゃねーか⁉︎」
「うるさいね! さっさと引かせないお前が悪いんだろう!グダグダ言ってないで仕事しな!」
「ふざけんな!」
思わず食ってかかろうとしたがたわわちゃんに止められた。
「今は喧嘩している場合じゃない。アステリアの祝福を持ち広範囲攻撃を持つ彼女は必要。ヒビキは彼女の隣で分身を召喚、壁を作って。私は壁を抜けてきた敵を排除する」
確かに喧嘩している場合じゃなかった、さっきまで死を覚悟するような状況だったのだ。
「わかったよ。文句を言うのは後にするよ」
そう言って分身を生み出した。
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「火岩弾!」
降り注ぐ炎の雨が最後の敵を押しつぶした。
敵はもういない。残っているのはもう魔物を生み出す事のない元は瘴気の塊だったものだけだ。
カテュハさんが帰って来ればいずれ消え去るだろう。
まあ、そのカテュハさんが生きて帰ってくるかはわからないが天位の7番が死ぬはずはない。そう思っている。一抹の不安もあるが・・・。
「終わった」
ヒビキは惚けながらそう呟いた。
あれだけいたのだ。そして何時間も戦い続けた。
生き残ったことを喜ぶよりも虚脱感が先にきた。
ぼけっと戦場を眺めていたら、ダリアさんから蹴っ飛ばされた。
ヒビキはごろごろと地面を転がった。
「なにすんだよ⁉︎」
「あんたには聞きたいことがあってね」
「だったら口で言えよ!」
俺の抗議をまるで無視してダリアさんは続けた。
「あのガキが空間転移を覚えているのはどういう訳だい? お前、あいつに無茶をしいているんじゃないだろうね?」
殺意混じりの視線の睨まれたのだが、ダリアさんの言いたい事はわかった。
ダリアさんはフルルを心配しているのだ。
  
(さっきはフルルを蹴っ飛ばしていたくせに)
内心でそう思ったのだが口には出さなかった。
  
「心配しなくても、ゴブリンや角うさぎとすら戦わせてねえよ。フルルの亜空間ボックスのなかで分身を強化する薬の材料を育てていてな。それが戦闘の補助としてフルルに経験値が入っているんだと思う」
ダリアさんはしばらく考えていたが、
「そうかい。だったらいいんだ」
そう締めくくった。そして
  
「仕事は終わったみたいだから帰るよ。ガキを呼びな」
不機嫌そうにそう言った。
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「ダリアさんありがとうございました」
「ふん。二度とその面見せるんじゃないよ」
お礼を言うフルルに彼女はそう返して、転移陣に乗ろうとした。
(なんなんだこのおばさん・・・ツンデレか?)
内心でそう思ったが言わなかった。言ったら燃やされる確信があった。
  
「あ、そういえば、あんたの報酬は?」
「いらん」
「えっ? いや、でも・・・」
「いらんといったらいらん!」
そう言い捨てると彼女は陣に向かい歩き出した。
  
「助けてくれてありがとう」
たわわちゃんがその背中に頭を下げた。
そうだな、よくわからんが命の恩人だ。
「ありがとうございました!」
そんな俺たちの言葉に返事はなくダリアさんは迷宮都市に戻っていった。
残った三人はしばらく無言だったがフルルが真っ先に口を開いた。
「隊長! 解毒剤!」
そうだった。のんびりしている場合じゃない。
急いでヒビキは解毒剤を飲んだ。
これで命は救われたはずだか解毒剤も劇薬の一種だ。それまでに飲んでいたポーションの影響もあるかもしれないが影響が一気に来た。
意識が遠のきそうになるなかで、かろうじて残っている理性で魔法を唱えた。
「メガネ。メガネの代行権」
現れたメガネをフルルに渡すとヒビキの意識は闇の中に吸い込まれていった。
  
  
  
 




