45 紫煙花、その5です。
「ついに、やって来たぜ」
ゲートを潜り抜けた、俺は辺りを見回しながら呟いた。
いつか手に入れることが出来たらと思っていた紫煙花が、このエリアにあるのだ。テンションあがる。
だというのに、
「うう、ついに来ちゃたんだ……」
おとなりのフルルは、テンション下がりっぱなしである。
「ああ……きっと僕たち、紫煙花を育てた罪で磔にされて、石を投げられるんだ」
ネガティヴな思考が悪い未来を想像して、更にネガティヴに陥るという悪循環に入っている。
なんとかしてやりたいのだが、
「大丈夫だって。事前に調べてあるんだけどさ、紫煙花を育てたら犯罪です。なんて法律はないさ」
「人に迷惑かけたら犯罪です。なんて法律はないけど、人に迷惑かけるのは良くないんだよ」
意外に口が上手いフルルを説き伏せるのは難しい。かといって紫煙花を諦める気はないのだけど……。
そこは諦めてもらうしかない。
さて、これからどう動くかだが、サードゲートを抜けた先はサードエリアの南端で簡単に言えば北東に進めばホワイトタイガーの縄張りで北西に進めば黒鹿の縄張りだ。
どちらに向かうべきかと悩んで、北西に向かうべきだと決めた。
多分、亡くなった冒険者達は最初は黒鹿を狩りに来たんだと思う。だけど、そこで紫煙花の影響を受けたから、冒険してホワイトタイガーを狩る事にした。そういう流れだったはずだ。
だったら紫煙花は、黒鹿の縄張りに咲いているはずだ。
俺は手持ちの共振器をひとつを自分に、残りの4つを分身たちに持たせて、森の中の探索を始めた。
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探索を始めて3時間、紫煙花は見つけられないまま日が暮れようとしていた。
俺は松明を亜空間ボックスからだして、火をつけた。散らばらせている分身たちも明かりを灯す。
「徹夜してでも、ぜってー見つけてやる」
俺はそう宣言した。夜の森の中を歩くなど危険でやりたくないのだが仕方がない。
街からの情報では、紫煙花の探索チームが明日の朝から探索を開始するらしい。
その前になんとしても見つけなければならない。
ちなみに手持ちの共振器は現在4つになっている。途中、黒鹿に分身が襲われたのだ。
単独で動かしたのが仇になった。例えば3人一組にしておけばまだなんとかなったと思うのだが、黒鹿はサードエリアの魔物にふさわしく手強い。
俺たちの護衛を減らす訳にもいかないのだ。ちなみに俺たちの所に2頭来た。まあ勝ったけど。
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更に2時間後、3つまで減った共振器が音を鳴らした。
やっぱり、やっぱりだ。この森にあるという俺の推理は正しかったんだ。
俺はその場所の近くまで行くと、フルルと一緒に亜空間ボックスに入った。これ以上近づくと、俺たちも紫煙花の犠牲者となってしまう。
代わりに、俺たちの護衛や亜空間ボックスの中でギロチンを引き上げる奴らを残らず外に出し、ローラー作戦を始めた。
そして、1時間後、
「見つけた! 見つけました!」
遂に紫煙花発見の報告が届いた。
俺は椅子から立ち上がってガッツポーズをした。
直ぐにスコップと鉢植えをそこまで運ばせた。
分身たちの動きは見通しの悪い闇の中だというのに絶好調である。紫煙花の影響を確実に受けているのだ。
紫煙花は3輪咲いていた。
スコップで鉢植えに移し替えると、亜空間ボックスの出入り口まで戻ってきた。
「フルル、間違えて俺たちのボックスに入れるなよ。二人とも死ぬぞ」
「ふええ……」
フルルは弱い悲鳴をあげながらも俺たちのいない、誰もいないボックスに紫煙花を入れた。
「フルル、ボックスの配置換えで、紫煙花のボックスをここの隣にできるか?」
「……うん」
気が進まなそうにフルルは頷いた。
「じゃあ壁の仕切りを透明にしてくれ、ガラスみたいにな。間違っても仕切りを消すなよ」
「うん。絶対にしない」
そう言ってフルルは指示通りにした。
壁の一角が透明となり、その先の空間は余計な物は何もなく中央に紫煙花が置いてあった。
分身越しではなく自分の目で見る紫煙花は綺麗だった。ヒマワリの様な大輪ではない。小振りな花だが控えめな可憐さがある。
とてもこれまでに何十万、何百万人と殺している様な花には見えなかった。
それはフルルも同感だったらしい。
「こうやって見る分には、綺麗な花だよね」
「ああ、この花がこのボックスいっぱいに咲いたら、すげー綺麗だと思う」
俺の返事にフルルは凄く嫌そうな顔をしたが、何も言わなかった。どうやら、諦めてくれたらしい。