はじまり
目を閉じた。
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歩く。
闇の中を歩く。
恐怖はない。
風景が見える。
森が、海が、街が。
見たこともない風景が見える。
懐かしさがこみ上げてくる。
気がつくと、ネズミになっていた。
学校のテストの時間中、窓の外から色鉛筆でぐしゃぐしゃに書いたような黒い竜巻が入ってきて、目の前に来た。
気がついたら、ネズミになっていた。
困った、これではテストを前に運べない。
最後に名前を書いて、おしまい。
テストは友達が持っていった。
ご飯を食べる。
通学路をランドセルを背負って歩く。
木が大きく見えて新鮮だ。
スニーカーで歩いていく。
みんな大きい。自分がネズミになったから。
クレヨンで書いたようなタイトル。
「___ものがたり」と書いてある。
音楽が流れ出す。聞いたことのない懐かしい音楽。
自分の人生の本。
搭乗口に着いた飛行機を横から眺めて。歩いてリビングへ入った。
青い世界。
空が空と地面になっている。
風が吹いている。
風が吹いている。
白い世界。二人が立っている。
「君は誰」僕は言った。
「お前こそ誰だ」彼は言った。
「僕は僕だ」僕は答えた。
「僕も僕だ」彼は答えた。
「君は変なひとだな」僕は言った。
「お前も変な奴だな」彼は言った。
「お前は後悔してないのか」彼は言った。
「後悔はしていない」僕は言った。
「君は後悔していないのか」僕は言った。
「ああ、後悔していない」彼は言った。
「じゃ、元気で」僕は言った。
「ああ、元気で」彼は言った。
少女がビルから落ちた。
少年が血の跡を見つめた。
少女は淋しそうに笑った。
少年はひたすらに慟哭した。
少女がぎゅっと抱きしめた。
少年が優しく抱き寄せた。
少女が座っている。
光が扉から溢れんばかりに注がれている。
ボロボロの布切れを着ている。
手足には枷が付いている。
赤茶けた冷たい枷がついている。
少女は手を伸ばしている。
光に向かって手を伸ばしている。
光に向かって手を伸ばしている。
光に向かって手を伸ばしている。
光に向かって手を伸ばしている。
光に向かって手を伸ばしている
光に向かって手を伸ばしている
光に向かって手を伸ばしている
光に向かって手を伸ばしている
光に向かって手を伸ばしている
狐が、ふっとわらった。
光に向かって手を伸ばしていた。
光に視界が塗りつぶされた。
ぼんやりと、天井が目に入った。
六月一日、午前六時五十八分。