47 初級冒険者の終わりです。
次の日、俺は紫煙花の秘薬の効果を確かめる為にオークを狩りに来た。そこで、
「おおぉ……おお……おおお!」
驚きのあまり、『お』しか喋る事が出来なかった。
なぜなら、俺の分身とオークが1対1で死闘を繰り広げているからだ。
「お! ……おおお……1号、お前ぇぇぇ‼︎」
1号は剣を握っていた。かつてオークに挑んだ時、うっすらとしか傷を与えられなかった、あの剣の中の一本だ。
それが今、オークを袈裟斬りにして肩から胴に深い傷を与えている。
無論、オークとてやられっぱなしじゃない。腕を振り回して1号をなぎ払おうとするのだが、1号は時に避け、時に受け止め対応している。
紛れもなくオークと渡り合っているのだ。
あの1号が。
ゴブリンにボコられ消えていったあいつが。オークに2、3人まとめて吹き飛ばされたあいつが。黒蠍にダメージを与えられず、囮になることしか出来なかったあの1号が。今、オークと渡り合っているのだ。
これが驚かずにいれようか。
「こ、これが紫煙花の力!」
俺は秘薬の効能を、まじまじと実感していた。
オーク。無限術師が敵わないとされている敵だが、一番ポピュラーな前衛職、戦士ならレベル5もあれば単独で狩れるとされている。この場合の狩れるは無傷で狩れるという意味だ。
対して、今の1号は、多少の擦り傷を負いはしたが戦闘に支障のない程度だ。単純に考えてレベル4、5程度の力はあると思う。実際、かつて間近で見た戦士(エルトの仲間だった奴だ)と遜色ない動きをしている様に見える。
更にだ、今はあえて1対1で戦わせているが、俺にはまだ29人の分身が控えているし、現在魔力は300ある。つまり、300人の分身を召喚できるのだ。
レベル4の戦士が300人、有用ではあれど決して強くなかった無限術。それを今、初めて強いと思った。
そんな感慨に浸っていると決着がつこうとしていた。
「オオオオオォォ!」
雄叫びと共に繰り出した一撃がオークを仕留めた。
オークは息絶え魔石へと変わった。
オークを一人で仕留めた1号が振り向いた。
「1号ぉぉぉぉぉぅうう!」
「隊長ぉぉぉぉぉぉおお!」
興奮してはしゃいだ俺たちは、ハイタッチからの、拳をあわせた。若干勢いがつきすぎて手が痛いけど構わなかった。それでも足りなくて、他の分身たちと一緒に1号を胴上げした。そして、そんな俺たちを一歩引いた所で、若干あきれた目で見ていたフルルもついでに胴上げした。
なんでフルルを胴上げしたのかって? 特に理由なんかねえよ。あえてあげるなら、はしゃぎすぎて馬鹿になってんだよ。
「だーけーどーまーだーまーだー」
俺の興奮はとうぶん治りそうになかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
俺の興奮は治らず、留まる事を知らなかった。
なので勢いのまま、荒野のゴブリン迷宮にやってきた。
目標は一つ、ゴブリンキングを倒す事だけだ。
荒野の迷宮はエンカウント率が高い。道中ゴブリンがわんさか出たが相手にもならなかった。突撃して終わりだ。
そして迷宮の最奥、ボスの部屋の前にあっさりたどり着いた。前回はここまでだった。分身だけ馬役として部屋に入った。今は違う。
俺たちは躊躇なく進んだ。全員が門をくぐると背後で部屋の扉が閉まった。後はゴブリンキングを倒すか死ぬかだ。
「久しぶりじゃないかゴブリンキング。今回は俺たちの力で仕留めに来たぜ」
そういって、分身たちを突撃させた。
開始からほぼ一方的だった。そりゃそうだ。二本の腕で20人からなる突撃を防げるもんじゃない。
ゴブリンキングが魔石に変わるまであまり時間はかからなかった。
因みにゴブリンキングの魔石で指定取得物が20種を超えた。
「よし、この調子で一気に30種あつめるか!」
その言葉に嘘はなかった。3日後、指定取得物30種を集めた俺は、中級冒険者に昇格した。