71 空間術師の成長、その2です。
転移のゲートを抜けた俺とフルルは雪山の山頂に立っていた。前に氷青鋼を掘り出した場所だ。
前の時は入念な準備とおよそ丸二日の時間をかけてここまで来た。
今回はおよそ10秒だ。
「凄えな・・・」
俺は呟いた。
便利な能力だ。更に言えば便利すぎて危険な能力だ。慎重に使い方を考慮する必要がある。
「でも、その前に・・・」
せっかくなので氷青鋼の補充をする事にした。
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例によって例の如く俺とフルルは亜空間ボックスの中に避難した。外は寒いのだ。
そしてやっぱり例の如く分身達が氷青鋼を掘り出している。
「・・・・」
「・・・・」
とりあえず、お茶でも飲んで一息ついた。そしてフルルに話しかけるというより一方的な独り言を始めた。
「この迷宮都市が誕生してからおよそ800年、ついに空間転移の能力を持った空間術師が誕生した」
「うん? いきなり何?」
「前々から、空間術師はそのような能力を持ちうるのではと考えられていたが、実際に確認できたのは今日が初めてだ。それもそのはず、今迄レベル7が最高レベルだった空間術師。そんな空間術師の常識を超えレベル20まで到達して転移の魔法を覚えた稀代の空間術師、その名はフルル=ゼルト」
「・・・いや、だから何なの?」
「そんなフルル君の噂は瞬く間に迷宮都市に出回り、そして名だたるクランが天才空間術師を仲間に加えようと名乗りを挙げた。フルル君は心優しい主人とうまくやっていて、クランに加入する気などないのだがそんなフルル君の心情などお構いなしである」
「・・・心優しい主人・・・」
自分で言って恥ずかしくないの? そんな顔している。
隊長は全然優しくないよ。そんな顔ではない・・・はずだ。
「熱烈な加入交渉がクラン同士の対立を招き、実際に剣を交える武力衝突にヒートアップするまでさほど時間はかからなかった。天才空間術師を巡って血が流れ、報復が行われ、それが更に報復を呼びクラン同士が殺しあった。そう戦争が始まったのだ」
「いや、始まらないし」
「後の世で、フルル争奪戦争と呼ばれた冒険者達の争いは当時の上級冒険者の半数が死に、優しい主人とフルル君本人が屍になった事で終戦を迎えたのであった。めでたしめでたし」
「めでたくない。全然めでたくない。さっきからいったい何の話をしているの?」
「いや、転移の魔法が周囲に知られたら、一体どうなるかを予想してみたんだけど」
「大げさすぎ。いくらなんでも戦争になるわけないし」
「まあ、そこはちょっと大げさだったかな。でも、クランの上級冒険者達がこぞってフルルを取り囲むことにはなると思うよ。この能力便利すぎる。遠征が必要なくなるもん」
「・・・・・」
「そして、俺にもフルルを譲ってくれっていう申し出が山程くるだろうさ。金や権力・・・最悪力ずくででもな」
「・・・・・・・」
「なあ、フルル。平和が一番だと思わないか?」
「思う」
「だよな・・・休日はのんびりと過ごすのがいいよな」
「うん」
「だから、転移の事は内緒な。こっそりと誰にも知られずに使おう」
「うん。わかった」
という訳で転移の魔法は当分の間、内緒にすることで一致した。
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現在の亜空間ボックスの使い道
合計20
休憩室1
ギロチン部屋1
貯水池1
薬剤室1
弓の訓練場1
資材室1
紫煙花2(縦に並べている)
資源置き場2
解体室4
武器庫4
空き部屋2