61 メガネの弓使い、その2です。
「じゃあ、北を目指すか・・・」
32番ゲートを潜り抜けた俺はパーティーメンバーにそう声をかけた。
「うん」
と、フルルが返事して、
「は、はい」
と、グルグルメガネことアストリア=パールさんが返事した。
うん。結局断れなかったんだ。遠回しに断ろうが、直接的に断ろうが延々と愚痴と呪いの言葉が紡がれてこっちが根負けした。
クーヤの時といい押しに弱いなぁ俺。
でも、いい訳させてもらうなら、面倒くさい性格以外の条件はいいんだ。
報酬は少量の弾鋼でいいと言われた。というより新しく弓を新調するので自分で素材を集めているらしい。弾鋼は冒険者にはぼぼ使われないのだが唯一の例外が弓使いだ。しなる金属、これほど弓に適した素材はない。こちらもそれくらいで済むなら構わない。
そして、こちらが無限術師と空間術師という異色のパーティーだと聞いても「あ、やっぱり止めます」とは言わなかった。というか、俺たちはどちらも非戦闘職でありながら中級にいる変わり種として結構名が知られてきているらしい。それは結構なことなのだが、個人的には無限術師が非戦闘職と呼ばれていることが不満だ。無限術師は真っ当な戦闘職だっつーの。
とにかく、このメガネ娘とはこれ一回限りの即席パーティーなのでさっさと弾鋼を採掘して終わらせてしまう事にした。
俺たちは隊列を組んで北に向かった。
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途中、炎の小人どもに出くわした。弾鋼の採掘場に近づいている証拠だ。数も10人と大したことはない。
一息に押しつぶそうと考えていたら、
「私の出番ですね。私の力を見せてあげます」
と、言ってきたので心配になった。
「いきなり大丈夫か? 最初は見に回って攻撃するタイミングを見計らうべきなんじゃないか?」
「ふっふっふっ。必要ないです。私はですねぇ、魔術師の下位互換と呼ばれる様な同業者達とは格が違うのですよ」
メガネ娘は自信たっぷりに言い放った。
正直、その言い方はどうなの? と思わなくもないが自信があるなら結構なことだ。まるでそうは見えないがこいつは匠と呼ばれる弓使いなのかもしれない。
弓使いは無限術師程じゃないが、結構な不遇職として扱われている。その理由はさっきメガネが言った魔術師の下位互換というセリフが全てを表している。普通の弓使いと普通の魔術師だったら普通の魔術師の方が確実に役に立つのだ。主に攻撃力の問題で。
だが、ごく少数の割合で匠、または名人などと呼ばれる弓使いがいる。
彼らは後方から戦場を見渡し、時に前衛と渡り合う敵に一撃を与え、時に僅かな隙を逃さず急所を射抜き、時に苦戦している味方を逃す為に敵の足を射抜く、まさに後方支援のスペシャリストとして活躍する。
だが、それには広い視野、戦機を読む勘、仲間と敵の動きを予想する経験、そして、一瞬の隙を逃さない素早い射形と点を射抜く正確さが高い領域でバランス良く揃っていなければならない。
それらを持ち合わせない未熟な、いや普通の弓使いにとって敵と戦っている前衛を避けながら敵だけを射抜くのは至難の技だ。実際、前衛が弓使いの攻撃で頭を撃ち抜かれることもままあることなのだ。
結局、前衛とタイミングを合わせて射線を開けて射るのが普通の弓使いの戦い方で、だったら別に弓使いじゃなくて破壊力抜群の魔術師の方が良くね? となるのだ。
そして、メガネ娘の自信満々さからもしかしたら彼女は匠と呼ばれる弓使いなのかと思ったのだが心底意外なことにメガネ娘はその上を行った。
「よいしょ」
と担いでいた盾だと思っていた板を地面に転がすとその上に乗った。そして、
「ウインドナックル!」
その叫びと同時に風が集まってメガネ娘を板ごと上空に吹き飛ばした。
「・・・わーお⁉︎」
「えーーーっ⁉︎」
地上に取り残された俺とフルルは空を見上げながら思い思いの言葉で驚きを表現した。




