57 蒼の武具、その6です。
ヒビキ、フルル、カテュハの異色の3人組はその後も順調に進みボスの部屋の前までやって来た。
扉は開いている。つまり、ボスに挑むことは出来る。
それを見てカテュハは、これはマズイかなと思った。
このアリ地獄の迷宮のボスの女王アリは土属性のモンスターで自身を起点とした『黄泉沼』を好んで使う。
それを使われれば女王の周辺は沼地と変化し満足に動けはしない。
つまり、近距離戦闘は難しいのだ。そして、カテュハが見た限りでは二人は遠距離攻撃を持っていない。
ならば引き返した方がいい。そうカテュハは思った。
だけどなぁ、勢いがある奴ほど引かないからなぁ・・・。
若く、才能がある奴ほど調子に乗るものだ。そして、勢いあまって足を滑らせる。そんな、有望な奴らの末路をカテュハは何度も見てきた。
こいつらもそうだ。アリ地獄の兵隊アリ共をものともせずに進むこいつらは確かに才能がある。そして、順調に進みすぎた故にボスも楽々と倒せると根拠のない自信を持っても仕方がないだろう。そんなタイミングで静止の言葉を掛けられても煩わしいと思うだろう。自分なら大丈夫だと思うだろう。
そんな自信満々のこいつをどうやって諌めるか? などと思案していると、ある意味思いもしない言葉がヒビキから出てきた。
「うーん・・・ねぇカテュハさん。ボスの部屋に入るのはやめときましょう」
「・・・・それは構わないが、なんでだ」
「この先にいる女王アリは周りを沼地にするんですよ。となると遠距離攻撃のない俺たちにはちょっとキツイんです。まあ、カテュハさんが戦うなら話は別ですけど、そんな気ないですよね? 第一、俺たちはたわわちゃんを探しに来たんであってボスと戦いに来た訳じゃないですしね」
「・・・・・・・・」
ヒビキの言ったことは正しかった。だが、正しかっただけに驚いた。
えっ? ・・・えっ? こいつ、タワワに新しい装備を着た自分を見てもらいたいなんて馬鹿みたいな理由でここまで来ておいて、道中「俺たちつえー」とか「これが、氷青槍の力だ!」とか「今日から俺たち蒼の軍勢と名乗ろう」とか挙句に、「たわわちゃんがピンチの所にかっこ良く助けに入ってラブラブになるにはどうすればいいのか?」なんて馬鹿な発言しておいて突然何この正論? いったい全体どうなって・・・。
「反対ですか?」
と、そこで我に返った。
「いや、私も引いた方がいいと思う。だけど、なんで女王アリの能力が分かるんだ? 知っていたのか?」
「いえ、実は街の冒険者図書館に分身を置いていて、色々と情報収集に当たらせているんですよ」
「・・・・」
あまり、頭のよろしくない男だと思っていたのに意外な頭のキレを見せられ戸惑わざるを得なかった。
これは詐欺だ。つい、カテュハはそう思った。
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「結局、出会わなかったなぁ」
「ああ、そうだな」
「残念、今日はたわわちゃんに会える日じゃなかったのか、また今度だ」
あれから3人は何事もなく都市に帰還した。結局、カテュハは一度も手を貸す必要がなかった。
近くのギルドで魔石を換金して解散する事になった。
因みに報酬は断った。カテュハは何もしていないからだ。
「本当にいいんですか? 万が一俺たちが危険に陥った時の護衛だと考えれば報酬を受け取る権利はあると思うんですけど?」
「ああ、構わない。今日の事は暇人のきまぐれだ。中級まで上がる無限術師がどれほどのものなのか見てみたかっただけだから・・・そうだ、きまぐれついでに聞きたい事があるんだがいいかな?」
「なんです?」
「どうして天位の座を目指すんだ?」
カテュハは本当にきまぐれでヒビキに聞いた。
「天位を目指す理由?」
ヒビキは迷わず答えた。
「それはもちろんたわわちゃんをお嫁さんにする為ですけど」
「いや、その話はタワワから聞いているけど他にもあるだろう?」
「他? ・・・他の理由?・・・・・・?」
「いや、お前は一度タワワをものにできるチャンスがあったにも関わらずそのチャンスを自分で手放しただろう? それはタワワより、大事な理由があるからじゃないのか?」
「ああ、確かに・・・でも、そんな大それた理由じゃないですよ。強くなりたいし、お金も欲しかったし、女の子からモテモテになりたかったし、歴史に名を残すのも悪くないなと思ったし・・・まあ、そこら辺まとめて言えば冒険者って仕事が好きだから天位を目指しているんですよ」
「好きだからか、まあそう言うものか」
「そう言うものです」
「だが、冒険者やってりゃ辛い事も嫌な事もあるだろう?」
「うーん、確かに怪我したり、獲物の解体とか嫌ですけどね・・・でも俺、無限術師ですから。辛い事も嫌な事もみんなで分け合えば大丈夫ですよ」
「そうか・・・・なあ、少年」
「はい?」
「タワワから聞いているかもしれないが、私はタワワを将来的に解放してやりたいと思っている」
「あ、それは前に聞いた事あります」
「私はタワワを束縛する気はない。つまり、お前がタワワを口説くのは自由だ」
「お、おぉ・・・・はい」
「あいつは難しいと思うがな。まあ、せいぜい頑張るといい」
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「あのカテュハさんのセリフはあれだ。俺はたわわちゃんのお相手として合格だと、そういうことだよなフルル?」
「うん。たぶん?」
「もしかしたら、今日俺たちとパーティーを組んだのは俺の品定めだったのかもしれない」
「・・そうかもしれない」
「そして、俺は合格したと! 少なくとも口説く権利はカテュハさんから貰った訳だ。いったい何が決め手だったのかな? やっぱ最後のあのセリフが決め手だったのか! あれは無限術師らしい名言じゃなかったか⁉︎」
「うん、確かにかっこいい返事だったけど・・・」
「けど?」
「たぶん隊長は、辛い事も嫌な事も全部、1号さん達にやらせるから大丈夫とか心の中で考えていたような気がする」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「今日の夕飯はシチューにするか」
「うん」
こうして、氷青鉱の武具を手に入れ、天位の7番とパーティを組んだ1日は終わりを迎えた。