109 恋する鉄体師です。
とある休日のある日。
タワワ=リンゴレッドが、住まいであるカテュハの屋敷を出た時、一人の男が近づいてきた。歳は6歳ぐらい上だろうか。最近、寄り添ってくる上級冒険者だ。手には赤い花束が抱えられている。
その抱えられた花束を、タワワに差し出して来た。
「タワワ。俺と付き合ってくれ。これから先、俺の隣に居ろよ。俺なら、お前を奴隷から解放してやれる」
「…………」
紛れもない告白。
改めて男の方を見ると、不敵な自信を携えていた。容姿も整っているし、身なりも、高級感のある衣装でしっかり整えている。美男子という言葉が似合いそうで、女性にもてるであろう事は、恋愛ごとに疎いタワワにも流石に分かる。しかし、
「ごめんなさい。私にはやるべき事があるし、貴方には興味がない」
それが、タワワの答えだった。
「っ……!」
男はショックを受け絶句したが、タワワは構わず足を進めた。
冷たい態度だが、タワワが男になびく気が一切ないのだから、これでいい。下手に傷付けずに断ろうなど考えると、長引いて面倒くさいことになる。それが分かるぐらいには、男性からの求愛を断って来た。
実家では、名門貴族のお姫様だったタワワを口説こうなどという者はいなかったが、迷宮都市に来てからは両手の指を2往復するぐらいには求愛され、断って来たのだ。慣れもする。
とはいえ、求愛され、それを断るというのは、余り気持ちのいい事じゃない。できるなら、告白しないでくれたらいい。
そんな事を考えながら、タワワが男の隣を通り抜けると、背後から声がかかった。
「待て! 待ってくれ!」
待たない。
構わず歩を進めたが、相手は諦めてくれなかった。
追いかけてきて、たわわの手を掴もうとした、――所でその腕を避けると同時に逆に腕を掴み、体のバランスを崩した。要するにぶん投げた。
「ぐえっ!」
地面に叩きつけられた男は、そんな悲鳴を上げたが、ダメージはないはずだ。ないように投げた。
その上で冷ややかに言った。
「次は痛くする」
その言葉に凍りついた男から視線を外して、再度歩き始めた。
男が再び追いかけてくる事はなかった。
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「ああ……キツかった……」
ヒビキは、午前中まるまる使われたお説教を終えて憔悴していた。
お説教の相手は、領主の息子のアーレストだ。
つい先日の『冬景色』との決闘でヒビキは空間術師の育て方はアーレストに聞いてくれと会場のみんなに言い放った訳だが、ぶっちゃけ、割とその場のノリで言い放った所があり、少なくともアーレストに話を通していなかった。
しかも、アグレッシブな一部の人間が、即座にアーレストに詰め寄ったらしく、何も知らないアーレストにして見れば、迷惑千万だったらしい。
おかげで、本日、領主の館に呼び出され、空間術師の育て方を伝えると同時に、事前に話がなかった事へのお説教が始まったのだ。
「……もう、あの人に頭あがんねーな」
そんな気がする。実は、お説教とは別に空間術師を育てることへの協力を要請されたのだが断った。今は天位になることだけに力を入れたい。そう伝えると「なら、後で構わない」と、こっちの都合を優先させて貰った。
こっちの都合を聞いてくれて頼りがいのある権力者、正直凄い助かる。
おかげで、俺は俺のことだけに集中できる。
俺はステータスを開いた。
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ヒビキ=ルマトール
Level 50
闘気 0
魔力 2150
スキル 分身召喚×50 分身召喚数倍化×5 (最大召喚数
1600) 代行権
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うん、本当に我ながら強くなったなぁと思う。因みにレベル50で現れたもう一つの選択スキルは魔力の泉という、文字通り魔力が湧いてくるスキルで、魔導系の後衛職なら喉から手が出るほど希少かつ貴重な魔力回復スキルで、どちらを選ぶかはそれは迷った。
何なら、かつてレベル30の時に現れた、未知のスキル、大将の力の時よりも迷った。
だって、魔導系の後衛職って魔力がなかったら只のゴミだよ? 特に最大召喚数が1600を越えた今、リアルに魔力枯渇が考えられる。全軍を展開するだけで魔力の7割が持ってかれるんだ。
分身召喚数倍加を取得したことは間違ってはないと思っているけど、取得した直後の俺はムンクの叫びのようだった。
グレイス博士の魔改造の結果、強くなりはしたが、召喚時間が極端に短くなったということもある。なにより俺自身は弱いままだ。
そう考えると、ドラゴンを倒して天空迷宮に挑む資格を手に入れたけど、実際に挑むにはまだ早いと思う。
他の天位たちが、記録によるとレベル60代後半から70代で天空迷宮を越え、この世界の創造主である女神と力比べをしたらしいから、俺も少なくとも60代後半まではレベルを上げてから挑むつもりだ。
さて、そんな現状でそんな展開を考えている俺だが、これからの俺に必要なものが一つある。
それは、家だ。俺には豪邸が必要なのだ。
……。
……。
いや、冗談でも何でもなくマジでね。
実は、現状でフルルの亜空間ボックスがパンクしそうなのだ。何せ、1600人分の武具だ。今のフルルはレベル36なのだが、36個の亜空間ボックスじゃまかないきれない量になってきた。この前のクラン決闘も、1600人は控え室や亜空間ボックスに入りきれなくて、わざわざ転移を使ってエリアで整列させたんだ。
転移もある事だし、ここは一つ、でかい家を買って、武家屋敷の様にしようと思う。
因みに資金はある。クラン決闘前のレベル上げでドラゴンを2、3匹狩ったその魔石だけでも、お釣りがくると思う。
という訳で、金銭面の心配はない。
なら、条件は二つだ。
一つはさっきも言ったけど、俺の軍勢を展開できる広さがあること。
もう一つは、たわわちゃんが気に入ってくれることだ!
……。
……。
いや、ほんとに本当にね。
だって、俺、リアルに天位の座が見えてきたから、たわわちゃんがお嫁さんになる可能性は全然あるし、そもそも、最近、結構いい感じだし。そこらへんを考慮して家を買っといた方がいいと思うんだ。
「てなわけで、たわわちゃんに会いに行こっかな!」.
俺は弾んだ気持ちで街に繰り出した。




