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116 恋する鉄体師です、その8です。

既に起きていたフルルにお願いして、カテュハさんの家まで送って貰った。

転移のゲートを抜けて二人がやってきた。

フルルの方は、まだ寝起きでうつらうつらとしている。朝っぱらからごめん。

そんで、グレイス博士の方はドロまみれで薄汚れているが、元気一杯、目が爛々と輝いている。


「おお! ヒビキ、久しぶりだ!」


勢いよく挨拶するグレイス博士を、怪訝そうな表情をたわわちゃんが見つめた。


「……誰?」

「知り合いの、魔改造博士。前に色々とお世話をなったんだ」


俺はざっくばらんに説明すると、早速、博士は本題に入ってきた。


「実は困った事が起きてな、ヒビキに助けて欲しいのだ」


そう頼み込んできた博士は、そのドロまみれの格好からして、何か問題を抱えていることが一目瞭然だった。


「何があったの?」

「うむ、実は魔改造が失敗した」

「うわあ……」


なんというか、いかにも博士のやりそうな事だ。

それにしても、


「5000万ゼニーを支払う奴が俺の他にもいたんだ?」


俺が博士のお世話になって、まだ1月少々。そんな頻繁に客が入るもんかと、疑問に思ったが、博士の返事は俺の予測の上を行った。


「いや、ツケで」

「おい、博士! ……ざけんな! 俺の時はきっちり請求してきただろう⁉︎」


しかも、いっちゃあなんだが、5000万ゼニーより遥かに価値のある火龍の魔石で支払ったんだ。

あんまりにも不公平だと博士にクレームを入れたら、逆ギレされた。


「仕方がないだろう⁉︎ 火龍の魔石を使った魔改造だぞ⁉︎ それを素直に請求したら材料費だけで2億ゼニーを超える。そんな大金を軽々と支払える者など、早々にいない!」

「だったら、やるなよ!」

「どうしても試したかったのだ。それに、やらなかったら割れた魔石がホコリを被っていくだけだ! 魔改造が成功して、実験体が……いや、依頼者が強くなれば、龍の魔石を山ほど取ってきて貰う約束なのだ!」

「でも、失敗したんだろ⁉︎」

「うむ、失敗してしまったのだ!」


あっけらかんと頷く博士にどっと力が抜けた。

相変わらずのイカれっぷりだ。常識人の俺にはちょっとついていけない。

博士の考えを理解することを早々に諦め、なげやりに聞いた。


「それで、どんな物好きが博士に依頼して、どんな失敗をしたんだ」

「うむ、依頼者はまだ年若い少女なんだが、強さに貪欲でな、この都市でも今や最強の一角とも呼べる蒼の軍勢……つまり、お前の事だな。お前よりも強くなりたいらしい」


俺は博士の言葉にピクッとした。

年若い少女、俺より強くなりたい、それらのキーワードと、今日、ここにくるはずなのに来なかったナナルー。

思わず隣を見ると、たわわちゃんも、博士の言葉に反応したらしく、俺たちは顔を見合わせた。


「私としても、かつて行った無限術師強化実験の果てに生まれた最強の無限術師を超えるというのは、中々興味深いものがあってな……ん? どうした?」


その博士の疑問で、俺たちは見つめ合うのを止めた。

ハッと我に返って、慌てて続きを促した。


「いや、なんでもない! それで? 一体、どんな魔改造で、どんな問題が起きたんだ⁉︎」

「うむ、人工精霊化という実験だったのだ」

「人工精霊化?」


聞いたこともない言葉に首を傾げた。


「そうだ。魔術師や魔法剣士が使う精霊召喚は規模と威力においては、数多あるスキルの中でも随一を誇る。それはわかるか?」

「ああ、わかる」


俺は真顔で頷いた。

この前、今は亡き冬景色のリーダーとやりあった時は、そりゃあヤバかった。


「歴史を振り返ってみても、精霊使いは数多く名を残している。どこまでが本当かわからんが、この迷宮都市の創始者と言われる天位の一番は、精霊の力を使って元々水回りに問題のあったこの土地に運河を作ったと伝えられている。そんな凄まじい精霊のパワーをスキルに関係なく使えるようするのが目標だったのだ。具体的には割れた魔石の波長魔力が同一であることを利用して、一方を精霊の元となる力、私はこれを霊力と呼んでいるが、その霊力が集まるパワースポットに置き、霊力を集め、それをもう一方、実験体に装備させた、こて型の魔道具に送信することで、使用者をいわば半精霊状態にしようという魔改造だったのだが……」

「だが?」

「準備が整い、昨夜、あるエリアで試した所、どこで不具合が起きたのか、送られてくる霊力と周囲の地面や岩を取り込んでドラゴン化してしまったのだ!」

「なんだよ、そりゃ⁉︎」


俺が、ドラゴン化というのが全然想像できなくて戸惑っていると、タワワちゃんが口を挟んだ。


「それで、使用者はどうなったの?」


普段よりも、低く、鋭い声音だった。その使用者の事を心配しているのがわかる。

対して博士は、若干、興奮したように説明を続けた。


「わからん。完全に岩ドラゴンに取り込まれてしまったし、私はドラゴンが生成されたときの雄叫びで吹っ飛ばされて気を失ってしまったし、目覚めた時にドラゴンはいなかった。だが、おそらくはドラゴンの核として生きている筈だ。そこで、ヒビキにお願いがある」


と、博士は俺に視線を戻した。


「なんとか、依頼者を助けて欲しい。ちらっと見ただけだが、アレは本物のドラゴンに勝るとも劣らん。ならクランを以って狩るしかないが、クランとて龍相手は命懸けだ。下手に手加減などできないだろう。そうすると、中の人間も無事には済まん。だが、ヒビキの蒼の軍勢なら、犠牲を考えなくて良い分、依頼者を助けられる可能性もあるだろう。だから、頼む! あの娘を助けてやってくれ」

「博士……」


真摯に頭を下げてくる博士に、この変人にも、人の優しさがあるんだなぁ……と、ちょっと場違いな感動を抱いたんだけど、それは少し早計だった。

博士は頭を下げたまま続けた。


「元々は人工精霊化研究だったが、もしかしたら研究次第では、魔石から元の魔物を模した人工魔獣を作ることが出来るかもしれん! まさに、ひょうたんから駒! そんな貴重な体験をした依頼者をなんとしても助けて、色々と検査しなければならないのだ!」

「博士……」


――あんた、相変わらずだあ……。


感動して損した。

俺は呆れながらも、思考を巡らせた。

とりあえず、その依頼者が誰であれ助ける方針だ。その為に必要な情報は……。


「わかった。まず、それ何処のエリアだ?」

「おお! 助かる! 10番エリア、火陽山だ」

「おい⁉︎ ――超人気エリアじゃねーか⁉︎ なんでわざわざ、そんな場所で⁉︎」


10番エリアは初級冒険者から中級冒険者までの幅広い層がこぞって訪れるエリアだ。そんな所にドラゴンとか惨劇なんてレベルじゃねぇ。


「そこが、一番実験に適していたのだ。その山頂の火口が霊力の溜まるパワースポットだからな」

「ああ、そうかい! ――じゃあ次の質問。その岩ドラゴンはどうやったら止まると思う? または特徴は? 首を落とせばいいのか? 心臓……があるのかわからんが、心臓を貫けばいいのか? 飛んだりするのか? ブレスは?」

「おそらくだが、首を落としても動く筈だ。心臓もないだろうな。飛ぶのは無理だろうし、ブレスはわからん。一番、現実的なのが、ドラゴンの魔石を使った魔道具を、出来れば奪取、最悪壊せば、おそらく止まる筈だ」

「ドラゴンの中の魔道具の破壊かー……」


無茶苦茶言いやがる。が、そこでふといい考えが浮かんだ。


「依頼者が身につけている奴じゃなくて、その霊力を集めて送っている奴を壊したらどうだ⁉︎」


我ながら名案だと思ったのだが、


「山頂の火口から投げ入れて、今、溶岩の中にあるソレを回収出来るなら有効な手だな」


と、博士に切って捨てられた。どうやら正面から、その岩ドラゴンを相手にしなければならないらしい。

これ以上は話し合っても打開策は見つからないだろうし、もう現地に行った方が早いだろう。

だから、さっきからずっと気になっていて、でも聞きたくない質問をした。


「最後に博士、その依頼者の名前は?」

「うむ、ナナルー=ホラルという」

「えええええええええっ⁉︎」


博士の返事に、驚愕したのはフルルだ。

唐突に出てきた、幼馴染の名前に目をまん丸にしている。

逆に俺とたわわちゃんは、やっぱりというか、何というか……。

ため息をつきながら、


「あー、フルル、今から準備がてら説明するから、とりあえずゲート開いて……それから博士、博士、博士!」

「なんだ?」

「このっ! ばぁぁぁかぁぁぁぁぁっ!」


思わず、叫ばずにはいられなかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


10番エリア火陽山は人気エリアである。今日もまた沢山の冒険者がゲートの前で待ち合わせをしていて、混雑と言えるまでの賑わいを見せている。

理由は多々ある。火陽山と名付けられているが、それは南の一部だけで、全体としては見晴らしのいい平地で、そこで繁殖しているハートフラワーという黄色い花は高値で売れる。

そして、このエリアに現れる主モンスターのブロンズゴーレムは、ゴーレムであれども割と脆い。的も大きく、スピードもない為、非常に狙いやすく、慣れた者たちにとっては美味しい獲物なのだ。

また、セカンドエリアもかなり旨味のある植物が自生しているので、中級冒険者達の通り道ともなっている。

何より、この時期のハートフラワーにはごく稀に、黄金色に輝く代物が発見され、それを意中の相手に送ると、末永く幸せになれるなどという噂もあって、それを目当てに訪れる冒険者も数多く見られる。

今日の行列の中にも、そんな輩は、掃いて捨てるほどいる。


「ミリィ。今日こそ金色の花を君にプレゼントするよ」

「まあ、マーカス。本当に?」

「ああ、本当だとも。そして、ミリィ。君が花を受け取ってくれるなら、僕は君のご両親に挨拶に行きたい! 娘さんを僕に下さいってね……どうかな?」

「マーカス! ああっ……ああ!」


何ていうストロベリーな会話が、至る所で繰り広げられている。

そんな彼らを、


「はい! どいた! どいた! どいた!」


俺こと、ヒビキ=ルマトールの、完全武装した蒼の軍勢が有無を言わさず押し除けた。

俺は、なにをするんだという抗議の声を黙殺しながら、ゲートの周辺を確保すると、フルルに転移のゲートを開かせ、自宅で準備を済ませたさらなる兵隊を呼び出し、10番エリアに突入させた。

そんな分身たちに混じってたわわちゃんが、


「先に行く」


と、言い残して、10番ゲートを潜り抜けて行った。


「ちょ⁉︎ 待って!」


俺がそう呼び止めた時は影も形もなかった。


――ああ、もう。


俺も早く追わなきゃならないんだけど、その前に、凄い目で睨んでいる初級冒険者と中級冒険者の皆をなんとかしなきゃならない。


「あー……みんな! 今日はこの先のエリアでドラゴンが出るから、行かない方がいい! 他所のエリアに行ってくれ!」


時間がないから色々とはしょった、でも、まぎれもない事実を告げたんだけど、


「嘘つけ! そんな訳あるか!」

「10番エリアにドラゴンなんか出る訳ないだろ!」


と、全然信じて貰えなかった。まあ正直、逆の立場だったら俺も容易には信じないだろうから、「誰も俺のことを信じてくれない!」なんていう狼少年的センチメンタルな気持ちにはならなかったが、だからといって、退く訳にもいかない。


――悪いが力ずくで、このエリアは封鎖しよう。


と、そう決めた。


「とにかく、誰も通す気はないから、他所へ行け、他所へ!」


我ながら、強引なやり方だと思わない訳じゃなかったが、ナナルーが心配だし、たわわちゃんも心配だし、隣でフルルが泣きそうな顔してるし、岩ドラゴンの捜索と、既にエリアに入っている奴らをどう避難させるか? と、色々と切羽詰まってるから仕方がない。


――騒動が終われば、みんなわかってくれるだろう。


なんて考えだったのだが、甘かった。

1人が言った。


「ふん、あんたの魂胆はお見通しだ! あんたも黄金のハートフラワーが欲しいんだろう⁉︎ 無理矢理ゲートを占拠して一人占めする気だろう⁉︎ だが、それは私が手に入れて、彼女に贈る! たとえ蒼の軍勢を敵にまわそうとも譲る気はない!」


そう高らかに言い放つと、シャランと剣を抜き、切っ先を俺に向けた。そして言う。

「分身を倒した所で、文句は言わないで貰おう!」

「……無謀だろう?」


装備からして、精々がレベル10前後の騎士だ。こう言ったらなんだが、そんなん1人で俺の軍勢を抜けるわけがない。――そう思い、怒るより、信じて貰えないことを悲しむより、呆れが先に来た。

が、無鉄砲は1人じゃなかった。


「俺も戦うぜ!」

「僕も、僕も! 金色のハートフラワーを手に入れるのは僕だ!」


最初の1人に感化されたように、少なくない数の冒険者が声を上げた。


「えー……マジかよ……?」


やり方をミスったと後悔したが、後悔先に立たず。

ゲートの前を確保している俺の軍勢に、血気盛んな冒険者たちが向かって来た。















どうも、カロリーゼロです。

この前、この無限術師が発売されました。

コメントなどで、買うよ! と言って下さった方、買ったよ! と言って下さった方がたくさんいらしたので、この話を見てくれた人の中にも、小説を手にとってくれた方がいるかと思います。本当にありがとうございます。楽しんで頂けたなら幸いです。



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