第九十七話
アドニスは第一学校の生徒を慈悲なく蹂躙した後、召喚勇者がいるエリアに向かった。
木の影に隠れて様子を見る。
『上位鑑定』で行使できる『領域鑑定』を行ったところ、その人数は27人。
最大人数でいる要である。
「先生が懸念していた槍使いと魔法使いはいないみたいだな」
聖剣を使うものもいると聞いていたが、その様子もない。
強いメンバーはトーナメントに出場しているということか。
ただ、何と言えばいいのだろうか。雰囲気的に言えば……素質はあるが強く感じない。
敗北を知らない場所で戦っていたかのようだ。
「先生と同じところから召喚されたと言っていたが……本当なのかな」
アドニスから見て、ミチヤはどうやっても勝てないような何かを感じるのだが、それが彼ら彼女たちからは感じられない。
拍子抜け、といえるほどステータスが低いようには見えない。
が、スキルの方はそこまで上達していないように感じる。
アドニスは隠蔽がそこまで得意ではないのだが、それでも、こちらに気付いている様子はない。
「まあ、やることは変わらないか」
アドニスがすることは、第四学校の生徒と一緒に優勝することだ。
相手に覚悟がないのならそれでも構わない。むしろ好都合。
ただし……アドニスとしては油断するつもりはない。
空気に紛れるように、アドニスは歩き始める。
まだ、こちらには気づいていない。
「……!」
アドニスは突撃する。
そして、一番後ろにいた生徒に斬りかかる。
一閃すると、ゲージリングの装甲が全て砕けたようで、その生徒は脱落する。
さすがに感じとられたようで、生徒全員がこちらを向いた。
「おい、来てるぞ!黒川、何やってんだ!」
脱落した魔法使いのような装備の生徒が、忍び装束の少年に怒鳴っている。
そう言えば、死人に口ありだったな。戦場ではありえないが。
「うるせえな。おまえがとろいんだよ」
「何だと!?ち……『ファイアストーム』!」
脱落した生徒が魔法をアドニスに向けてはなった。
な……ルール違反だろ。
さすがに予想していなかったが、想定内ではあった。
サイドステップでかわす。
魔法だが……こんな人が密集する中で範囲攻撃を使ったのだ。生徒を巻き込んでいるに決まっている。
詠唱がないところを見ると、才能は高く、戦闘経験は多いかもしれないが、教官を務めたものはそこまで実力者と言うわけではなかったようだ。
……!
アドニスは横に刀を一閃する。
迫っていた小太刀とぶつかった。
忍び装束の少女だった。
眼鏡をかけていて……胸でかっ!
まあいいか。
体格的にはアドニスの方が上だし、小太刀と刀では刀の方では刀の方が上だが、他の生徒の場所を考えると位置が悪い。
アドニスは無理矢理に押し込んでその場から離れた。
「茜ちゃん!」
法衣を身に包んだ少女が叫んだ。
こっちもこっちでかわいらしい顔だな……どうなっているんだ?このクラスの顔面偏差値高すぎるだろ。
ということを至高の横の方で考えて、跳躍スキルで離れた。
先ほど黒川と呼ばれた忍びが来た。
「おい。まさか俺達に対して1人で来たんじゃないだろうな」
「……」
アドニスは答えない。
無駄な情報を教えるつもりはもとからない。
「おい、無視してんじゃねえ!」
先ほど脱落判定をくらった生徒が杖を構える。
それに合わせて、魔法職の生徒が次々と手を出したり杖を構えたりする。
……ん?先ほど倒した生徒の他にも、何人かゲージリングが消滅していないか?
確かに、直接視認することが出来るものではなく、ゲージリングについているランプが消えるだけなのだが……。
「なあ、何人か脱落しているぞ」
「うるさい!死人に口ありだ!」
否定はしないがややこしいからやめてほしい。
何が困るのかと言うと、ゲージリングが消えている現状でこちらが攻撃を当てたらどうなるか。
そう言えば、中継用の魔法具はどうしたのだろうか。
うまく作動していないのか……それは分からないが、止めに来ないところを見ると、ちょっと面倒だ。
ていうか……自分のゲージリングがもう出ていないことを知った生徒達が、隠れてこそこそと再使用しているのだが……。
「もう考えるのはやめようか……多分無駄なんだろうけど」
飛んでくる魔法を次々と斬り落としていく。
そんな中でも、アドニスは動いていく。
あることを認識しながら。
魔法を連発することは悪いことではない。
物量作戦と言う言葉もある。
だが、魔法にも相性があり、相殺することが可能だ。
これは、飛び交う魔法同士も例外ではない。
授業で習ったことだ。
道也先生やミーティア先生は多くの属性の魔法を使えて、それらを同時に発動するが、他の属性の影響を受けないように、必要であればコーティングしている。
彼らが使っている魔法は確かに強い。
だが、火と水が合わさってしまったら火の方が威力が減少する。
雷と水が合わさった場合、上位の一つ上の特級にならないと純水にならないので不純物が混ざることになり、電気分解が発生する。
光属性と闇属性が合わさると、相対現象が発生してともに威力を失う。
風属性魔法が飛び交うと、思った軌道に跳ばないこともあるし、火や水の魔法の攻撃ルートに影響が出る。
「なんか……化学変化がものすごく発生している気が……」
魔法は式さえ整っていれば発動は可能だが、発動するものに寄って誤差が出る。
これは、本人の認識力によって変わって来るのだ。
「そう言えば、ミチヤ先生は魔法ではなく科学というものが発達した世界から来たって言ってたな」
となると、魔法に寄るものではなく、本来の現象をもとにした知識が頭にしみこんでいる。
結果的に、化学変化が発生しやすくなっているのだ。
「まあどのみち、威力が下がっているから問題はないか」
アドニスは斬り進んで行く。
慣れて来ればこれくらいわけはない。
それに反応して……やや遅くではあったが、盾を持ったもの達が立ちはだかる。
アドニスは跳躍して、彼らの後ろに行った。
そして、着地と同時に斬る。
ゲージリングの装甲は消えた。
そして……魔法をこちらに向かってはなってきていた。
盾持ちの職業のもの達が魔法を使えることに驚きはない。
はなってきた魔法は、即座に切り捨てる。
だが、ルール違反を普通にすることに対して驚愕せざるを得なかった。
しかし、その驚愕は呆れに変わり、どうでもよくなってくる。
しかたがない。動けなくなってもらうか。
具体的には氷の彫像になってもらう。
時間がかかるので、ちょっと時間稼ぎをしよう。
「ルール違反なんじゃないのか?」
「何言ってんだ。再使用してはいけませんって書かれてねえだろ」
「……」
一瞬殺意を抱いた。即座に捨てたが。
「それに、お前、第四学校の生徒だよな」
「そうだが?」
「俺達は勇者なんだ。お前みたいなやつに負けるわけにはいかねえんだよ」
「すでに負けているぞ」
「るせえ!」
槍で突いてきたが、そこまで早くもない。
刀で逸らして距離をとった。
「……!」
刀を横に振る。
先ほどの忍びの少女とまた鍔迫り合いになった。
「クラスメイトがすまないわね」
小声で話してきた。
「……彼らは一体何があったんだ?」
「はっきり言うと、調子に乗っているのよ。私たちの世界では、私たちのほとんどは平凡だから」
「力を手に入れて、それを振るうことばかり考えているということか」
「そういうこと」
それもそれでどうなんだ。
「ミチヤ先生とは大違いだな」
「先生……か。なるほど、あの二人の予想は正しかったって訳ね」
「その二人は、槍使いと魔法使いか?」
「そうだけど……」
「ミチヤ先生は、気を付けるのはその二人だけで、他はたいしたことはないと言っていた。まあ、その通りに用だが」
「すまないけれど、私個人の手には負えないからね。頭を冷やしてほしいのよ」
「なるほど……しかし、調子に乗っているにしては少々あれ過ぎているような気が……」
「聖剣使いの男子生徒がいるんだけどね。何時もいいところを持っていかれるのよ」
「……」
アドニスは、ミチヤと聖剣使いの男……要するに海道が決闘しているところを見たことがある。
いいところを持っていかれているとは思えないのだが……まあ、あるいはそう感じているだけなのか……。
それはいいか。
「まあ、一応分かった。氷属性の防御はしておいてくれ」
「頼むわよ」
少女は離れた。
さて、もう準備は終わっている。
アドニスは空を見上げた。
そこにあったのは……濃縮されてゆく氷だった。
そのそばには、雪を降らせている魔方陣がいくつも存在する。
それらの雪が集められて、一つの点に濃縮されているのだ。
「はあ……」
アドニスは溜息を吐いた後、指を鳴らした。
濃縮されていた冷気は、その収束をやめて、いっきに解放される。
そして……あたり一面を銀世界に変えた。
チラッと、先ほどの少女を見る。
氷の彫像の中にいる。
どうやら、中に空間を作っているようだ。
少女は軽くうなずいた。
アドニスはもう、そこからは何も言わずに離れていった。




