19 敗北です。
「レベルが上がらない……」
キングゴブリン討伐から3日、俺は行き詰まりを感じていた。なんせレベルが上がらないのだ。
といっても、3日の内1日は竹の補充に当てたので、本格的にゴブリンを狩ったのはまだ2日だし、今までのペースが他の冒険者と比べて異常なスピードだったという事は分かっているのだが、やっぱり遅く感じる。
レベルが上がる事に次のレベルまでの必要な経験値は上がる。もうゴブリンでは役不足なのかもしれない。
実際、他の冒険者ならレベル6ともなれば、もっと格上のモンスターを倒している。
俺たちもやるか。――そう決断した俺は、とあるエリアに向かう事にした。
フルルに言う。
「さあ、歴史を変えにいこうか」
「はい?」
俺たちは森の中を歩いていた。このエリアはフィールド全てが森で覆われている。森の中には稀少な植物もありそれを目当てにする冒険者も少なくない。が、俺の目的はそれではない。せいぜい、道中金目の植物がないか注意してみる程度だ。
俺たちの本命はモンスターだ。このエリアは初級のエリアらしくゴブリンやツノ兎が主な出現モンスターなのだが、稀にオークが現れる。それを狩るのだ。
ぶるっと体が震えた。怖いのか? 武者震いなのか? 自分でも良くわからない。でも自分が落ち着いてないことだけは良く分かっている。
オーク、言ってみれば二足歩行の猪で強靱な肉体と分厚い毛皮を持っている。そして無限術師が決して勝てない相手と言われている。
それを覆しにきたのだ。もちろん楽勝だなんて思ってない。オークと闘う為にポーションも買ったし(1本15万ゼニーを二人分)、更に鉄の剣も6本購入した。準備は万端だぜ。
エリアに入って一時間、ついにオークに出くわした。もちろん俺とフルルは亜空間ボックスに避難した。
そして分身達は竹槍を構えながらオークに向かい突撃した。
「「「うりゃーー!」」」
刺し違える事もいとわない渾身の突撃だった。
だが、オークは怯えず突撃してきた。
「ふうぅうしゅうう!」
双方の激突はオークの圧勝だった。何本かの竹槍がオークを捕らえたが、メキャっと折れた。
そして、剛腕が振り回される。
「ぎゃあーー!」
「うわーー!」
あっという間に半分以上が戦闘不能に陥った。首が折れ即死した分身もいた。
負傷した分身をリセットして、スタートした。
「隊長! 奴は強すぎます!」
「泣き言いうな!もう一度いけ!」
「わかりましたけど、鉄の剣使っていいですか?」
「まだだ、もう一度竹槍でいけ!」
「くたばれ隊長! ちくしょう。いくぞみんな!」
分身達はわめきながらも亜空間ボックスからでてオークに突撃していった。
しかし、その短い間にも生き残りの分身はオークに狩られていった。
次から次へと分身を生み出し、前線に向かわせる事になった。
……。
……。
オークと闘い続け30分、すでに延べ人数で40人近い分身がやられていた。
一方のオークは未だ無傷だ。
攻撃が当たらない訳じゃない。分身達の犠牲のおかげでオークのパワーやスピードも大体把握したし、上手く連携をとり、竹槍を当てる事は出来るようにはなった。
だが、分厚い毛皮と強靱な筋力が鉄壁の如く竹槍を跳ね返している。
「ちくしょう! くたばれ筋肉!」
思わず、そんな罵倒がでるくらいにはイラついている。
正直、全然歯が立っていない。
だが、まだ切り札はある。
新たに生み出した分身に命令した。
「よし、剣を使え」
「よっしゃ!」
ついに剣の出番だ。これまでの戦いを元に上手く当ててみせる。
そう思っていたのだが見事に失敗した。上手く捕らえたと思ったら竹槍よりリーチが短かったのだ。
いや、失敗失敗。
気を取り直して、もう一度剣を使う。
「はあ!」
今度は上手くいき、竹槍の奴らが上手く囮している間に上段からの一撃を与えたのだが、
「き、斬れねえ⁉︎」
オークの毛皮は切れなかった。いや正確にはほんの少し切れた。うっすらと赤い線が引かれている。まさにかすり傷。そしてオークの反撃であっさりとやられた。
「…………」
鉄の剣はあと4本ある。地面に落ちている奴を拾って再度使う事も出来る。が、それでオークを倒せる気がしない。
「ちくしょう……」
俺はオークを倒す事を諦めた。
その後は、オークが去るまで亜空間ボックス内で待ち、分身達に偵察させ哨戒させながら慎重に街まで戻った。途中ゴブリンに出くわし、狩った時にレベルが上がったのだが待ち望んだレベルアップが今は虚しく感じた。分身が6人から7人に増えたところでオークには勝てないのだ。