60 メガネの弓使いです。
クーヤと約束を交わした翌日、俺は中級冒険者が集まるギルドに足を伸ばした。
理由はもちろん金を稼ぐ為である。それと同時に上級冒険者を目指す為である。
俺はギルドの壁に貼り付けてある依頼書を眺めた。依頼書とはギルドが冒険者に取ってきて欲しいという注文書である。主に商人達が頼むのだ。これを持ってきた所で買取査定が上がる訳ではないがギルドから評価ポイントが付く。
初級から中級に上がるには指定取得物の内30品を納めれば良かった。
そして、中級から上級に上がるには依頼書をこなし評価ポイントが基準に満ちた所で都市の政府にテストされる。まずは評価ポイントを貯めなければならないのだ。
余談ではあるが初級冒険者の溜まり場ギルドにはこの依頼書システムはない。初級の冒険者に取得できるものなど高が知れているし、ゴブリンの魔石やオークの魔石などは初級冒険者の絶対数が多い為にそこそこ数が揃っているから商人がわざわざ依頼書を出す必要がないからだ。
こう、依頼書の前で注文を品定めしていると、こう一端の冒険者になったなぁという気がする。
その中で俺たち向けで、報酬の良い依頼を探した。
そして、一つの依頼書に目が止まった。
弾鋼の依頼書。
弾鋼はその名の通り弾力のある金属を作れる。冒険者が金属に求める要素は切れるとか硬いとか軽さなのでほとんど使う者はいないのだが、武具以外の面では需要がある。いわば輸出用の金属だ。
輸出用として人気はある。よって報酬が期待できる。更に32番ゲートを潜ったファーストエリアの北端と日帰りの近場にあるのだが冒険者はあまり取りに行きたがらない。
理由は炎の小人どもの縄張りだからだ。炎の小人は半精霊半魔物で小さく強くもないが体に炎を纏っているし、とにかく数が多いので連戦、連戦を強いられる。特に弾鋼を採掘中に後ろから来られたらたまったもんじゃない。
ただ俺たちには相性が良い相手だ。俺たちは連戦を苦にしないし、採掘も採掘係と護衛役の二手に分かれれば済む話だ。そして氷青鋼の武具は魔法全般に強いが、特に火属性に対しては鉄壁の守りを見せる。
それらもろもろを勘案すると失敗する要因は見当たらない。
俺は弾鋼を採掘する為にギルドを後にした。
そして、32番ゲートの近くまでやってきた所で後ろから声をかけられた。
「あのー、ちょっとよろしいですかー?」
「俺?」
妙に間延びした声に振り向くとメガネをかけ盾と弓を背負った女性が立っていた。
「俺に何か御用で?」
「あの、えっと、あなたギルドで弾鋼の依頼書を眺めていましたよね?そして、32番ゲートに今向かっているって事は弾鋼を採掘しに行くんですよね?」
「・・・そうだけど?」
「なら私を仲間に入れてもらえませんか」
なんと、パーティーのお誘いである。ヒビキにしてみればとても珍しい一幕である。
それを受ける受けないに関わらず、真摯に対応したいと思ったが、そんな気持ちは、
「ご、誤解しないで下さいね。変な気はないんですよ変な気は。私には弾鋼が必要だからあなたに声をかけているだけで、これを機に仲良くなろうとか思われるのは困りますし、そもそも私にはカイル様という心に決めた方がいるので勘違いしないで下さい」
出会って10秒、跡形もなく消え去った。
なんだなんだ? このグルグルメガネ。
「ああ、誤解はしないよ。俺にも心に決めた人がいるから。それに今のところ仲間も必要としていない。俺とこいつだけで充分だ。だから他の奴をあたってくれ」
そう言って、「えっ? えっ?」と戸惑うメガネを置き去りにして歩き始めたのだが、しばらくしてから後ろからブツブツと声が聞こえてきた。
「信じられない。まだ何も説明していないのに断るとかありえない。だいたい、なんでそんなにふてぶてしいの? まだ15、16ぐらいじゃない? 私20だよ。年上には敬意を持つのが礼儀なのに・・礼儀は何処にいったの礼儀は?」
ブツブツとした文句は声は小声だが、確実にヒビキの耳に届いていた。そして、ヒビキは歩いているのにその声は何時までも聞こえてくる。つまり、付いてきているのだ。
「何か?」
ヒビキに振り向き問い詰めた。
「別に何も、ただ単に向かう先が一緒なだけじゃないですか?」
「・・・」
「・・・」
ヒビキは再び歩き出した。
そして、再びブツブツと文句が聞こえてきた。
「大体、二人で弾鋼を取りに行くなんで無謀だって思わないのかしら? そんなに自信があるの? あ、だから弓使いの私を見下しているんだ。弓使いなんて何の役にもたたないって思ってるんだ。 ・・・呪ってやる・・・呪ってやる。呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる」
背後から付いてくる呪いの言葉にヒビキにうんざりした。
「なあ、フルル」
「いやです」
「・・・何も言ってないよ?」
「あの人の相手をするのは隊長の役目」
「・・・・」
後ろの呪いのメガネをフルルに押しつけようという考えはばればれだったらしい。釘を刺された。
しょうがない。自分で相手するか。
このまま延々と付いて来られたらたまったもんじゃない。 割と本気でうんざりしながらも話し合う事にした。