18 王に挑む者達、その7です。
迷宮の主、キングゴブリンは、普通のゴブリンの3倍の巨体だった。
「グォオオ!」
唸り声も低くて怖いよ。
俺の本体はボス部屋の手前の亜空間ボックスの中にいるのにちょっとびびっちゃたぜ。
自身は安全だと呟いて平静を取り戻した。
が、
「ああ……」
メアリちゃんが凄い動揺している。気持ちは分かるが動揺している場合じゃない。
「落ち着いて! それからファイヤーボムの準備!」
「は、はい!」
完全に落ち着いた訳じゃないけど、彼女は魔法を使うための集中に入った。
そして、彼女を守る為にエルトが前にでる。彼は動揺していなかった。腹をくくっている。
彼は騎士らしく甲冑を着込み片手に盾、もう片手に剣を握っている。これで跨っているのが、本物の馬だったら絵になったのかもしれない。
とにかく、彼は騎士らしく前に出てキングゴブリンと激突した。
ガン!
ほとんど丸太の様な棍棒と盾がぶつかり、音を鳴らした。
ガン!ガン!ガン!
激しい打ち合い。双方一歩も引かずに渡りあっている。
ガン!ガン!ガン!
そして、エルトが前で時間を稼ぐ間に、後ろではメアリちゃんがファイヤーボムを完成させた。
タイミングを見計らってエルト達を下がらせる。
そしてーーーー、ボン!
「グォオオオウオ!」
ゴブリンキングが悲鳴を上げた。
ファイヤーボールよりかなり規模が大きいから、かなりのダメージだと思う。
しかし、体に火傷はない。上級のモンスターともなるとある程度のダメージを体内の魔石が吸収してしまうからだ。俺は個人的にヒットポイントと呼んでいる。まずは魔石が吸収出来なくなるまでダメージを与え続ける必要がある。
特別な事をする必要はない、というよりそんな手札はない。あとはひたすらファイヤーボムの連発である。エルトはまたキングゴブリンの前に立ちふさがった。
4度目のファイヤーボムがキングゴブリンを焼いたとき、ついに火傷を負った。魔石の吸収限界を超えたのだ。
楽観視する訳じゃないが、ゴールが見えてきたと言える。
正直なところ予想以上に順調だ。皆の力が上手く噛み合っている。
まずはメアリちゃん。単純明解なダメージテーラー。キングゴブリンへのダメージは全て彼女が与えている。間違いなくこの戦闘におけるMVPだ。
次にエルト君。彼は思っていた以上に優秀な盾役だ。単純にパワーやスピードを比べると、レベル4の騎士とキングゴブリンならキングゴブリンの方が勝っている様に見える。
だがエルト君は、強打やかわせない一撃を、上手く受け流しを使う事でやり過ごしている。
常にメアリちゃんとキングゴブリンの間に存在している、頼れる盾役だ。
そして、最後に俺。怪我をしている二人の足代わりとなっているばかりではなく、要所要所で適切なアドバイスや位置取りを行うことで、二人の連携を上手く取り持っている。
俺がいなければ、二人は既に何回も死んでいるだろう。
……。
……。
いや、本当に本当だよ。俺のアドバイス、超役立っているよ。
いや、確かに見方によっては一人だけ安全な場所にいる臆病者に見えるかもしんねーよ? 実際、二人が死んでも自分達は生きて帰る為に、ボスの部屋の手前で別れたんだしさ。でも、でもね、そもそも二人とは初対面だし、ボスに挑むのは二人の事情だし、俺は帰ろうって提案したのに聞かなかったのはあの二人だし、それなのにずいぶんと二人の為に頑張ってるし、つまりは責められる要素はないと言いたい訳です俺は。
そして、もう一度言うけど、俺のアドバイスは役立っている。それは間違いない。
そして、それは本体である俺が鉄火場にいないからこそのアドバイスだ。
例えて言うならそれは、サッカーの試合をテレビで見ている時の感覚に近いと思う。前世の俺はサッカーなんて体育の授業くらいでしかやらなかったけど、そんな素人の俺でもワールドカップの中継くらいは見た。 そして、こう思った。
「おいおいおい! 左の奴フリーだろなんでパス出さないんだよ⁉︎ 今出せばチャンスだろうが! 早く早く早く! あー、遅えよ馬鹿が!」
いや、まあど素人の戯言ではある。でも正直なところサッカーの試合見てて、同じような感想抱いたことあるだろ?
フィールドを上から眺める観客の視点の方が、フィールドの中にいる選手より広い。
今のキングゴブリン戦で俺はちょうどそんな感じだ。
離れた所にいるからこその冷静なアドバイス。それが今二人を生かすのに役立っている。
そして、戦いは続きメアリちゃんが6度目のファイヤーボムを打ち込み、
「グォオオオウ!」
キングゴブリンが末期の悲鳴を上げて崩れ落ちた。
勝敗は決した。俺たちの勝利だ。
「本当にありがとうございました」
街に無事戻って来てから、改めて二人にお礼を言われた。
キングゴブリンとの戦いのあと、魔石を回収すると二人を亜空間ボックスの中に回収した。そして、俺とフルルは街まで戻って来た。そして最後のおせっかいに病院の前まで連れて行った。
「じゃあ、ここでさよならだ。今度からはもうちょっと命を大事にしなよお二人さん」
そう言って俺たちは別れた。
あっさりしている? でも、その方が颯爽としていてカッコ良くない? それに正直なところ俺たちも疲れが溜まっていて早く帰りたいのですよ。
途中、適当な飯屋で食事を済ませると俺たちは貸家に帰ってきた。
「じゃあ、また明日な」
「うん」
フルルは短く返事をすると、隣の部屋の鍵を開けた。
実はこの前の休みの時に、隣の部屋をフルル用に借りたのだ。因みに賃貸は月3万ゼニー。フルルの価値に比べれば雀の涙の様な出費だ。
そして、更に言うと、今日の収穫はゴブリンの魔石が51個、まだ換金はしていないが収入が100万ゼニーを超える。
俺はベッドに寝転がりながら眠るまでの短い間、疲れた頭で考えた。
「そろそろ、次に向かおうかな……」