第九十二話
さて皆さん。教師と言うものが『教える』という職業であることはご存じだろう。
改善点があったらそれを指摘してアドバイスを出したり、何か心配していることや不安なことがあったら話を聞いて、それを解決したり。
まとめるなら、『しっかりと向き合ってする』みたいな感じなのだろうか。
ミチヤは先生をしたことなどないので極意云々はいまだによくわからんが、簡単に言えばそんな感じだと思う。
「……」
ミチヤはいろいろ困っていた。
既に、マキナが来てから何日か経過している。
彼女の父親であるセレリムが追記か何か知らんが手紙に書いていたのだが、才能もあり努力家である。
彼女なりにしっかり学んでいたのだ。環境もよかったのだろう。
神聖属性において天使族は高い才能を持つ。
これは種族的なもので、王族の名に恥じないものだった。
いや、そう言うことがいいたいのではない。
ミチヤは現在、馬車の中にある机で作業中なのだが、その……彼女専用の参考書の内容に関して何を書けばいいのかわからないのだ。
だからと言って作らなかったら他の生徒が五月蝿いうえに、マキナ本人も泣きだすだろう。
自分も生徒だったら、急に編入してきたからと言って渡さないのは差別しているのではないかと考えるかもしれない。
調子に乗って参考書とか作るんじゃなかった。
「なあミーティア。なんか子供の時に戦闘関連で何か困ったことってなかったか?」
「それは一体どういうことなのですか?ミチヤ様」
まあ、どこからどう見ても過去をほじくり返しているのだ。その疑問はごもっともである。
さらに言えば、君ら姉妹は似ていると言っているようなものだ。
ミーティア本人としては複雑なのである。本当にいろんな意味で。マキナを見ていると過去の自分を見ているような気がするからだ。良い意味でも悪い意味でも。
ミチヤとミーティアは私的にも公的にも主人と奴隷の関係だが、だからと言って聞いてはいけないこともあるのだ。
と言うことを完璧に無視しているようなものなので、ミーティアが怪訝な顔をするのも普通である。
そのそばでイナーセルは爆笑しているが。
「いや、本当……参考書の内容に困っちゃって……天使族って教養はかなりいいんだな……」
「おそらく、お父様はあの子を私と重ねたのでしょう」
「その場合、戦いとは無縁の箱入り娘になったりするものだと思うが……天使族の場合は違うのか?」
「お父様の場合は違うでしょうね。厳しくすると言う意味ではありませんが、戦いではないものねだりしても意味はありませんから。そんな場合でも敵を圧倒出来れば、結果的に問題はないのも事実ですし」
アークヒルズの場合はよくわからんが、第一王女であるシフルが強いのはシュレイオが影響している部分もありそうだ。第二王女であるミリアに関しては……戦闘をさせることそのものを放棄している気がしなくもないが。
ただ、どちらも基本思考が脳筋であることにほとんど変わりはない。
だからパワーインフレするんだっつーの!
「うーん……こまったな。なんかいい案ある?」
「偉人の言葉を書きまくることで文字数を稼ぐというのはどうだ?」
タイダロスが答えてくれた。
「実に君らしい意見だが。子供にンなこと吹き込んでどうするんだ……」
「悪くはないと思うのだが……」
「没」
ミチヤは一刀両断。
テラリアが次に口を開く。
「精神を強くできるようにするべきではないのか?」
「まあ……そうなんだが……あれはもう天性のものだろう」
メイドコスさせて接客業させるくらいしか方法が思いつかん。
「難しいと思いますが……」
「ミーティアが言うんなら無理だな。はい次」
「いえ、あの、一体どういうことなのですか?」
ミーティアにまた変な目をされた。
「実力はあるし才能もあるんだよなぁ……」
まあ、テラリアの言う通り、精神面の問題さえ解消できれば、何の問題もないのである。
解決方法がよく分からんが。
「さて、どうするかな……ここまでないように困る子だとは思わなかった」
仕方がない……。
「こうなったら仕方がない。長所を伸ばすことはできないが、いろんな属性の魔法を使えるようになってもらおうか。別に悪い話でもないんだし」
天使族は神聖属性の魔法が得意。これは間違いない。
ミーティアを見る限り、訓練方法によってはすべての属性を使えるはずである。
ただし、テラリアの方が風属性魔法を使えるので、得意分野には一歩劣る程度になる可能性もある。
とはいっても、学生レベル程度ならどのみち高いことは変わらない。
「マキナって、神聖属性以外ってどれくらい使えるのかね……」
マキナは授業が終わるとさっさと帰った。
晩御飯を俺に作ってほしいとか言いやがったので、それに関しては料理係に失礼だから帰って食べるように言ったからである。
でもやっぱり駄々をこねるので、洋菓子作って渡しておいたが。
「教師って苦労する職業だな……」
念筆で高速作成しながら、そんなことを考えていた。
単純に教える程度ならいいのだが、教師となると少々それが異なる気がしなくもない。
分かっていて引き受けたことではある。
だが、すでに大会優勝に必要な水準に達しているというのに、まだいろいろやらなければいけないというのは一体どういうことなのだろうか……。
「出来た」
「あんなに悩んでたのに決まると早いよな。マスターって」
「そういうもんだ。しかし、印刷技術抜きでこんな本を全部かいて、手が全く疲れないというのも、地球からすると妙なものだが……」
ひょっとして、念筆スキルって知る人ぞ知る、みたいな感じの便利スキルなのか?
と言うか便利である。
チョークの代わりだってできるし。
「さて、参考書は出来た。あとは明日に渡せばいいだけのことだ」
「そう言えば、あと二か月で対抗戦だが……俺達だけでも予行演習くらいはしておいた方がいいんじゃないか?」
「そうだな。まあ、まだトーナメントに放りこむ生徒を決めていないんだけどな……」
アドニスがどうするかちょっとまだよくわからん。
別に、どちらでも問題はないのだ。
ただし、今回はもうみんな、勝てると思っている。
来てくれた方が話がややこしくならずに済むのだが……どうしたもんか……。
「いっそのこと。孤児院の皆も観客席に連れていけばいいんじゃないか?」
「まあ、確かに」
ぶっちゃけるとそんな感じだな。
イナーセルの言う通りだ。別に十数人程度、連れていく方法なんぞいくらでもある。
というか、フルーセが引っ張る馬車を増やせばいいだけの話か。
「しかし……あのクラス。人族オンリーだったのは驚いた。マキナが入ってやっと天使族が入ったって感じだもん」
「そうだな……」
階級至上主義だということはよくわかったが、人族至上主義がここ数年で強くなったのか、よくわからんが、面倒なことになっているといえる。
さすがに、マキナを追い出すようなことはしないだろう。
というか、そう言う話になってもミチヤがさせない。
理由?天使族の王が五月蝿くなるから。
「アドニスが出場したら、まああとは問題ないだろ」
とか言いながら、竜族領土では神が絡んできたのだが……。
いやもう本当に、そう言うのは勘弁してほしい。
まじめな話、ミチヤは地球では一般人なのだ。
考えることはたくさんある。
が、竜族領土みたいなことにはならないでほしい。
とはいうが……なるんだろうなぁ。多分。
退屈する日々がいいか、苦労する日々がいいか。
それはもちろん前者だ。
ただし、こう……なんというか、いつも忙しいのに急に静けさが来ると、嵐の前の静けさみたいな感じで精神的に困るのである。




