表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/137

100 クラン『冬景色』その2です。

 俺たちは、ヴァイスさんの案内のもと、とあるレストランに向かった。

 そのレストランは外観も内装も凄い豪華だった。

 少なくとも俺は、このクラスの店に一度も入ったことがない。

 俺は念の為に予防線を張っておいた。


「先に断わっておくけど、俺らクランに入るつもりはないよ?」

「ははっ、別に食事を奢る程度の事を恩に着せるつもりはないよ」


 そのにこやかな笑顔は安心できた。

 レストランには事前に予約していたらしく、すんなりとテーブルまで通された。


「堅苦しい話は、食事の後にしようか?」


 俺たちの向かいに座ったヴァイスさんがそう提案してきた。

 それに、反対することもなかった。前菜とスープが直ぐに運ばれて来たこともあって、即食事となった。

 今まで、見たこともないような食器に盛られたサラダを一口食べた瞬間、俺は戦慄した。

 うまい。

 たかだかサラダなのに凄くうまい。

 えっ⁉︎ 何これ⁉︎ 凄えシャッキリうまい! これがサラダ⁉︎ だったら、今まで俺が食べていた奴は何⁉︎

 驚異のサラダだった、そしてスープの方も一口飲んで見ると、これまたうまい。

 チラッと隣を見るとフルルも俺と同様みたいだ。


「このレストランは上級の冒険者達の間でも有名なんだ。特にメインディシュが絶品と言われているね」


 マジか⁉︎ メインディシュはこれ以上うまいのか⁉︎

 それから、しばらく、俺は天国を味わった。

 ……。

 ……。


「あー、本当に美味かった」


 全ての料理を食べ終えた俺は正直な感想を漏らした。

 いや、本当に美味かった。これから先、このレストランに入りびたいと思ってしまうぐらいだ。

 それはヤバイ。何がヤバイって出来ないわけでもないからだ。たぶん、今の俺はそう出来るだけ稼ぐことができる。

 まあ、そこまで贅沢は趣味じゃない。だから特別な時ぐらいにしとこう。たわわちゃんとのデートとかそんな時だ。

 でも、どうやったらタワワちゃんが一緒にこの店に入ってくれるだろう?

 そんなことを考えていたら、ヴァイスさんが用件を切り出してきた。


「さて、本題なんだが、君たち、私たちの『冬景色』に加わらないか? 聞くところによると、君は数百人の分身を扱えるそうじゃないか? 私は君のその能力をかっているんだ。色々と使い道がありそうだ」


 そう言って提示された報酬と待遇は、聞いた感じかなり良さげなもんだった。駆け出し上級冒険者を迎え入れるには破格かもしれない。

 だが、入る気にはなれなかった。


「いやー、ごちそうになっといて何だけど、やっぱり今のところクランに入る気にはなれないです」

「どうしてもかな? こう言っては何だけど、他のどのクランも君にそれ以上の待遇は用意しないと思うよ?」

「どのクランにも加わらないかな。なにぶん、ずっと二人でやってきたし、協調性があんまりなくて……すいません」


 お昼を奢って貰ったが、それはそれ、これはこれだ。

 できるだけ丁寧に断わった。


「そうか……ならば仕方ない、君のことは諦めることにするよ」


 と、ヴァイスさんは言葉だけなら潔く諦めたかのように見えるが、表情が厳しくなった。

 そして、続けた。


「代わりに隣の奴隷の空間術師を売ってくれないかな?」

「はっ?」

「もちろん、タダとは言わない。5億ゼニーで、その子供を買い取ろう」

「「5億⁉︎」」


俺とフルルの声が揃った。

 確かに空間術師は高値で取引される。だが、流石に5億はない。ましては、悪い噂のあるフルルにはなおさら異常だ。

 隣を見ると、フルルも不安そうな顔をしている。

 その表情を見るに、別に俺がフルルを5億で手放すことを心配している訳じゃない。例え、5億が10億だろうと俺はフルルを手放さない。それくらいはフルルだって分かっていると思う。

 問題は何でフルルに5億の値がついたかだ?

 心当たりは一つある。というよりそれしかないだろう。だったら、長居は無用だ。


「フルルは俺にとって大切な仲間なんで、金では売らない。……という訳でこれで失礼します」

「そういう訳にはいかないな」


 ヴァイスさんは肩をすくめながらパチンと指を鳴らした。

 すると、周囲の一般客だと思っていた人たちが立ち上がり、俺たちのテーブルを囲んだ。出入り口も塞がれた。


(こいつら、冬景色のメンバーか⁉︎)


 そして、優しい表情を引っ込めたヴァイスが言った。


「悪いが、どうやってでもその奴隷を置いていって貰うよ」


 その、ほとんど脅迫とも言えるやり口に呆然とした。これは、完全に一線を越えている。


「正気かよ、あんたら?」


 今の迷宮都市では、パーティーやクランへの加入、離脱は個人の意思が尊重されている。

 例えば戦士と治癒師がいたとして、例えば治癒師がパーティーを抜けたかったとして、でも戦士がそんなの許さねえょ! となった場合、前衛職と後衛職では後衛職が泣きを見る事になる。そういういざこざから冒険者を守る法律があり、そして健全に運用されている。駆け出しの跳ねっ返りが痛い目を見る事はあっても、長い戦歴を持つ上級冒険者がそれを破るとは思っていなかった。

 これが、世間にバレたら、相当なペナルティをくらうことになる筈だ。

 と、そこで給仕の人間に視線を向けると、彼らは気まずそうに視線を逸らした。


(店もグルか……)


 どうやら、本格的に罠に引っかかったらしい。

 内心で焦る俺に、ヴァイスがここまでする理由を告げた。


「強引なやり方で申し訳ないが、仕方がないだろう? 世の中には分相応というものがある。たかが、無限術師ごときが『転移』を使える空間術師を独占して良いはずが無いんだ」


(やっぱり、それが目当てか?)


 俺はそう内心で呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ