76 ドレステルの戦い、その3です。
森の中で3組目の闇の幻獣と下位悪魔を見つけた時に何かおかしいと俺たちは思い始めた。
「ちょっと、敵の数が多くないかい?」
「問題ない。こちらが一方的に殲滅している」
「ま、そーだけどね・・・ん? どうしたフルル?」
「す、すいません、少し嫌なことを思い出しちゃって」
「おい、顔真っ青だけど大丈夫か⁉︎」
「大丈夫です」
そんな事を話していると偵察隊が瘴気の歪みを見つけた。
見つけたのだが、
「でかい・・・」
偵察隊の一人がそう呟いた。
こう、明らかにヒビキが知っている瘴気のサイズではないのだ。
しかも、瘴気の周りを闇の幻獣と下位悪魔が埋め尽くしていた。
数はぱっと見わからない。わからないくらい多い。
さっきまで倒した奴らはほんの一部だったのだ。
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「最悪だ。厄災だ」
でかい瘴気と敵の群れを見てカテュハさんが緊迫した声で言った。
厄災、そうかもしれないと思ったが本当にそうだったらしい。
厄災。 瘴気の中でも特大サイズの代物で普通の瘴気より桁違いの魔物を吐き出す。
そして、もっとも厄介なのは王クラスの魔物を生み出すことだ。生み出された王は下位の魔物の大群を引き連れて人を襲う。
それこそ、厄災のせいで都市ごと滅んだ例もある。
目の前の敵の多さを考えるとあり得る話だ。しかも、ほとんどの冒険者が太刀打ちできない闇の幻獣、最悪の二乗だ。
さて、どうしようかとヒビキが考え始めた時にはカテュハさんは方針を決定していた。
「私が瘴気の中に入ってコアを始末する。上手くいけば王が産まれる前に瘴気を消せる」
瘴気はいわばゲートの様な性質を持っていて、内部にエリアを抱えている。そしてエリア内にあるコアを破壊すれば瘴気は消える。確かに王が産まれる前に瘴気を消せれば最善だが普通一人で行くとこじゃない。だが天位の7番に迷いはなかった。
「だが、王が産まれようが産まれまいが瘴気が消えた時点で外の連中は守りに徹する必要はなくなる訳だ。近くのドレステルを襲いにいく」
あれだけの数がドレステルを襲えば莫大な死者が出るだろう。ドレステルにはバカンス中の冒険者もいるだろうがアステリアの祝福を持っている冒険者がいるとは限らない。もしいても散らばった闇の幻獣を始末して回るのは困難だろう。
「ヒビキ、お前は伝令を出してドレステルに厄災の情報を伝えろ。それからフルルと亜空間ボックスに入って・・どれだけ兵隊を出せる?」
先ほどまでの態度とは一変、逡巡も反論も許さない声音だった。
「240、いや伝令に一人・・・念の為二人使うから238かな」
「全部出せ。で、そこに陣取れば攻めて来るから迎えうて。たわわはヒビキの兵隊を利用して囲まれない様にしながら闇の幻獣を狙え。闇の幻獣はお前にしか倒せない」
「わかった」
「死ぬまで戦おうとするなよ。いざって時は亜空間ボックスに逃げ込め」
「・・・・」
それにはたわわちゃんは答えなかった。困ったたわわちゃんだ。
「たくっ、ヒビキ頼むぞ」
そういうとカテュハさんは走り出した。
あっという間に瘴気の塊に近づき、カテュハさんに気がつき襲いかかった下位悪魔を踏みつけながら瘴気の塊にダイブした。
「はっや・・・と、じゃあフルル」
「う、うん」
フルルが出した入り口に立った。
「たわわちゃん無理しちゃ駄目だよ。それは俺の兵隊にやらせればいい」
「・・・わかった」
言葉を交わして亜空間ボックスに入ったが戦略的に正しいとはいえたわわちゃんを置いて安全な場所に避難する自分が正直ちょっともどかしい。
とはいえ思い悩んでいる暇はない。
いま、たわわちゃんの護衛に140人しかいない。その程度じゃあ全然足りない。
俺は森の索敵に回していた中でドレステルに一番近い二人を伝令に走らせ、近くにいた分身をここに呼び寄せた。そして離れすぎている分身は一度リセットして、再召喚した。魔力が勿体無いが仕方がない。装備を整え秘薬を飲ませると外に放り出した。
外ではすでに戦いが始まっていた。
盾を構えた前衛と魔物がぶつかった。
下位悪魔だったら押し返せる。
だが、下位悪魔に紛れた闇の幻獣はどうしようもない。
崩されると思った所でたわわちゃんが闇の幻獣を切り裂いた。相変わらずの神速である。
まずは先行き好調と言ってもいいだろう。
とはいえこれくらいでは敵の数が減った様に見えない。それくらい数が多い。
「ここまで数的不利な状況は初めてだな・・・」
俺はなんとも言えない嫌な気持ちを抱えながらそう呟いた。




