46 紫煙花、その6です。
紫煙花を手に入れた後は順調だった。
翌日、紫煙花の探索チームと鉢合わせしないように、迂回しつつ、街まで帰った。
因みに、探索チームの活躍で、サードエリアにはあと2カ所、紫煙花が咲いていた事が分かり処理したらしい。
結果的に、俺の行為は露見しなかった。いや、まあ犯罪ではない。ないのだが褒められた行為ではないのでほっとした。
その後は紫煙花を育てる準備に入った。
まず、スコップを大量に買って、土を用意した。結構な重労働だったが、そこは人海戦術で乗り切った。
土を用意したら、鉢植えから紫煙花を移し替えた。
次に農耕用に水を用意した。これは簡単だった。亜空間ボックスに湖の水を入れるだけだった。
そうする内にクーヤが迷宮都市に戻って来た。
彼女は無事に『魔光器』を手に入れていた。
「はい、ヒビキ。お望みの『魔光器』よ」
「さっすがクーヤ。俺はおまえを信じていたぜ」
「……絶対嘘だ」
そんなやり取りの後、作物が育てる為の肥料や、秘薬作りに必要な道具(調合用の釜や秘薬を入れる瓶)を頼んだ所、クーヤは全て要求通りの品を用意した。
冒険者としてはものの役に立たなかったクーヤだが、商人としての力量は確からしい。
おかげで一週間も経った頃には、秘薬を作る準備はすっかり整った。
なによりも、
「壮観だな」
「うん。この迷宮都市を丸ごと滅せそうだね」
透明な壁の向こうには、魔光器の光を紫の霧が乱反射して白い花たちに降り注ぐという幻想的とも言える光景が広がっていた。
もし、この空間に人が踏み入れば間違いなく天国に行けるだろう。フルルのやや自虐的な冗談が冗談に聞こえないくらいに咲き誇っている。
紫煙花の育成は思った以上に簡単だった。元々、霧に包まれた状態なら大量繁殖すると言われた花だ。風で霧が飛ばされる事のない亜空間ボックスは、繁殖に最適な環境だったと思う。
加えて、魔光器の光を浴び、栄養も水もたっぷり与えたのだ。紫煙花はすくすくと成長して、種を撒き散らし、その子供達もすくすく育ち、今現在5メートル四方の空間に所狭しと咲いている。
どうみても何百本、下手すると千本近い数が咲いている。一本で100人殺すと言われる花が千本。自分でやった事とはいえ、正直ヤバイなと思わないわけでもない。
少なくとも紫煙花を育てていることを大っぴらにしようとは思わない。と、同時に滅多なことでは露見しないとも思っている。
なんせ、亜空間ボックスを外から観測する方法なんて、何一つないのだから。加えて、紫煙花の育成から秘薬の生成まで全て亜空間ボックス内で完結する。これぞ完全犯罪という奴だ。いや犯罪じゃないけどね。
ちなみに亜空間ボックスはフルルのレベルが10まで上がり現在10個まで増えている。
その使い道としては、休憩室として一つ、武器庫として一つ、重鋼のギロチン部屋で一つ、解体室で一つ、縦につなげた紫煙花育成室で二つ、貯水池として一つ、紫煙花の秘薬を作る為の釜や瓶、薬剤や肥料などを保管する薬剤室で一つ、後の二つは今使い道がなく空のままとなっている。
こうして改めて確認すると、俺はフルルがいなければやっていけないなと思う。
そのフルルには念の為、紫煙花の共振器を持たせている。俺も持っているし、休憩室にも一つ置いてある。安全管理には念には念を期したい。
「さてと、薬剤室の方はどうなっているかな?」
俺は薬剤室の分身に注意を向けた。
薬剤室では、すでに秘薬の生成に取り掛かっていた。
釜の中に水を入れ、すり潰した紫煙花と数種類の原料を混ぜて煮ている。後はキリのいい所で冷まして、瓶に詰めるだけである。
つまり、準備はほぼ終わったのだ。
「明日が楽しみだな」
俺はそう呟いた。