第01話「レはレトロゲームのレ」
ころん、と。
ドット柄のシーツの上に制服を着た、明るい髪色でショートカットの女の子が寝転がる。
友達の部屋のベッドにもかかわらず、全く遠慮する様子も無い清雅 浅海はベッドの上で「う~」っと伸びをした。
「あー! 花の金曜日に! どうして現役JKが部屋でごろごろしてんの?!」
「ほんまやなぁ」
にこにこと、行儀よく座っている同じ制服を着た女の子がティーカップを片手に答える。
肩の辺りで綺麗に切りそろえられた黒髪を少し揺らして、二双 絵里はこくりと紅茶を飲んだ。
しかし、そもそも「ハナキン」と言う言葉の意味を理解していないため、その後の言葉は続かない。
そのまま会話は途切れ、部屋は静まり返った。
突然、その静寂を破るように「バァーン!」とドアが開き、大きな紙袋を抱えた3人目の女の子が、綺麗に結わえられたツインテールを揺らしながらドヤ顔で現れた。
「あぁ、たえちゃんおかえりー」
「お! たえ、ゲーム機借りれた?!」
「おまたせです! いっぱい借りてきましたよ!」
ツインテールの小柄な少女の名前は天堂 任。
彼女は両手で大事そうに抱えたデパートの紙袋をテーブルの上に置き、中からいくつかの黄ばんだゲーム機を取り出した。
続いて、カステラの空き箱にぎっしりと詰め込まれた、古いゲームのカセットをその横に並べる。
それを見た浅海は、不思議そうにそのうちの一つを手に取った。
「たえ……これなに?」
「え? いやですねぇあさみちゃん。ゲームですよ、ゲ・エ・ム」
任が人差し指で空中を一文字ずつ指し示すようにして、そう説明する。
そう言われても、浅海には全くゲーム機に見えないのだから仕方がない。
「ゲームって……見たことないよ、こんなの」
友達の家で遊んだことのあるゲーム機とはずいぶん違う。
それに、この小さなカセットも、浅海は見たことがない物だった。
「それ、古いゲームちゃうのん?」
紅茶のカップをテーブルの端に置いて、絵里がカセットに顔を近づける。
剥き出しになっている端子部分を片目を瞑って覗き込み「ん~、なんやろね~」と声を上げると、結局何もわからなかった様子で、姿勢を戻した。
「古いかもしれないですけど、ゲームですよ! ゲームをいっぱい持ってるたえのおじちゃんが貸してくれたんです!」
ちょっと憤慨した様子で任は「ほらほら」と幾つかのゲーム機を取り出す。
白と小豆色の角ばった機械。グレーと白のもうちょっと大きな機械。他にもゲーム機らしきものが袋の中に入っているようだが、機械から延びたケーブルが絡まっていて取り出せない。
任は少し焦りながら、いくつものACアダプターやAVケーブルの塊と格闘していた。
「うーん、まあいいや! とにかく何かやってみよ!」
浅海が一番手前に置いてあった白と小豆色のゲーム機をテレビの前に置く。
その機械は彼女の一番近くに置いてあり、かつ、コントローラーが2つ付いていたから、2人で一緒に遊べそうだと思ったのだ。
その機械には「FAMILY COMPUTER」と言う文字が書いてあり、それ用のケーブルがどれかはちょっと悩んだが、最終的に絵里の「これ『ファミリーコンピューター』って書いてあるやんかー、ほんならなー、こっちの『ファミコン』って書いてある線が合うんやないかなぁ」と言う言葉で謎が解けた。
「ファミ……リー、コン……ピューター……なるほど! えりちゃん天才ですね!」
「えへへぇー」
「じゃあ、こっちのカセットもそうだよ、きっと!」
同じく「ファミコン」とマジックで殴り書きしてあるカステラの箱を手に持ち、浅海がふたを開ける。
中には色とりどりのカセットが数十個、整然と並んでいた。
「じゃあまず、テレビにつなぎましょう!」
こうして、天堂 任、清雅 浅海、二双 絵里の女子高生3人は、レトロゲームを触ってみることになったのだった。