27 灰色の砂漠です。
翌日、『ステラ』で研ぎなおした斧を受け取り、11番ゲートに入った。割と人気なエリアなので同業者もちらほら見える。ここは草原でバトルメーメーとか食用モンスターもいるが、草食モンスターなので近寄らなければ大丈夫だ。真っ直ぐに3つ目のセカンドゲートを目指した。
セカンドゲートを抜けた先は灰色の砂漠だった。
「あっつー」
「……暑い」
それが俺たちの第一声だった。
砂漠の暑さに即Uターンしたくなったが、ぐっと我慢して、南に薄っすらと見える黒岩を見た。
あれが重鋼だ。あれを取ってくれば目標を達成できるのだが、重鋼と俺たちの間には砂漠が、そして黒蠍が立ち塞がっている。
「よし、あの隊形でいくぞ、二手に分かれろ」
俺たちは歩き出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
砂漠を3分の1ほどまできただろうか、予想よりはるかに体力を使っていた。年下のフルルは今にも死にそうだ。暑さもそうなんだが、安定しない砂の上を歩くのは予想以上に体力を使った。
「大丈夫か?」
「大丈夫です」
問いかける方も答える方も力がない。いっそ、この前のゴブリンキングと戦った時のように分身達に
乗って行こうか? などと考えたが即座に却下した。
黒蠍のいるこの場所で無駄に分身は使えない。それは命に関わる。
今、俺たち二手に分かれていた。俺とフルルと分身1から4は一塊の密集隊形をとっていた。そして分身5から9はおよそ俺たちから30メートルの地点をぐるりとと半円のような形で囲っていた。あえて、散らばることで索敵範囲を広げていた。まあ正確には索敵範囲を広げているというより……。
「ぎゃーー!」
俺たちから見て右斜めに位置する分身が悲鳴をあげた。黒蠍の尻尾攻撃を受けたのだ。
黒蠍はこれが怖い。砂の中で獲物をまち受けているのだ。灰色の砂漠と相まって多くの冒険者が命を落としてきた。
尻尾攻撃を受け毒を食らった分身はもう動く事もできない。
だがある意味予定通りである。
毒を食らった分身をリセットして。自分の隣に召喚する。それと同時に自分の右側30メートルにいた分身と周囲を固めていた一人を黒蠍に向かわせた。全員は向かわせない。今の目的は黒蠍を倒す事じゃないし、おそらくは倒せない。
「うりゃー!」
カキン! 分身が繰り出した竹槍の一撃がそんな音を立てた。その音を聞いただけで分かった。俺の攻撃は通じないって、鉄槍でも斧でも傷一つつかないと。
まあ、レベル5の戦士の一撃にも耐えるらしいから、そんなに期待はしていなかった。
それに目的は倒す事じゃない。
「ウラー! ウラー! ウラウラウラー!」
二人の分身達が騒ぎながら槍でちょっかいをかける。
そうする事で注意を引きつけ本体を安全に離脱させる為だ。
黒蠍は頑丈で攻撃力もあるが機動力はない。分身二人を囮に逃げ切れるはずだ。
俺は黒蠍から尻尾を切り捨てるトカゲのように逃げ出した。
あれから三度黒蠍と遭遇したがなんとか逃げ切り重鋼でできた岩場までたどり着いた。早速採掘を始める。まず、フルルにツルハシとスコップを出してもらった。
「じゃ、頼んだぞおめーら」
分身達に採掘を頼んで、俺とフルルは体力を回復させる為に亜空間ボックスに入った。
いや、だって帰りも歩かなきゃなんねーし。
「はーーっ」
水を飲みながら、一息ついた。
そしてその間にもザクザクと重鋼が部屋の隅に積まれ始めた。
「凄いペースですね」
「まあ、9人がかりだし、重鋼は軽いし脆いからな……でもその分大量に必要なんだけどさ」
そう、重鋼は名前とは裏腹にかなり軽い。ではなぜ重鋼なのかというと、魔鉱炉で魔力を加えながら熱することでカチンコチンに凝縮するからだ。
だから、重鋼は冒険者の間では不人気だったりする。例えば剣を一本作るにしても材料は凄くかさばるし、完成したら完成したでものすごく重いのだ。
仮にフルアーマを作っても、よっぽど高レベルの前衛職じゃなければ歩くことすら満足にできないレベルだ。
そんな人気のない不遇な金属なんだが、どんな物も使いようだ。少なくとも俺には必要だ。
そんな風に、なんとなく同族意識を感じながら重鋼が積み上げられていくのを見ていた俺だが、
「それにしても、だいぶごちゃついてきたな」
ふとそんな事が気になった。
俺がフルルと組み始めてから、竹、何十本という武器やツルハシ、シャベル、その他もろもろ。
それに、オークを解体する為の場所に今新たに重鋼。
最初にあった、椅子やテーブル、寝袋などは端の方においやられている。
「悪いな、色々押し込めて」
「いえ、どれも必要なものなんでしょ」
「まあ、そうなんだけどさ」
そんな会話を交わしながら、外の奴らに注意を向けると、炎天下の重労働に分身達がへばっていた。
「そういえば、歩きっぱなしの奴もいたか……」
途中、黒蠍に襲われリセットした奴はともかく、最初からずっと、働きづめの奴もいて、明らかに動きが悪い。というより多分脱水症状を起こしている。
まあ、倒れるまで扱き使えるのだが、それも効率が悪い。俺は疲れている分身をリセットして再召喚した。
そして元気一杯の分身が新たに採掘に向かった。
それを見たフルルは言った。
「無限術師って強くないけど、便利ですね」
「だろ? レベル10になったらもっと便利になるよ」
「あと一つですね」
「ああ、あと一つなんだよ」
そんな会話をしながら時折分身を入れ替えつつ、俺は重鋼を積み上げていった。