54 蒼の武具、その3です。
「あー、やっとついた」
ヒビキは目的地である山頂付近にたどり着くと、そんなくたびれた声を上げた。
フルルの機転で雪崩をやり過ごしたあと大変だった。
まず、あの分身達の反逆が悪意のないただの事故だと納得するのに半日かかった。
その後、亜空間ボックスの入り口は雪で埋まっていたので、内側から掘り返し外に脱出した。そして、ここまで来るのに更に半日かかった。
身体の芯まで冷え切っているが、そんな辛さも報われる様な景色が広がっている。
「すごく、綺麗」
「だな」
フルルの素直な感想に俺は同意した。
二人の視線の先には青みがかった壁面があった。
壁は所々凍結した霜が降りていて、それが日の光を反射して結果、壁面が青く輝いて見える。
しばらく、見入っていたが、風の寒さが冷静な思考を取り戻した。
「やべ、観光に来たわけじゃねぇ。よし、お前ら、この氷青鋼を掘って掘って掘りまくれ」
「「「ォーーーゥ」」」
分身達は前の反省を生かして小声で答えた。
いや、ここは頂上付近だから大丈夫だけどね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はい。おしまい」
「ぐっ・・・フルルお前強すぎないか?」
俺たちは休憩室で、暖かい紅茶を飲みながら、この世界特有のボードゲームに興じていたのだが目下のところ俺はフルルに10戦10敗だった。実のところ、俺はこのゲームが得意で村一番強かったというのに村キングのプライドはズタズタである。
「もう一回。もう一回勝負だ」
「うん」
そして、灼熱の第11回戦が始まった。
・・・。
・・・。
いや、ただ単に遊んでいるわけじゃない。ちゃんと理由があって遊んでいるんだよ。
俺たちが遊んでいる理由、それは寝ない為だ。寝たら分身が消えるし、亜空間ボックスのゲートも開かなくなってしまうからな。良い子は寝る時間でも寝るわけにはいかないのだ。
氷青鋼の掘削作業は長丁場を向かえていた。 なんせ俺が必要とする量ははんぱない。普通の冒険者の何十倍だ。ましてや軽々しく掘削作業に来れる場所じゃない。今後の事も考え、俺は今回の遠征で亜空間ボックスを2つ氷青鋼で満杯にするつもりだ。その為に外では分身達34人全員を総動員している。ちなみに途中で分身達に限界がきて、二度総入れ替えしている。
その甲斐あってか、もうすぐ一つ目の亜空間ボックスが埋まりそうである。
一つ目のボックスが埋まった所で、一度睡眠をとることにしよう。
それにしてもこれだけの氷青鋼をギルドに卸したら、おそらく1000万ゼニーを超えると思う。
「無限術師は金食い虫の職業だけど、稼げる職業でもあるよなー」
俺は氷青鋼が溜まりつつあるボックスを見て呟いた。




