33 シーフな女の子です。
無事遠征が終わり、俺たちは街に戻ってきた。今回の遠征は一泊二日の短い期間だったが成功だったと思っていいと思う。指定取得物を8品目まで揃えたし、レベルも上がった。魔石や素材を売り払えば、かなりの金額となる。
問題といえば、遠征途中、亜空間ボックスで睡眠をとったんだけど、俺が意識を手放した後は分身達も消えるのだが、街に置いていた分身達まで消えた事だろうか。これは完全にうっかりしていた。まあ、今回のエリアについては大体調べ終わっていたから情報面では問題ないのだが、あいつらにはある程度の現金を渡していたんだが、分身達が消えた時点で図書館と路上に投げ捨てられた訳だ。今からいっても影も形も残ってないだろうな。まあ、諦めた。
とまあ、少しミスはあれども全体的に見れば成功といってもいいと思う。
そして街に戻った俺はギルドで魔石や素材の換金をしようとギルドまで行ったんだ。
「ここに来るのは久しぶりだな……」
ギルドの前でそんな事を呟いた。何百のゲートを抱えている迷宮都市は広い、ギルドも百に近い数が設置されていて、よほどのこだわりがなければ最寄りのギルドを利用する。まあコンビニみたいな感じだ。
で、このギルドはソロ時代はちょくちょく利用していたのだが、パーティーを組んでからは荒野のエリアなどから離れた場所にあるので疎遠になっていんだ。
中はがらんとしていた。まあ、まだ昼前だからみんなエリアに行っているのだろう。
待たされなくてラッキーだな。
そう思いながら受付までいくと、
「なんで、買い取れないのよ!」
一人の女の子が受付嬢に絡んでいた。
「ですから、このツノうさぎの皮は傷だらけで、売り物にならないんです」
「そんな事はないわ! ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ傷があるだけじゃない!」
「ほんのちょっとって傷じゃないでしょう。穴だらけじゃないですか?」
猛る女の子と嘆息する受付嬢、その間には、ボロボロのツノうさぎの皮が互いの間を行ったり来たりしていた。正解には押し付けようとする女の子と、押し返す受付嬢。
見る限り受付嬢の方が正しいとは思うが、俺が口を挟むいわれもない。
こういう場合、関わりのない第三者ポジションで口喧嘩を眺めたいるのが一番楽しいのだが、問題が一つ。暇な時間帯なので受付嬢が一人しかいないのだ。つまり、この口喧嘩が終わらないと俺の番が回ってこないのだ。
「はぁ」
待たされる事に少しうんざりしながらも、口は挟む気は無かった。第三者で眺めるならともかく、当事者になるのは御免だ。一歩離れた所で終わるのを待つ。
……。
…………。
……………………。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
待っても終わらなかった。ますますヒートアップしている。受付嬢がうんざりしているが俺も同感だ。
「いい⁉︎ これは私だけの問題じゃないわ! ギルドが不当に冒険者を扱うとなると冒険者全てに関わる大問題よ! 冒険者は命をかけてエリアから資源をとってくるのよ。そして、その資源で世界が回っている。なのに、その冒険者の足元を見て無下に扱うのは、自らの尻尾を食べるトカゲと同じよ! あなたは人類がどうなっても構わないのかしら⁉︎」
なんかすっげえ壮大な話が出てきた。これがツノうさぎの皮一枚の為の話なんだから、聞いている俺の方が恥ずかしい。
ちなみにツノうさぎはゴブリンと同等か、それ以下のモンスターだ。ゴブリンと違ってツノも皮も肉も売れるけど、全部あっても一匹一万ゼニーって所だ。多分皮だけなら3000ゼニーもしないと思う。
隣のフルルが小声で聞いて来た。
「なんで皮だけなんだろう?」
フルルは本当に不思議がっているけど、俺にはわかる。
「多分、自分で狩ったやつじゃないんだろう。ハイエナってやつだ」
そう、かつて自分がやっていた行為だからわかる。この女の子はおそらくソロだ。仲間はいない。そしてルーキーのソロは自殺行為だ。この娘がどんなジョブだろうとそれは変わらない。そして自力でモンスターを狩れないからハイエナをやっているのだろう。
たぶん別のパーティーが狩って、ツノと肉は回収したけど皮は戦闘行為の末に傷だらけになり、売り物にならないとその場に捨てられたのだろう。それをこの女の子が回収して、いま受付嬢に難癖をつけているのだろう。
迷惑な話だ。ハイエナの先輩として一言いってやりたい。人に迷惑をかけるなと。それが犯罪ではないが、褒められた行為ではないハイエナを行う者のせめてもの矜持だと思う。
などと思っていると、ついに受付嬢がきれた。
「いいかげんにして下さい! 何度も言っているように、これは質が悪くて買い取る価値がないんです! 大体これ、自分で狩ったものではなく他の冒険者がいらなくて捨てられた物なんでしょう⁉︎ そんな物を持ってきてよくもまあ偉そうな事が言えますね⁉︎ 自分が冒険者だと誇りたいなら、パーティーを組んで自分でモンスターを狩ってからにしてもらえませんか?」
よほど我慢していたのか口調が凄い。
「くっ⁉︎ 私がパーティー組めないの知っている癖に⁉︎」
「それだって、あなたに問題があるから周りから敬遠されているのでしょう? さ、もう退いて下さい。さっきから次の方があなたの後ろでずっと待っているのですよ………………あら、あなたは?」
受付嬢は俺を見て、言葉が止まった。そして、しばらく考え込んでいたかと思うとニンマリと笑った。
俺はその笑みに嫌な予感がした。賭けてもいい。この受付嬢、絶対に碌でもない事考えている。