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127 放浪の魔王、その8です。

「俺たちは蒼の軍勢。……あの娘の味方でお前の敵だ」


 ヒビキの数多いる分身の中の一人が言ったにすぎないが、末端1人1人に至るまでが同じ思いを共有していた。

 まさに怒髪天を突くという奴だ。

 たわわちゃんを無理矢理、自分の奴隷にしようとした挙句に泣かせるとか死刑だ。いや死刑でも生温い。つまり、超死刑だ。

 なんか頭に血が上りすぎていて、まともな語彙力が無くなっているが、とにかくギルティだ。

 最早、敵が天位だろうと関係ない。話し合いをする気もない。

 そんな殺気だった一軍に囲まれれば、常人どころか、よほどの強者でも怯えるだろが、サリエルは特に怯えることもなく、得心する様に頷いた。


「ああ。あの噂の無限術師か。この光景は大したものだ。なるほどなるほど……」


 とある無限術師が、今、天位の座に最も近いという噂を聞いたのは、確か前の街だったか。長年、使えないと呼ばれていた無限術師が、1軍に匹敵すると聞かされた時は、流石に驚いたものだ。

 ただ、400年も生きていれば、今までの常識が覆されることにも幾度となく立ち会ってきた。

 驚きはしたが、まあ、そういう事もあるだろうと、すぐに興味をなくした。まさか敵対することになるとは思わなかった。

 でも、まあ、美人を自分のモノにしようとすると、恋人だったり、とりまきだったりが邪魔になることはままある事だ。そして、そういう時、サリエルは闇の勾玉を使って優しく排除するのだが、今回は、


「ちょうどいいから、彼女に対する見せしめになって貰おうか……」


 パチンと指を鳴らすと、サリエルの背後で阿修羅が動き出した。タワワを捕まえている腕だけはそのままにしてあるが、他の、先程ヒビキの自爆でえぐられた箇所は既に復元している。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」


 影の巨人が拳を振り下ろした。対するヒビキの軍勢も、


「「「おおおおおっ!」」」


 怒りをそのまま乗っけたような雄叫びを上げながら、四方から突撃した。

 ……。

 ……。




「うらあああっ!」


 猛威を振るう巨人の腕を搔い潜った1人の分身が、両手で構えた槍をサリエルへ向けて突き出した。

 自らの身を省みない捨て身の一撃は、それなりの威力があったのだが、サリエルを守る精霊の力によって阻まれた。


「まだまだ!」


 それでもめげずに突きを繰り出そうとしたのだが、頭上から降りて来る手の平にガシッと、まるでクレーンゲームの景品の様に掴まれた。


「うわっ! うわわ⁉︎」


 捕まった分身は、何とか振りほどこうともがくがビクともしない。

 まるで、小石の様に持ち上げられると……そこから地面へと思いっきり叩きつけられ、落下地点にいた他の分身もろとも即死した。

 これまで俺の分身たちは、ゴブリンからドラゴンまで、多彩な殺され方をしたのだが、それらと比べても中々にエグい殺され方だ。俺本人は少し離れた広場にいるにもかかわらず怖気が走る。


「でも、負けるか!」


 俺は弱気を振り払う様に声を上げながら、分身を生み続けていた。

 隣では、フルルが『転移』のスキルで、元カテュハ亭とこの場所を繋いでいて、サリエルにやられた治安維持部隊の面々を避難させている。出来ることなら、たわわちゃんも避難させたいのだが、巨人の前腕が邪魔で諦めざるを得なかった。


「やっぱり、あの色男をやるのが先だ。フルル、救助作業が終わったら弓部隊を通してくれ」

「う、うん」


 俺の要求に、自信なさげに頷いたフルルだが、転移のゲートを開いた隣では亜空間ボックスのゲートも一緒に開くという器用な真似をやっている。

 分身たちは慌ただしく亜空間ボックスへと入り、装備を整えては転移ゲートの前で陣取り、今か今かと突撃の合図を待ち構えている。


「負傷者の避難、完了オッケー!」


 最後の1人を背負いながらやってきた分身の報告と共に、フルルにゲートの場所を変えてもらうように頼んだ。


「カテュハさん家の玄関前によろしく」

「うん……出来たよ」

「助かる……じゃ、オメーら、行って来い!」


 俺が号令をかけると、勇ましくも極力、音を立てないように注意して、転移のゲートを潜っていく。

 およそ100人近い一団は、崩れかけている門や塀の影で体制を整えると、タイミングを合わせて、一斉に射撃を行った。

 シャッ! シャッ! シャ! と、風切り音を立てながら飛んでいく。

 その内の何本かはサリエルを捉えたのだが、突き刺さることはなく、ポロリと地面に落ちた。


「それでも、撃って、撃って、撃ちまくれ!」


 指揮官役の鼓舞に応えるかの様に、次々と矢が放たれる。

 だが、地面から黒い槍が生えて、弓部隊の幾人かを貫いた。


「ぐはっ!」「うえ!」「ぎゃっ」


 シャドウランスによる攻撃は留まることを知らず、次から次へと分身たちを串刺しにしていく。


「散れ! 散れ!」


 およそ、部隊の半分を失った所で、生き残りたちは四方に散らばった。そうやって狙いを散らしながらも、時折、弓を射かけるが、やはり効果はない。

 身につけている衣服すら綺麗なままだ。ほこり一つ付かない。


「伝説の通りか⁉︎ …………ん?」


 よくよく見れば、サリエルの服の左腕部分がざっくりと破れている。あれは刀傷だ。

 だが、俺には心当たりが無い。

 なので、俺の前に奴と戦っていたたわわちゃんに、近くの分身を通して聞いてみた。


「あの野郎の左腕、お姫様がやったんですか?」

「お姫様では無いけど、でも、そう……」

「マジですか⁉︎ 凄え! 一体、どうやって⁉︎」

「あの一点に、霊力の補充が間に合わないくらいの速度で攻撃を集中させた」

「なるほど! 一点突破ってヤツですね!」


 たわわちゃんの話を聞いて、突破口が見えた。


「みんな! 一点突破だ! 一箇所だけを狙うんだ! まずは右脚!」


 俺が全軍に命令を下すと、即座に実行された。

 射程のある弓兵どもが矢を放った。狙いは右脚、決まれば機動力を奪えて勝ちは揺るぎないのだが、


「あれ?」


 狙いはてんでバラバラ、一点突破どころか、外れた矢の方が遥かに多かった。


「あー……そりゃそうか……」


 無限術師の弓の使い方は、数打ちゃ当たる……だ。一点突破なんて精密射撃、出来る筈もない。


「とすると……」


 弓が駄目なら他の方法に切り替える必要があるのだが、


「接近戦はなぁ……」


 サリエルの背後に黒マッスルがドドんと鎮座して猛威を奮っているので仕掛け難い。


「くそ! 手強いな!」


 思わず愚痴が出た。クラン一つ、まるごと潰せる戦力を差し向けてんのに今のところ、擦り傷一つ与えてない。


「だ、大丈夫? ……相手はあの魔王なんでしょ?」


 フルルが心配そうに見上げてくる。不安げな顔だ。

 無理もない、相手は最強の天位と呼ばれている男だ。事実、奴は強い。

 けど、俺はフルルにあえて強気で返した。


「大丈夫に決まってるさ! 奴が魔王なら、俺は勇者だ!」


 そんなあだ名で呼ばれた事は一回もないけど……。しかも、俺の戦い方は、どう好意的に見ても勇者のソレとは掛け離れているけど、でも魔王を倒せば勇者だろ。

 何、まだ策はある。試行錯誤は無限術師の十八番だ。


「とりあえず、火だるま、行ってみようか!」


 その号令と共に戦場での動きが変わった。遠距離からの射撃を辞め、武器を携えて近づくのも辞めた。代わりに、人差し指から打ち出される、中間距離からのファイヤーボールがサリエルに向けて放たれた。

 一発一発は威力が低いものの数が数だ。サリエルの体が火の海に包まれた。

 ……。

 ……。


 サリエルは、周囲を炎に包まれながらも平然としていた。


「やれやれ、思ったより厄介な相手だ」


 今、食らっている炎弾の事では無い。

 確かに大した威力だが、それでも賢帝の千の魔弾よりはまだ弱い。この程度の攻撃でサリエルの防御を破られる事は無い。先程、彼女に傷をつけられるまで、数百年、破られることのなかった絶対防御なのだ。

 だが、


「これ、どれを潰せばいいのかな?」


 先程から結構な数の分身を蹴散らしているが、一行に終わりが見えない。無限術師なら分身を生み出している本人がいる筈だが、サリエルには見分けがつかない……というより、


「この場に本人は居ないのだろうね……」


 潰した分身の代わりが、何処からともなく現れているのだ。その先に本人がいると考えていいだろう。

 でも、探しに行く訳にも行かない。今、阿修羅の腕が彼女を捕まえているが、あまり本体と離れると塵に返ってしまう。


「なら……この場所から探し出すか」


 サリエルが操作して、阿修羅の腕が炎の弾幕を遮った。

 そして、黒鳥を生み出す。


「たぶん、近くにいる筈だ。見つけてこい」


 サリエルの命を受けた黒鳥が、空高く舞い上がった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最高かよぉ
[良い点] スサノオVS多重影分身 NARUTOかな?
[一言] 残念、異空間にいるよ
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