56 蒼の武具、その5です。
「格好いい武具を作ったんで、たわわちゃんに見てもらいに来ました!」
そのストレートすぎる理由でタワワに会いに来た無限術師にカテュハは流石に呆れた。
「ああ、前より武具が新しくなっているな。しかも、珍しい青だ。確かに格好いいよ」
「でしょう⁉︎ いや〜、わかってもらえて嬉しいな〜。それで、たわわちゃんはいるんですか?」
「すまんな。タワワは留守だ。今日はアリ地獄の迷宮にいってるんだ」
「ええっ⁉︎」
ヒビキは驚くとちょっと考えこみ、後ろの少年に向かって言った。
「よしフルル、今からアリ地獄の迷宮に向かおう」
カテュハは引き止めた。
「ちょっと待て、アリ地獄の迷宮は中級になりたてには厳しいぞ。全滅するやつらも珍しくないんだ」
「そんなに危険なんですか?」
「ああ・・・」
だから止めとけと続ける前に、
「たわわちゃんが心配でたまらないから今すぐ迷宮に行かないと!」
カテュハはため息をついた。
どうしてタワワといい、こいつといい、若いくせに生き急ぐのか? カテュハには謎である。
まったく、近ごろの若い奴らは・・・そう、言いそうになって飲み込んだ。カテュハだって若い。永遠の20代なのだ。
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「アリ地獄の迷宮がアリが沢山群がってきて地獄のような迷宮という意味なのは詐欺だ」
「それには同感だ」
呑気な感想を聞きながら、カテュハは同意した。
何故カテュハがヒビキと一緒にいるかというと今日1日ヒビキ達とパーティーを組むことにしたからだ。
たいして関わりがないとしてもこのまま死なせるのはどうかと思えるし、また、中級冒険者としてやっていけているヒビキに少なからず興味があったからだ。
カテュハは長い冒険者としての生活の中で無限術師と関わったことがある。レベル3程度の無限術師で分身を3人ほど召喚できた奴だった。正直だからなんだと一言で済ませる程度の能力だった。そんなつまらないはずの能力をどう生かしているのかカテュハが気になるのはそこだった。
ちなみにカテュハが同行を申し出るとヒビキは、
「え⁉︎ それは、つまり天位の7番とパーティーを組むっていうこと⁉︎ おお、それはすごい」
と、上の奴らと違って素直に快諾した。カテュハとしては助かる限りである。
そして、今ヒビキという無限術師の力量を目の当たりにしているのだが、
「これは、すごい・・・のか?」
と、少し疑問形に思ってしまった。いや、カテュハは見ているだけなので、実質ヒビキとフルルの二人だけでアリ地獄の迷宮を進んでいるのだから凄いことなのだが、他の冒険者とあまりにも戦い方が違うので比較しづらいのだ。
まず前列に剣と盾を持った分身が5人並んで立っていた。軍隊アリの突進と吐き出す酸液を盾を使って防いでいる。
そして中列に槍を持った分身が5人並んでいて前列が食い止めたアリに槍で攻撃している。
アリ共はこの10人の分身に次々と倒されている。
更に三列目には遊撃として5人並んでいて、崩れた仲間のフォローや時折、負傷した仲間と役割を交代している。
ヒビキとフルルはその後ろで時折、負傷した奴(というより、装備している武具)を亜空間ボックスに回収して、新しく分身を呼び出し亜空間ボックスの中で武具を装備させてまた三列目に復帰させている。
そんな二人の周りを護衛として5人の分身が固めている。
更に後ろには背後からの襲撃を防ぐ為に5人の盾役と5人の矛役、計10人が2列で展開している。
つまり、常時30人の兵隊が完全武装でこいつらを囲っているのだ。
強力なスキルでなぎ払ったり広域魔法で殲滅するような派手さはないが数の有利を利用して常に優位を保っている戦い方をみて、
これはもう冒険者の戦い方じゃないな。
そうカテュハは思った。この戦い方は冒険者のものではなく軍隊の戦い方だ。
それにしても、カテュハの知る無限術師とかけ離れている。
まず、召喚している分身が30人を超えている。しかも一人一人が初級の戦士や騎士並みに強い。更に新調した武具の質がいい。それはつまりそれだけ稼げるという事だ。じゃなければこれだけの分身に武具揃える事など出来はしない。
しかも、かなりの連戦をしているのに少年たちは、まるで疲弊していない。呑気に「親方はいい仕事しているなぁ」などと新調した武具の性能を確かめている。
うん、他とかけ離れているが確かにこいつらは強い。
そう認めると、どういった能力なのか知りたくなるのが人情というものだ。特に、分身の数の多さと兵隊共の強さの秘訣が知りたい。
一瞬、看破のスキルが選択肢として頭をよぎったが軽く頭を振ってその考えを振り払った。
看破を使用する相手は完全な味方か明確な敵かだ。
タワワにかける事が良くても、一時期パーティーを組んでいるだけの間柄のこいつらに駄目だ。
カテュハは湧き上がる好奇心を押し殺して道理を通した。