05 初めてのパーティー戦です
俺たちはエリアに入り獲物を探していた。このエリアはゴブリンしか出現せず、荒れ果てた荒野にはめぼしい物もあまりないので初級の冒険者もあまり寄り付かない。
あえて人気のないエリアを選んだ。無限術師と空間術師のコンビという、もしかすると有史以来初の組み合わせは確実に悪目立ちするだろう。余計な厄介ごとは起きては欲しくない。
というより、人気エリアというだけで俺は嫌いなんだよ。
人気エリアって言うからにはたくさんのパーティーが入り込んでいる事が分かるだろ? 別に大勢いたって奪い合いをやるほどギスギスしているわけじゃないし、すれ違う時に会釈するぐらいのモラルはあるけどさ。でも会釈する時に「あれぇ?オタク一人なの?パーティーメンバーはいないの?」といった視線を向けらるのが非常に腹立たしい。お前ら全滅しろよとか思ってしまう。・・言わないけどな。
4、5人のパーティーが仲良く協力して戦っているのを横目に俺はぼっちソロとか真面目にキツイ。孤独感がガンガンくるよ。
そういう訳で、俺みたいな奴らは必然的に不人気エリアが狩場になっていくんだよなぁ。
俺がリア充と非リア充の格差に思いを馳せていると、フルルが喋った。
「きた。ゴブリンです」
言われて注意を向けると、ゴブリンが4匹こちらに向かっている。このエリアは何もない荒野だが、それだけに視界が広く不意打ちされないという利点がある。
「じゃあ、副隊長。よろしく」
「わかりました」
フルルは頷いて地面に手を向けた。すると、地面に5重の丸い紋様が浮かび上がった。亜空間ボックスへの入り口だ。因みにこの印が見えるのはフルルとフルルが選んだやつだけだ。
そのままフルルが入り口に立つとフッと姿が消えた。俺も続く。入り際に1号に言う。
「じゃあ頑張れ。超頑張れ」
「任せて下さいよ。足手まといのいないおれの実力を見せてあげますよ」
……主をディスるとか分身のくせに生意気なんだが、一体どうなっているんだろう?
未だ謎の多い自分のジョブに、首を傾げながら亜空間ボックスへと入った。
「へー。こうなっていのか」
そんな第一声をあげた。
亜空間ボックスの中は5メートルの正方形で壁も天井も淡い白色となっていた。何か目に優しい気がする。
中には丸いテーブルと数脚のイスが置かれていた。また、隅っこには布団や枕が寄せられていた。
イスや布団の数からしてフルルの前のパーティーが8人組だったのかなと思った。
「イス借りていい?」
「うん」
俺はイスに座ると1号の状況に集中した。因みに俺がどう1号を把握しているかと言うと脳内にテレビと無線が備わっている感じだ。
その1号はゴブリンに突っ込むと奴らの棍棒でタコ殴りにされていた。超使えない・・・。
俺はリセットしてスタートさせた。魔力が1ポイント減った。
1号が隣に立った。
「おい、超やられているじゃねーか! 実力見せるんじゃねーのか」
「そんな事言ったて俺あんたの分身っすよ⁉︎ 実力なんて高が知れてるでしょうが!」
くっ⁉︎ なんてムカつく分身なんだ。
「うっさい。とっとと行け!」
「いーーーー!」
謎の奇声をあげながら1号は亜空間ボックスから出ていった。
うん。作戦自体は上手くいっている。出入り口を通れるのはフルルが認識した奴だけなんだが、1号も問題なく通れた。
これなら上手くいくと思っていたら、また1号がやられた。
俺はリセットしてスタートさせた。魔力が1ポイント減った。
「おい!」
「しょうがないでしょうが! 4対1ですよ!」
「もう一回いってこい!」
「ウリャーーーー!」
再度、1号は突撃した。
そんな1号を観戦していると。フルルが、
「あの、せめてナイフぐらい持たせた方が良くないですか?」
と、聞いてきた。
うん。わかるよ。素手で魔物に立ち向かうとか鉄体士ぐらいだもんな。
でもさぁ・・・、俺は1号を素手で戦わせている理由を話した。
「1号は戻ってくるけど武器は戻ってこないんだよ」
いや、むしろ俺だって最初は剣を持たせたんだ。両親から貰った餞別のお金で買ったやつをな。でも、最初の戦いでゴブリン3匹を相手にした時に、敵わないと逃げたんだけどその際にあっさりと失ってしまった。あの時は超凹んだ。
分身に武器を持たせるなら使い捨てが前提だが。武器は総じて高価だ。最低ランクのナイフでも2、3万ゼニーはするし、剣となると7、8万ゼニーかかる。因みにゴブリンの魔石は2万ゼニーが相場だ。割に合わないにも程がある。
「一応、分身に武器を持たせる計画はあるんだが、その準備にも金がかかるしな。もう少しはこのままだ」
「そうなんですか」
と、そんな話をしていると、1号がまたやられた。
リセットしてスタートさせた。魔力が1ポイント減った。
「まだまだ! ネバーギブアップっすよ!」
「ちょっと待て」
そのまま突撃しようとした1号を呼び止めた。
「なんすか?」
「ちょっと作戦会議だ。ここから観戦していたんだが、綺麗に戦おうとするな。もうちょっと泥臭くいけ」
「というと?」
「ゴブリンは確かに群れている上にすばしっこい。だがチカラはないし体格は小柄だ」
ゴブリンの体格はフルルと同じぐらいだ。俺は特別ガタイが良いわけじゃないが、それでもゴブリンには勝っている。
「いいか、敵の攻撃を無理に避ける必要はない。相打ちでいいんだ相打ちで。ゴブリンの体格なら確実にダメージは残る。そしてお前は何度だってやり直せる」
「死なば諸共ってやつですか」
「そうだ。いってこい」
「しゃらぁーーーー!」
そうして1号はまた突撃した。
そして、相打ち作戦は上手くいった。1号はそれから三回やり直したがついにゴブリンを1匹倒した。4対1が3対1になれば大分楽になる。更に2回やり直した後に更に1匹倒した。
「あと2匹っすよーー!」
「よし、頑張れ」
「1号さん頑張って」
それから程なくして、
「終わった。副隊長外に出よう」
外に出ると1号が雄叫びをあげていた。隊長の威厳があるから俺はやらないけど気持ちはわかる。というか正直俺だって叫びたい。この半年どれだけゴブリンから逃げていたか。それを考えると1号を止める気にはならない。
1号の足元にはゴブリンの死体が二つ、魔石が二つ。魔石の入手率50パーセントなら幸運だと言える。
俺は魔石を拾いながら、半年間変わらなかった自分がついに動き出した事を実感した。