第九十八話
「アイツらも堕ちたもんだな」
ミチヤはあきれ顔で溜息を吐いていた。
なにやら、魔法具に不備があったようで、途中から見れなくなったが、ミラルドに偵察に行かせてみた結果。全部分かっていた。
何が起こっても何もするなと言っておいたので、まあ、思ったとおりに進んでいるのだと確信していた。
予想以上にひどくなっていた。
力を持っていなかったものが急に力を入れたらどうなるのか。
それを、前世にあったゲーム、『ネイバーワールド・オンライン』で最高の生産職プレイヤーを相棒としていたミチヤは知っている。
勘違いするものなのだ。何でもできると思えるものなのだ。
だが、それらは海道の役目だと無意識に認識していたからこそ、その海道が出ないことを知って、いい結果を出そうとした。
気持ちが分からないわけではない。
だが、縁の下の力持ちで何が悪いのかとも思う。
表に勝手にかり出される俺も俺だが、そう言う役目だって必要なのだ。というか、居てもらわないと困るのが現状である。
期待していなかったのも事実だが。
「なんか……妙なもんだな。ああいうのが普通なのか、それとも、マスターの精神年生が高すぎるのか……」
「別に年齢詐称はしていないぞ」
「それは分かってるけどな」
イナーセルも溜息を吐いている。
「それにしても、どうしてこうなったのでしょうね」
ミーティアは疑問に思っているようだ。
「まあ確かにな」
茜は確かに普段からクールな性格だが、それでも、特別精神年齢が高いと言うわけでもない。
茜と他のクラスメイトに明らかな差ができている。
王国で何かをされたかもしれないな……。
だとしたらいろいろ面倒だが。
「魔法具の不備と言っていたけど、あらかじめ予想されていたようなタイミングだった」
ヨシュアとしてもそう思うらしい。
「王国の方で何かあったな……まあ、今更感も強いんだが……」
「ご主人様はどうするの?」
「まあ……同郷だしな。一応どうにかする予定ではある。あんな精神でうろうろされたら変なとばっちりが来そうだ」
来たとしてもパワーインフレしているうえに権力的にもすさまじい友人が多いのだが……いいのか悪いのかわからん。
手持ちのカードが多いのは悪いことではないのだが……これもこれで困るぞ。
「主の同郷のものとは思えぬほどの未熟者に感じた」
「私もだ。何かをされたのは間違いなかろう。だが、そもそも防ぐことをしないのも問題だ」
タイダロスとテラリアもあきれているようだ。
まあ、もとより他国との戦争の戦力にでもつかおうとしている国だ。
もうそろそろ爺さん帰って来いよ。孫が大暴れしているぞ。
「まあそれは後だ。他の生徒だが……他の学校の生徒もほぼほぼ倒し終わったようだな」
「そうですね。落ちこぼれと言う言葉の意味を調べたくなってきました」
「言うな」
バトルロワイヤルにも風雅か春瀬のどちらかが来ると思っていたんだよ。
そう思って当日、どっちもいないんだからな。
イカロスとマキナとセイルの三人で、風雅と春瀬の両方を相手にするのか……なかなかキツイ注文である。
だからと言って諦めることもしないだろうが。
まあ諦められたらこっちも依頼的に困るけどね。
「それにしても、第三学校の生徒。人数が多い割に終わるのが早いですね」
「そこそこの才能しかないのにそこまで努力していないんだから当然だろ」
ミチヤの場合、スタート地点を間違えなかっただけだ。
だからこそ、今の技術と実力があると言っていい。
下らん偏見などドブに捨てろ。それができないのであれば、偏見を持ったままで最強になれ。自分を否定するものをなくせば意見を主張できる。だが、それができないのであれば知らん。というか面倒見切れん。
だがまあとにかく。
「今は、頑張れとしか言えんな」
結局、教師にできることはそれくらいしかないのである。
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「なんていうかな。溜息しか出てこないね」
「それもそうなんだが……まさか、俺らがいない間に何かをされていることに気付けなかったとは……」
風雅と春瀬も、シヴァがおしゃべりなので、風雅は状況を聞いて春瀬にも話して、二人ともいろいろ把握していた。
海道は別の部屋で剣を振っている。
何を血迷ったのか知らんが、聖王斬以上の技を身に付けるとか何とか言っていた。
まあ、聖王斬そのものは特級を超えた超級剣術に匹敵する技だ。時間の無駄とは言わんが、すぐにできるものでもあるまい。
クラスメイトだが……二人の予想としては、おそらく、王国にいた時点では、だれかがその暴走原因を抑えていたのだ。
それを、抑えていた部分がなくなったことで、ここまでわけのわからんことに発展していると言う状況を引き起こしているのである。
そう言う頭脳労働は風雅も春成も嫌いだが、クラスメイトのことなので小さくは考えることが出来ない。
が、今はそれを考える時ではない。
誰かは知らないが、すでに彼らの試合は終わっているのだ。
あとは自分たちの話である。
「風雅はどうするの?ミチヤの生徒達との試合」
「本気では行くが、全力では行かん」
要するに、気持ち的に言えば妥協はしないが、手札をそこまで出すかどうかは風雅のさじ加減と言うことである。
というか、海道が勝手に暴走しそうだし。いろいろな意味で。
風雅も春成も弱くはないが、契約やアルカナスロットを使った戦闘でないのであれば、上級者とは言えなくもない。と言った程度の実力なのである。
無論。一般人からしたら化け物かもしれないが、彼らの場合は、持っている手札があまりにも未知数なだけだ。
風雅の方はまだ分かるものはいるかもしれないのだが、そもそもアムネシアと言う世界に、アルカナという概念は存在しない。
だからこその未知数やら可能性やらがいろいろあるのだが、本人にもよくわからない部分が多いうえに、だからこそ完全にたどり着くのに恐ろしいほど時間がかかる。
竜族領土のような状態にならないとも限らないので、二人とも鍛えてはいるし、うまく扱うためにいろいろと調べたり特訓したりしているが、未知数であるがゆえに測ることもできないので、どれくらい強くなっているのか、どれくらい使えるのかはよくわからない状況である。
「さて、どうするべきなのかね……」
その時、海道が戻ってきた。
「お、戻ってきたか」
「ああ。状況はどうなっているんだ?」
「なんか。魔法具の方で不備があったらしい。映像が写っていないみたいなんだ」
「故障か?」
「珍しいけど、無いわけではないみたいだよ」
風雅と春瀬は故障ではないことに気が付いていたが、海道に言うと面倒なことこの上ないし、そもそも自分たちも疑わない可能性そのものも、もとより0ではないので、あえて放っておくことにした。
クラスメイトにとっていい薬になればと思っているだけだからである。
「もうそろそろか?」
「多分な」
「今勝っているのは……第四学校の生徒か。去年はあまり戦績は立てれなかったらしいけど、すごく頑張ったんだね」
「「……」」
風雅も春瀬も、第四学校の生徒達が頑張ったことは否定しない。
彼らもミチヤも天才ではないのだから、何も努力をせずに強くなどなれない。
だから、彼らが努力していることは十分にわかる。
だが、自分たちが考えている頑張りと、海道が考えている頑張りが、なんとなく違うような気がするのも事実である。
その時、ブザーが鳴った。
「バトルロワイヤルの優勝は第四学校みたいだね。風雅、春瀬、負けてしまったみんなの分も頑張ろう」
仲間において誰かを攻めることが全くないので、結果的にこういう台紙になるのだろう。
だが、頑張ると言う言葉が、あまりにもすることの説明としては漠然としているとしても、やはり、彼らにとっても、頑張ることそのものに反対があるわけでもないのだ。
風雅と春瀬も立ち上がった。




