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15 王に挑む者達、その4です

 迷宮の中央部からちょっと外れた通路で、騎士のエルトと魔術師メアリはゴブリン共と戦っていた。


「はあっっ!」


 エルトの一撃がゴブリンを斬り伏せた。

 ゴブリンとエルトの力の差は歴然といえる。

 しかし、


「グキ!」

「きゃあっ!」


 1匹のゴブリンがメアリを狙った。

 彼女はすでに足に怪我を負っていて満足に動けない。そしてゴブリンとの距離が近すぎるゆえに魔法は使えなかった。自分やエルトを巻き込んでしまうからだ。


「くっ!」


 エルトが身を挺してメアリをかばう。

 そんなエルトにゴブリン共が襲いかかる。

 盾や鎧の上からでもおかまいなしの打撃を受けながらもメアリには近寄らせず、そして、


「はっ!」


 タイミングを合わせて、カウンターの横薙ぎでゴブリン達を斬り伏せた。


「はあ、はあ……終わったよメアリ、ちょっと休もうか」

「うん」


 ひとまず、ゴブリン達を退けはしたのだが疲労がたまり、最早魔石を拾う余裕すらなかった。

 ゴブリン共の死体から少し離れた所で二人は蹲った。


「ふう……メアリ、足の怪我はどうだい?」

「……ごめんなさい。立っているだけで精一杯……」

「謝らないでくれよ。むしろ前衛の役割を果たせなかった僕の方こそ謝らなきゃいけない」

「ううん……」


 ……。

 ……。

 ……。


「サリア達はどうなったのかな?」

「・・・わからない。無事でいてくれるといいのだけどね」


 ……。

 ……。

 ……。


「ねぇ、エルト。きっと私たち助からないわ」

「…………」

「だから私を置いて、あなただけでも逃げて」

「メアリ、君を置いてなどいけない」

「でも……!」

「それにさ、不安にさせたくないから黙っていたんだけど、さっきの戦いでゴブリンに足をやられた。たぶん骨にヒビが入っている。君を置いて逃げた所でいくらも進めやしないさ」

「そんな……そんなことって……」

「なあ、メアリ、僕たちはいつから一緒にいたか、その始まりを君は覚えているかい?」

「……覚えていないわ」

「そうだね、僕も覚えていない。同じ年に生まれてお隣どうし、物心つく前からの付き合いだ。今更君がいない人生なんか想像も出来ないのさ」

「エルト……馬鹿……」

「おや、今頃気がついたのかい?」


 ……。

 ……。

 ……。


「ねえエルト……」

「なんだい?」

「少しの間だけでいいから、手を握っていてもらえないかしら……」

「喜んで」


 ……。

 ……。

 ……。


「ねえエルト……」

「なんだい?」

「私は今まで、いつかあなたは私を置いていってしまうのだと思っていたの。あなたは強くて、優しくて、いつも皆の中心にいて、まるで太陽みたいで……。そんなあなたの隣に、地味で引っ込み思案な私なんかがいつまでも一緒にいられるはずがない。そう思っていたの」

「メアリ、そんな訳がないじゃないか⁉︎」

「あっ!」

「メアリ、君を抱きしめてもいいかい?」

「……もう、そう言う事は抱きしめる前に聞いてよ」

「うん、ごめん」


 ……。

 ……。

 ……。


「ねえエルト……」

「なんだい?」

「もしも、生まれ変わりがあるのなら、また私と出会ってくれる?」

「もちろん。こちらからお願いするよ」

「エルト……」

「メアリ……」


 と、そんな相思相愛な二人を、曲がり角の向こうから密かに見つめる視線があった。

 ヒビキ=ルマトールである。

 途中出くわすゴブリン達を、フルルと一緒に亜空間ボックスに出入りしながら撃退し、ついに二人を見付け出したのだ。

 あてもなく探していたので、まだ生きている内に見つかったのはエルトとメアリにとって相当幸運だった。

 それこそ、「とりあえず真ん中ぐらいまで行っとくか」ぐらいの適当さだった。やる気がなかった訳じゃなく、それほどあてがなかったのだ。

 兎にも角にも、ヒビキは二人を見付け出し声をかけようとしたのだが、二人がなんかいい感じなのを見てとって、通路の影から見守る事にしたのだ。

 二人に気取られないよう、極力音を出さないようにしているのだが、時折「いけ、イケメン」とか「ここはキスだろキス」などと呟いている。

 そんなヒビキに背後から声がかかる。




「隊長。二人を助けなくていいんですか?」


 俺はその言葉に背後を振り返った。

 するとフルルが呆れたような視線で俺を見ているじゃないか。

 

「いやいや、勘違いしないで下さいよフルルさん。これは覗きじゃない。覗きじゃないんですよ」


 思わず、意味もなく敬語になっちゃたぜ。


「だったらなんなんでしょう?」

「これは、あれだ、その、あれなやつだ……そう応援、俺は二人の事を応援しているのだよ」

「えー……?」


 納得してないなフルル。ここは俺たちの信頼関係の為にちゃんと説明すべきだな。


「いいかいフルル。二人の会話からするに二人は幼馴染らしい。そして幼馴染という関係は時に恋愛感情を阻害するんだ」


 今の関係が壊れるのが怖くて進めないじれじれ恋愛とか、前世で大人気だった。漫画、小説、ドラマ、映画、掃いて捨てるほどあった。


「そんな二人が、今の危機的状況のおかげでラブラブ急接近中だ。そんな所に、やあ、お二人さん助けにきたよ。とかしゃしゃりでるのは空気読めない奴のする事だと思うんだ」

「でも……」


 フルルは納得してくれない。仕方がない最終手段を使うか。


「どうしても納得してくれないならフルルが行ってくれ」

「えっ?」

「あの二人にフルルが。やあ、お二人さん助けにきたよって出ていってくれ。俺たちは後ろから付いていくからさ」

「ええー⁉︎」


  フルルは驚いた。助けを求める様に後ろに控えていた分身達を見たが、分身達は全員目をそらした。多少性格が違えど俺のコピー、続きが見たいに決まってる。

 孤立無縁のフルルは曲がり角からそっと顔を出して、騎士と魔術師の二人だけの空間を見て、


「む、無理です!」


 諦めた。だよな、続きが見たいうんぬんの前にあそこに割って入るのは勇気いるよ。


「まあ、そういう訳でもうちょっと見守っていようか。なにゴブリンが来たら助けに行くよ」

「……はい」


 こうして、幼馴染の恋愛を見守る会が結成されたのだ。

 それにしても、若干距離があるとはいえ、通路一つ曲がった所にコピー合わせて7人いて、チラチラ覗いていんのに二人は気付く様子がない。どんだけ二人の世界を作ってんだか。もしくは、それほどに疲弊しているのかもしれないけど……。

 とにかく、この流れなら早々にキスまではいくだろう。そして、フルルには言えないがその先まで行っちゃうかもな。

 あの魔術師は地味に可愛い。そして、厚手のローブで抑えられているけど、実は巨乳とみた。

 そんな、あの子がイケメンナイトに色々とされるとか、是非見届けねばならない。

 いけ、イケメン! まずはチューからだ!

 などと思っていると俺たちの逆側からゴブリン達が現れた。


「ギャ!ギャ!」

 

 すでに二人に気がついて、襲いかかろうと近寄って来た。

 俺たちみたいに隠れてないから二人は当然気付く。

 騎士が立ち上がり、幼馴染を守る様に剣を構えた。

 魔術師の子は立とうとしているが、立てないみたいだ。

 いずれにせよ、先ほどまでの空気ぶち壊しだ。


「ゴブリン、空気読めないな〜……マジKY」

「そんな事言ってる場合ですか⁉︎」

「わかってるよ。じゃあ1号から3号までいけ!」

「「「しゃああああ‼︎」」」


 コピー達が奇声をあげながら飛び出した。

 振り返った二人を通り抜けてゴブリンに襲いかかる。

 そして、あっけにとられている二人に俺は、


「やあ、お二人さん助けにきたよ」


 先ほどまで、覗いていたなどと思わせない。爽やかな笑顔で話しかけた。


 


 

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