53 蒼の武具、その2です。
「おお、雪だらけ! さみー!」
「凄い銀世界」
31番エリアを進んだ先のセカンドエリアはあたり一面雪化粧だった。そして、視線の先には山がある。この山の頂上付近に俺が求める鉱石がある。つまりは雪山登山だ。
「フルル、ソリを出してくれ」
「うん」
俺たちは出されたソリに乗り込んだ。
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山の中腹まできた。俺とフルルはサンタクロースのようにソリに乗っている。ただしソリを引いているのはトナカイではなく俺の分身達だ。4人がかりでソリを引いている。そして周辺には護衛として分身達が散らばっている。ちなみに分身達は薄いシャツ一枚だ。
シャツの上にコートを着込み、手袋、帽子、マフラーを完全装備した俺としてはさすがに罪悪感が出てこないこともない。
「・・・・・」
いや・・・でも、人数分防寒具を用意する余裕なんてないし、分身を召喚する時に備えつけられている衣類は上着、ズボン、靴までで、まるで全裸はまずいから最低限の衣類は用意するけど後はよろしくね。みたいな感じだし。つまりはしょうがない。世の中しょうがないことはたくさんあるんだ。
だから俺と同じく完全防備のフルルが、
「隊長、さすがに1号さん達が可哀相なんだけど・・」
と、言ってきても、
「フルル、ない袖は振れないし世の中どうしようもない事もたくさんあるんだ」
と返すしかないんだ。
その答えにフルルは沈黙した。どうも自分達だけがソリに乗り、防寒具を着込んでいる事に罪悪感があるみたいだ。
かといって暗くなるのは性に合わない。
俺はテレパシーで1号にお願いした。
「副隊長、そんなに気にする事ないっすよ。俺たちいくらでも替えがきくんすから」
「でも・・・」
「それにね、俺たちこんな寒さなんか気にならないぐらいやる気に満ち溢れているんすよ」
「どうして?」
「ほら、副隊長が仲間に入ったばかりの頃、俺は素手でゴブリンと戦っていたじゃないですか。だから副隊長が仲間に入ったおかげでお金に余裕が出来て、素材を取ってきて武器を作る事になった時スゲー嬉しかったんですよ。なのに蓋を開けてみりゃ、まさかの竹槍だったでしょ? あれはがっかりなんてレベルじゃないですよ。正に絶望です」
そこで俺は口を挟んだ。 ちょっと黙っていられなかった。
「ああ⁉︎ 1号、なに竹槍をディスってんだ⁉︎ 竹槍のおかげでゴブリンをたくさん倒せるようになって俺たちは先に進めたんだろうが⁉︎ 1号だって気に入っていただろうが!」
「ええ、確かにお気に入りでしたよ! いっちゃあなんですが、ゴブリンと対峙した時の竹槍の力強さと安心感は隊長より遥かにわかっていますよ! でも・・でも! でも! でも竹じゃないっすか!」
1号の魂の叫びに俺はしぶしぶながら納得せざるを得なかった。まあ竹だしな。
そして1号は再びフルルに向き直った。
「そんな訳で前はがっかりしたんすけど、今回は正真正銘オーダーメイドじゃないっすか。その為ならシャツ一枚で冬山登山なんざ楽勝ですよ楽勝」
身体中に鳥肌を立てながらも力強く宣言する1号にフルルは納得したみたいだった。
とりあえず一件落着だ。
と、思ったら1号が変な提案をしてきた。
「ところで隊長。そうは言っても寒さで感覚が鈍くなってきていることは事実です。再度召喚するにしてもあんまり早いサイクルだと魔力がヤバイでしょ? ここは一つ、歌でも歌って声を張り上げればまだ頑張れると思うんすけど歌ってもいいですか?」
「歌? なんで歌? まあでも、それで頑張れるなら構わないぞ」
「ありがとうございます。では俺たち分身達の歌、いきます」
と、そこで1号だけでなく分身全員が歌い出した。
「「「俺たちは〜、昨日も今日も明後日も〜、ひたすらに酷使される〜」」
「おい」
俺の言葉は無視された。
「「「雪の冬山で〜、薄着で働く哀れなおれら〜」」」
「おい、実はお前ら不満タラタラか⁉︎」
俺の言葉は無視された。
「「「ほらそこに〜、死んだお婆ちゃんが呼んでいるよ〜」」」
「おめーらに婆ちゃんいねーだろ!」
俺の言葉は無視された。
「「「お婆ちゃん。あなたの孫はどうしてそんなに非道なの〜」」」
「・・・・」
俺はもうなにも言わなかった。
「「「誰か〜、誰か〜、隊長を雪の中に埋めてくれ〜〜〜〜! いっえーーい!」」」
分身達は歌が終わり「いっえーーい」のところで拳を振り上げた。無駄に呼吸が合っていることがさらにむかつく。
さて、どうしてやろうかと考え始めたところで、それどころじゃない出来事が起きた。
俺たちの上の斜面にある雪が滑り落ち始めたのだ。
雪崩である。
上から雪が滑り落ちてくるのを見ながら思い出した。雪山で大声を上げると衝撃で雪崩がおきるとか、どっかで聞いた事がある。
つまりこれは、
「お前ら・・・雪崩で俺を殺そうと・・・」
「「「ちがーう‼︎」」」
分身達が一斉に叫んだ。更に1号が言い訳を叫んだ。
「俺らあんたの分身っすよ! そんなことするわけないじゃないですか!」
「嘘つけー! さっき雪に埋めるとか言ってたじゃねーか!」
「あんなのお茶目ジョークですよ! お茶目ジョーク!」
「じゃあ、なんで雪崩がおきんだよ⁉︎」
「知るかー⁉︎」
俺が分身と言い争っている間にも、みるみると雪崩は迫ってきた。正直、とんでもなく混乱していた俺はどうゆう対処法も思い浮かばなかったのだが、一人冷静だったフルルがソリごと空の亜空間ボックスに避難した事で間一髪難を逃れることができた。
親切な方に替え歌はアウトと指摘を受けました。確認すると確かにアウトでしたので歌を変更することにしました。