63 メガネの弓使い、その4です。
「ねえ、そろそろ街へ戻りませんか?」
弾鋼の選定を終えたメガネがそんな事を言ってきた。
日没までの時間を考えるとまだまだ時間はあるので、正直まだ弾鋼を採りたい。
「もうちょっと待ってくれないか?」
「そうしてあげたいのは山々なんですが大切な用事があるんです」
「大切な用事? なに?」
「あのですね、カイル様がもうすぐサラマンダーを討伐して戻ってくるんですよ。あっ、カイル様というのは中級冒険者のなかでも将来有望でいずれはトップに立つだろうと言われている程の冒険者なんです。ついこの前は雑誌の週刊冒険者ジャーナルにも特集を組まれたんですよ。貴公子、貴公子カイル様と呼ばれているんですよ。私も憧れていてですね、パーティーに入れて下さいと頼んだんですが、俺たちは頂点を目指しているから女性を入れることで惚れたはれたの不協和音を生むことはしたくないんだって断られたんです。残念ですけど仕方がないですよね? そんなストイックな所がカイル様の素敵な所なんですから。そんなカイル様がつい4日前、サラマンダーを狩るために遠征に出掛けたんです。私、カイル様のお見送りをしたんですけど、純白の鎧を纏い朝日に照らされたカイル様はまさに英雄の様な佇まいで素敵でした。そして、予定通りならそろそろ帰還するはずなんですよ。サラマンダーとの死闘を終えてよりたくましくなられたカイル様を一目だけでも見なければ死んでも死にきれないです」
「・・・・・」
長々と超どうでもいい話だった。
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「急いで下さい。この先のゲート広場です」
急遽、街に帰還した俺たちはストーカー予備軍の案内のもととある広場に向かっていた。
つまり、またしても押しきられたんだ。
正直不甲斐ない気もするが、「呪いますよ。朝、昼、晩と1日3回あなたの事を呪いますよ」とか言われると不気味で不気味でしょうがない。
もういっそ1人で飛んで帰ってくれと言いたくなったがそういう訳にもいかない。
即席だろうが何だろうが一度パーティーを組んだら街に戻るまでは解散しないというのは冒険者の暗黙の了解だ。それを破っても罰則はないが悪い噂がつきかねない。せっかく中級冒険者として少しは有名になってきて、普通にパーティーを組めるかもしれない今、いらないリスクは背負いたくない。
だから、まあ仕方がなかったんだ。今日は早上がりだと諦めて帰ってきた。
そして、とあるゲート広場。わりとにぎやかで冒険者たちの数が多い。どうも人気のゲートらしい。
せっかく来たのでそのカイル様とやらを一目見ようと、それらしき人物を探していたら、とある人物を見つけてそれどころじゃなくなった。
周囲の男どもの視線を集めまくっている金髪の美少女。そう、愛しのたわわちゃんである。
え⁉︎ なんだ⁉︎ こんな所で出会えるなんて、なんてラッキーなんだと声をかけようとしたら、白い鎧をきた美男子が一目で分かるくらい情熱的な表情でたわわちゃんに話しかけていた。
「なんだ、あのキザ野郎・・・」
いや、まったく知りもしない男なんだが、たわわちゃんを口説いている時点で俺の評価はすこぶる悪い。
とはいえ、どうも男が一方的に話しかけているだけでたわわちゃんの方は相手にしていない。男の方は身振り手振りを交えて話しかけているが、たわわちゃんは首を振って横を通り抜けようとした。
したら、男がたわわちゃんの肩を掴んだ。
それを見て、俺がたわわちゃんと男の間に割って入ろうと思った瞬間、男が宙を舞った。
男はそれは見事な空中2回転を決めたあと顔面から地面に着地した。
そして、顔を上げた男をたわわちゃんがそれは冷たい冷たい視線で睨むと男はわたわたと逃げていった。
周囲の奴らはヒューとかピューとか感嘆の声をあげたり、口笛を吹いたりしていた。ちなみに俺は口笛を吹けない奴なんだが気分は一緒だった。
まったく、何処の馬の骨かは知らないが図々しい奴だ。大体、たわわちゃんがなびくわけないじないか。なんせ結婚の約束をした俺ですら、デートの誘いは全部断られているんだからな!
・・・。
・・・。
・・・・自分で言っときながら少し虚しい。
と、そんなことを考えていたら隣から凄く不快で怪しい気配がした。
横を向くとアストリア嬢がブツブツと呟いていた。
「なに、あの女? カイル様から話しかけられて、肩を触られて、挙句に投げとばすなんて何様のつもりかしら? しかもあのすまし顔。ちょっとくらい人より美人で髪が綺麗で胸が大きくて腰が細くて手も足もすらっとして・・・・・女は中身! 性格が大事なの! あんな冷たい目で人を見るような女は性格も冷たいに決まっているの! そんな冷たい女に親切にしようとしただけのカイル様を投げとばすなんて勘違いもいいところだわ!・・・呪ってやる・・・呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる・・・・」
「ああ、あいつがカイル様だったのか」
俺は延々と続く呪いの言葉を隣で聞くはめになった。




