41 紫煙花です。
それは、とあるギルドでの事だった。とある4人組パーティーが大物を仕留めた暁に、意気揚々と盛り上がっていた。
「乾杯!」
「おお、乾杯だ〜!」
彼らは上機嫌で、大物の魔石のおかげで懐も暖かかった事もあり、じゃんじゃん酒と料理を頼んだ。
「いや〜、ついにホワイトタイガーを倒したな」
「本当ですよ、俺たちも中級冒険者として自慢していいですよね」
「それどころか、今回の出来からすると上級にも手が届くかもしれんぞ」
「まいったな、上級冒険者になったら女達に囲まれて身動き取れなくなるじゃないか」
「「「死ね、このスケコマシ野郎!」」」
中級冒険者になったばかりの彼らは、元々別のモンスターを狩っていたが、途中余りにも調子が良かったので冒険してホワイトタイガーに立ち向かったのだ。
「それにしても今回のスライドは凄かったなぁ。ほとんど一人でホワイトタイガーの攻撃を防ぎきったんだから」
「それを言うならカルネだろう。俊足と忍び足を生かして、ホワイトタイガーを翻弄した立ち回りは見事だったよ」
「いやいや、僕なんてそんな……リーダーこそあの素早い動きに対応して魔法をぶつけるなんて、神がかっていましたよ」
「ふっ、なによりも俺のトドメの一撃が素晴らしかっただろう」
皆、酒の酔いも加わって夢見心地だ。無理もない。今回の彼らはこれまでで一際、素晴しい動きをしたのだから。個人の技量も連携もこれまでと段違いだった。それこそ少数だけがたどり着く、上級冒険者の背中が見える程に。
「いや、なんなんですかね? 突然力が溢れてきたっていうか、ホワイトタイガーの動きがはっきり自覚できましたよ」
「おまえもか、俺もだよ」
「俺も俺も」
「これが、成長するという事か」
そんな上機嫌な4人に突然異変が訪れた。
「あれ…、」
一人がグラスを落とした。
「おいおい、酔っ払うにはまだ早いだろう?」
そう言ってグラスを拾おうと身を屈めると、そのまま地面に倒れた。
「スライド?」
リーダーが問いかけるも返事はない。不審に思う間もなく、女たらしの剣士も地面に倒れた。
「おい、どうした? グレオ……」
しゃべれたのはそこまでで、リーダーは急に眠気がした。痛みはなかった。ただただ安息の眠りに落ちて行った。
周囲にはそれなりに人がいたが、最初は彼らが酔っ払って寝入ったのだと誤解した。
そして、床に転がってるのも迷惑だから、受付嬢の一人が起きてもらうように声をかけた。
返事はなかった。
声をかけても起きないから、パシパシと顔を軽く叩いた。
返事はなかった。
受付嬢が、彼ら4人が死んでいる事を理解して悲鳴をあげるまで、60秒の時間が必要だった。
受付嬢が悲鳴をあげてからは周囲は混乱した。一度に4人が亡くなったのだ。まず食中毒が疑われた。酒場に居合わせた治癒師が、飲み物や食べ物に毒性のものかどうかを判別するポイズンサーチを使用したが、なんら問題はなかった。
じゃあ、一体なんなのか?
一人が言った。
「食中毒でないなら紫煙花の毒じゃないか?」
「ああ、確かに眠るように死ぬのは紫煙花だな。可哀想に」
「そういえば、こいつら凄く調子がいいとか言っていたぞ」
「じゃあ、間違いないな。まさかと思うが持ちかえってねーだろうな」
「大丈夫だ。俺は紫煙花の共振器を持っているけど作動してない」
「こいつらどこのエリアで出くわしたんだ? 花を始末するまで出入り禁止にしなきゃならんだろう」
「ホワイトタイガーを狩ったとか言ってなかったか?」
ギルドの利用者はほぼ冒険者だ。ましてやこのギルドの利用者の大半が中級冒険者だ。
彼らの死に驚き、同情しつつも日頃の狩りで培った冷静な判断力を発揮していた。
そんな中、騒ぎを聞きつけて一人の男が入ってきた。
男は近くにいた男に訪ねた。
「なんか大騒ぎしてるけど、一体なにごと?」
「ヒビキか。どうやら、こいつら紫煙花の毒にやられたらしい」
「! ……詳しく聞かせてくれないか? 本当に紫煙花が出たなら、隊長に報告しなきゃならないんだ」