52 蒼の武具です。
ヒビキは最近とても調子が良かった。紫煙花の秘薬で分身達がパワーアップし、指定取得物を揃え中級冒険者に昇格した。
昨日は骨の迷宮に出向いたら思っていた以上に自分達は強かったのでボスのジェネラルスケルトンを倒して、その後たわわちゃんと出会えた上に天位の7番に握手してもらったのだ。なにもかもが上手くいっていると錯覚してもしょうがないと思う。
そう、錯覚だったのだ。なにもかもが上手くいっていると思ったその裏で、気づかぬ間に思わぬ落とし穴が開いていたのだ。
それは、
「武器が壊れた」
とゆう、かなり危険ものだった。
分身達が強くなった事に調子にのって、俺つえー、をやっていたら、その代償に武器が破損していたのだ。
特に骨の迷宮がヤバかった。スケルトンファイターがやたら硬かった。ジェネラルスケルトンは更に硬かった。もう割り箸の様に武器が折れたり、刃が欠けたりした。まともな武器はもう数えるほどしかない。
武器が壊れたら新しい奴を買えばいいのだが、中級冒険者になって、中級冒険者が戦う敵には今までの初心者用の安い武器では心許ない。こうも簡単に壊れる武器を信用する事などできない。
「さて、どうしようか?」
と、いいつつも実の所、ある程度方向性は決まっている。
今までより質の良い武器を手に入れる。それしかないだろう。いや、武器だけじゃない、できれば鎧や兜など防具も用意したい。そうすれば俺たちは更に強い集団となるだろう。より上を目指すのならばそうすべきだ。
だが、無限術師が武具を整えようとするとネックが二つある。
一つは、人数分揃えなければならないと言う事だ。現在俺は34人の分身を召喚することができる。つまり、最低でも30人ぐらいの武具を確保しなければならない。いや、戦闘で分身を切り替えることやレベルが上がり最大召喚数が増えることを考えると50でも60でも欲しい。
ちなみに、中級冒険者の戦士がそれなりに良い装備を一式手に入れようとするなら500万ゼニーはかかる。
それを何十倍も用意しなきゃいけない訳だ。本当、無限術師は金食い虫な職業だよ。
もう一つは、武器屋の武器や鎧というものは基本的に戦士や騎士といった前衛職が使うことを想定して作られている。
前衛職。つまり闘気を使う職業だ。奴らは闘気で肉体を強化するだけじゃなく、剣や鎧に闘気を流すことで斬れ味や耐久性を高めている。
俺が武器をポンポンと壊しているのも、質の問題だけでなく闘気を持たないという事にも関係している。
つまり、闘気を通しやすい素材で闘気を通しやすい作りの武具が良い武具の条件なのだが、闘気を持たない無限術師がそんな武具を装備した所で正直、豚に真珠といった所だ。
この二つの問題を解決する方法はたった一つだ。といっても変わった方法じゃない。それは、
「オーダーメイドだ!」
オーダーメイド。エリアから素材を取ってきて鍛冶屋に特注で武器を作ってもらう。冒険者にとってはおなじみの方法だ。俺もかつて重鋼のギロチンを鍛冶屋に作ってもらった。エリアから素材を自前で取ってくれば武器を作る手間賃だけですむ。そして1から作るのであらかじめ前衛職ではなく闘気を持たない無限術師向けの武具を頼むこともできる。
エリアから鉱石を採掘してきて武具を揃える。それが俺の当面の目標である。
そして、鉱石といってもその種類は多種多様だ。
因みに重鋼は今回使わない。あんな重い代物を装備して動き回ることなどできない。
今、俺が求める鉱石は俺が行ける範囲内で、硬く頑丈な武具を作れる鉱石。その上で出来る限り軽い事。そして、中級冒険者ともなると、敵が炎を吐いたり魔法を使ってきたりする。そういった魔力攻撃に耐性があれば完璧だ。
高望みしすぎかと思うかもしれないが、実はアテがあったりする。
行ける範囲で、頑丈で軽く魔力耐性も持ち得る鉱石。そんな都合の良い代物の情報を手に入れているのだ。
何故知っているのかというと、たまたま偶然知っている訳じゃない。むしろ、それは必然だ。
何故なら、俺はとても真面目で勤勉な男だからだ!
・・・。
・・・。
いや、本当の事だよ? 俺は超真面目な男。
だから働く日は3人くらい冒険者図書館に分身を置いてあるんだ。そして奴らには色々な事を調べさせている。今から向かうエリアの事。今後、オススメと思われるエリアの事。貴重な資源。有用な資源。職業の事。スキルの事。他にも最近だったら、万が一の時に備えて紫煙花の解毒薬の研究を進めていたりもする。なんかの間違いで紫煙花の煙を吸った時に生存確率2分の1の治癒師の治療だけじゃ危険だしね。蛇の毒の解毒薬が蛇の毒から作られる様に紫煙花の解毒薬も紫煙花から作れる可能性はあると思うんだ。
とにかく俺が今後必要だと思えることはなんでも調べさせるし、必要なら書き写して自宅に持ち帰って置いておく。
そうやって、色々な事を調べているんだ。もちろん、武具についても鉱石についてもだ。
前世でも偉い人が言っていた。情報を制する者は世界を制すると。
だからこそ、俺も情報というモノを大事にしている。その情報を手に入れる為なら、分身達をどれだけこき使っても構わない。
な? 俺凄い真面目だろう?
そんな、俺の勤勉さと分身達の努力のお陰で必要な鉱石もそこまでのルートもバッチリ把握している。
「さて、まずは毛皮にブーツ。それから湯沸かし器に魔道暖房器もいるかな・・・」
俺はフルルを誘って準備を整える事にした。