11 戦士の休息、その2です。
顔を上げると二度と会えないかもしれないと思った彼女がいた。
たわわちゃんは淡い黄色のワンピースを着ていた。うん、超かわいい。全体的に鮮やかな配色の中に奴隷の証である黒い首輪がミスマッチだが、それすら蠱惑的な魅力となっている。
その超かわいいたわわちゃんは俺と同じテーブルに座ると俺に尋ねた。
「で? 何がごめんなの?」
無表情で聞いてきた。
そして、その声には、一片の暖かみも感じられなかった。
その声で俺は悟った。彼女は感情を殺したのだ、そうせざるをえなかったのだろう。
そんな彼女に今更、謝罪など無意味だろうけど、せめて噓いつわりのない心情を話すことが、俺に出来る唯一の事だろう。
「ごめん! たわわちゃん! 俺は自分の夢の為に君を見捨てたんだ!」
「……えっ?」
「君を必ず助け出すと誓ったのに! 君の王子様になると誓ったのに! その誓いを俺は破ってしまった!」
「………………」
「君の救いを求める手を振り払った俺には、もう君を愛する資格も君から愛される資格もないけれど、これだけは言わせてくれ。今は、金で君を買うブタにもて遊ばれて絶望しているのかもしれない。でも未来に何が待っているかは誰にもわからない。君にも幸せになれる未来が……」
「待て」
「えっ? いや君にも未来がだね……」
「待て! 待て! 待て!」
たわわちゃんが腕を伸ばして俺の口を塞いだ。そして、苛立った声で言う。
「いいから、ちょっと待って」
「フガフ……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「もうどこから話せばいいのかわからないけど……一番大事な事から言う」
一番大事な事? なんだろう?
「私達の間には恋愛感情などない」
Why⁉︎ あまりにもびっくりして前世の異国の言葉が出て来ちゃったぜ。
なんとか言葉を絞り出す。
「えっ? ……そりゃ、君を見捨てた今、俺たちの絆は壊れてしまったのだろうけど……」
「違う。もとから恋愛感情などない」
ええっ⁉︎ そんな馬鹿な⁉︎
「でも、たわわちゃん! 俺がフルルを連れて去っていこうとした時。ヒビキ、私を置いていかないで、連れていってよ。……って言ったじゃん⁉︎」
「そんな事いってない」
嘘だ……。
………………いや、確かにいってない気も?
「だったら、最初に俺の手持ちが足りなくて、金策に行く時に言った、必ず迎えにいくからたわわ! うん。信じているからっていう二人の誓いは?」
「いってない、いってない」
そこまで、きっちり否定されると自信なくなってきたなあ……。
「ええと、スケベなブタにもて遊ばれたショックで心を閉ざしてしまったり?」
「してない。そもそも、私を買ったのは女の人」
「ええええええ!」
女の人、つまり百合な趣味な人か? ……いや違う、純粋に魔法剣士をパーティーに加えたいって事か?
なんにせよたわわちゃんはスケベな男に酷いことされずに済んだ?
などと考えていると、
「だいたい、金でわたしを買おうとするスケベなブタってあなたの事だし」
グッサァと胸に刺さった。
「私を買おうとする男は何人かいたけど、あなたが一番スケベな目で私を見てた」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
その容赦のない言葉が俺の過去を、いや妄想を打ち砕いた。
そうだった! 思いっ切り嫌われていたんだよな。帰れ! とか言われてたし。
最初はちょっと悲劇のヒーロー気取りで妄想していたけど、いつのまにかそれが真実と入れ替わっていた。
超恥ずかしい! 超勘違い野郎じゃないか!
いたたまれなくなった俺は、席を立ち走り出した。
どこかへ! ここじゃないどこかへ! 誰も知らないどこかに行かなければ!
タワワ=リンゴレッドはヒビキが走りさるのをポカンと見ていたが、ハッと気がついた。
「私の用事、まだ済んでいない……」