第九十六話
さて、宿を用意するのも面倒だったおまけに、イカロスが『もう馬車の中でも問題なくね?』と言ったことにより、本当にそうなってしまったのである。
この行動力と決断力はよくわからん。第四学校見たいな環境では必要なのだろうが、それは道也が知ることではない。
大改築が整ったコロシアムにて、多少驚愕しているものも見える中、始まった。
学園長兼国王であるゴルバードがなんかいろいろ言って、その後、開始宣言をして、本格的に始まった。
とはいっても、まずは広大なフィールドでのバトルロワイヤルである。
「アドニスを入れているからな。まあ、問題はないと思うが……」
アドニスはトーナメントに出場する気はないようだった。
まあ、イカロスがかなりやる気のようだからな。それはそれで問題はないので、アドニスの方をこちらに入れたのだ。マキナはトーナメントメンバーである。
トーナメントメンバーは、イカロス、セイル、マキナの三人。他はバトルロワイヤルに参加する。
その戦う場所なのだが……。
「何であんな見晴らしのいい大草原で……集団であるが故の駆け引きと言うものが分からんのかね?」
映像魔法具で映し出されている情報を見ながら、ミチヤは客席の超高級生地を使った椅子に座った。
その横では奴隷たちも見ている。
フルーセは人化している。コハクは道也の足元でプルプルしている。
ルークはバトルロワイヤルを直接見に行った。
そして、客席に対するツッコミだが……ヨシュアは容赦も遠慮もなかった。ついでに言うなら慈悲もなかったのである。
ランクが高い椅子を何百と言う数用意して、それぞれに設置した。
しかも、魔法具によって、生活魔法の『クリーン』が定期的に自動発動するため、掃除なしでも普通に問題はない。
ところどころ蛇口があるのだが、ここからは温度調整ができる真水が出てくる。
どうでもいいけど、ジュースも出せる。コップは大量においてあるし、回収箱にさえ入れてくれれば、魔法具で洗浄して自動で並べるので問題はない。
実は観客席の真下には、超高性能の医療魔法具が設置されており、腕が飛んでも問題ない。魔石さえあれば。一応大量においてるけど。
持てるすべてを出し切ったわけではないようだが、ミチヤの言う通り、『好きにした』らしい。
「さて、生徒達はどんな戦いを見せてくれるのかね?」
「分からん」
それ以上に気がかりなのは勇者たちだがな。
まさかの、別枠出場だった。
ゴルバードもそのあたりのことは言っていたけどね。
見渡す限りの草原だからな。
その時、ブザーが鳴った。
「始まったか……」
生徒達が動き出した。
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アドニスは刀を構えて歩きだした。
「アドニス。頼むぜ。第一学校の連中、ぶっ飛ばしてきてくれよ」
クラスメイトに対して、アドニスは左手を上げるだけで答える。
アドニスは、単騎で第一学校エリアに乗り込むことになっている。
発案はイカロスだ。
彼曰く、その方が面白そうだから。だそうだ。
「攻め込む側の身にもなってほしいものだね……」
アドニスは苦笑する。
第四学校の生徒達がいるエリアに来るのは、おそらくだが、一番近いところにいる第三学校の生徒達だろう。生徒も多い。
階級がちょっと高い程度の貴族や商人の家系がそろっている。
が、まあ、今の第四学校なら問題はないだろう。
「さて、頑張りますか」
アドニスは付与術を自分にかけて、敏捷を最大限上げる。
そして、マックススピードで駆けだした。
直線距離は聞いていないが、少なくとも10キロはあるだろう。
だが、それでも問題はなかった。
「見えてきた」
まだ作戦会議中のようだ。
……そこまで進んでいるようには聞こえないけど。
全校生徒は540人。そのすべてが上級貴族と言える立場のものなのだから、階級の名前の重さが軽いことがうかがえる。
さて、始めるか。
「『黒閃・六華』」
刀を真横に一閃する。
すると、その軌跡から六つの閃光が出現し、第一学校の生徒達に直撃していく。
貫通能力はやや低いが、それでも威力は高い技である。
超級刀術で行使できる技だ。ミチヤ直伝である。
ただ……この技だけで50人くらい倒れたのは……威力が少々バグッていたということにしておくことにした。
「先生が使ったらどうなるんだろうな……」
突撃する中でも、そんなことを考えていた。
流石に何人かこちらを向いた。
それぞれが魔法を使ってくる。
だが、そんな中でも、すべてを認識していた。
火や水、風や土、雷や閃光。
上級や、そのワンランク上の特級の魔法を混じっている。
どれもこれも、確かに、才能さえあれば使えるだろう。
だが、彼らは天才ではない。
天才であれば、強くなるために、努力する必要すらないのだから。
ならば、彼らはただ、才能があるだけだ。
才能があり、努力した自分が負けるはずはない。
多くの魔法がアドニスに向かって降り注ぐ。
「『八重桜』!」
桜が散った。
一つ一つが、まるで魔法をくらい尽くすかのように、消し飛ばしていく。
「おい!アイツを止めろ!」
「無茶いうなよ!おい、来るぞ!」
「おい貴様!我々に刃を向けるとはどういうことだ!」
全ての言葉は、アドニスには届かないし、届いたとしても、響くことはない。
なぜなら……すべての責任はミチヤに振りかかるだけだからだ。
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「ちょっと待てやゴルア!」
そのころ、観客席でミチヤは叫んでいた。
「ど、どうしたのだ?マスター」
テラリアが首をかしげる。
「いや、なんか嫌な電波を受信したような感じがして……」
「刀使い同士が持つ第六感みたいなものか?」
「いや、そう言った類のものではないが……」
あ、あのガキ!他人事だと思って……。
いやまあ確かにイカロスにはそれっぽいこといろいろ言ったけどさ。敵陣地のど真ん中でンなこと考えるなよ。心臓に悪いわ。
ということをグチグチと考えていた時だった。
太った中年男性がこちらに来たのだ。
「おい。教師は誰だ」
「俺ですけど」
ミチヤは立ち上がった。
あ、ごめん。ミチヤの方が身長高かった。
見下ろす形になるが、まあいいだろ。別に。
「これは一体どういうことだ!」
「度の状況に対してですか?」
第三学校の生徒達に対しても現在無双中……特に、テルル、アイン、ミトンの三位一体の特大魔法が……という状況でもあるのだ。
「とぼけるな!第四学校のクズがたった一人で第一学校の生徒達を倒すなど、あってはならぬ!何か不正をしているのだろう。今のうちに白状しておいた方が身のためだぞ」
そっちか。
「何の騒ぎかな?」
「このドガルド・リトランゼに口を挟むとは一体どこの馬の骨……こ、国王!」
ゴルバードが立っていた。
ついでに言えば、傍にハルカもいる。
頭の上と、両手で抱いているのと、足元をうろちょろしている三頭の子豚がいる。
今回は三頭兄弟で来たようだ。
「むう、まあ、今日の私は耳が遠いのでな。言いたいことがあるのならきびきびと発言してほしいものなのだが」
「いえ、何もありません。新米教師に対して、すこし教育をしていたところです」
ゴルバードはフム、と頷いた後、言った。
「『とぼけるな!第四学校のクズがたった一人で第一学校の生徒達を倒すなど、あってはならぬ!何か不正をしているのだろう。今のうちに白状しておいた方が身のためだぞ』であったか?」
うわ、この国王、悪い大人の典型である。
「そ、そのようなことは、断じて……」
「このように記録も残しているのだがな」
そう言って球体を取り出した。
魔力を入れると、少し光る。
そして、先ほどと全く同じセリフが、ドガルドの声で響いた。
「まあよい。君も教師なら、失敗から学ぶことだ。失敗は成功の母というだろう。これからも精進するがよい。それから、彼は友人でね。君が裏でこそこそとして教師を解雇させていたのに困っていた私を助けようと、今回、教師を務めてくれることになったのだ」
慈悲とかないの?
「自己紹介が遅れました。第四学校臨時教師、ミチヤです」
「というわけだ。まあ、もう君は戻りなさい。それから……君に未来はない。そろそろ夢からたたき起こしてやろう」
ゴルバードが指を鳴らすと、どこかで見たような忍び装束の女の子が突如現れて、ドガルドを縛り上げる。
口にもさるぐつわをはめて、連行していった。
「なあ。ゴルバード」
「何かな?」
「好きな言葉、まあいくつかあると思うけど、聞いていいか?」
「一つは『現行犯逮捕』だと言っておこう」
「……」
「まあよい。今回は、あの生徒達を育ててくれたこと、感謝する」
「それに関しては優勝してからにしてください」
「いや、私個人としては十中八九無理だろうと思っていた」
殴ったろか?
「臨時講師としてではなく、正式に教師として迎え入れたいくらいだが、君は旅の者だからな」
「そうか」
「それから、ハルカから聞いている。有事の際は頼むぞ」
「それに関しては任せてください。もう押し付けられるのもなれているので」
「今度、よい胃薬を渡してやろう」
「報酬に入れておいてください」
「そうしようか。それでは、また話そう」
ゴルバードは歩いていった。
「……で、今日は三頭兄弟で来たのか」
「む。本当はテン君だけ来る予定だった。でも、ポコちゃんとトム君が駄々をこねたから連れてきた」
「人間くせえ……」
何を言えばいいのかだんだんわからなくなってきた。
ハルカは足元でうろうろしている子豚を見た。
「紹介する。ポコちゃんとトム君の兄。テン君。む?ポコちゃんだったかな。どっちだったっけ?」
おい!
ミチヤは自分で鑑定した。
ちょっとバグッてるステータスもあったが、今回は名前だけ見る。
「鑑定では、足元にいるのはトムだぞ」
「その手があった」
トムはハルカのズボンの裾を噛んで引っ張っている。彼なりの抗議だろうか。
「ま、餌くらいはやるよ」
「む。食べ過ぎると太る」
「それが問題ないんだよな」
神格料理の効果である。
ハルカも察したようだ。
餌を出すと、三頭ともフガフガ言いながらもりもり食べ始める。
「可愛いですね~」
ミラルドが触ったりつついたりしている。
子豚たちは、何?と一瞬思って振り返ったようだが、すぐに食事に夢中になった。
「む。まだある?」
「一応作ってはいる」
次の瞬間。子豚三頭はそろってガバッと振り向いてミチヤの顔を見た。
その頭上に、『!』となるのが幻視出来るレベルだった。
分かりやすいガキどもだな。何歳なのかは知らんけど。
「ハルカの言うことちゃんと聞けよ」
三頭とも頷いた。
道也は溜息を吐きながらも餌を出してやった。
「まあ、モンスターに関しては、俺の方でも考えておく」
「頼む」
ハルカもうなずいた。
そして、子豚たちの方を見る。
「三人とも、行く」
ハルカがそう言うと、三頭はさらに残っている分を瞬食する。
そして、ハルカの方に寄ってきた。
「……いつもより素直」
多分、さっきの『ハルカの言うことちゃんと聞けよ』が聞いているのだろう。
いつもよりも苦笑しているのが自覚できた。
本当、どういうことなんだろうね。




