第八十九話
さて、気絶した海道を春瀬のところに放りこんでおいて、生徒全員分の参考書をあーでもないこーでもないと唸りながらも作成、配布し、生徒全員の実力が、個人で第一学校の生徒を三人くらいなら同時に相手にできそうな感じになってきたときであった。
第四学校周辺のいたるところに果樹園ができていた。
「ヨシュア」
「?」
「自重って言葉、知ってるか?」
「言葉の意味なら知っている」
だろうな。そうだと思ったよ。ついでに言えば俺も人のことは言えないけどさ。
ちょっと遠くを見れば、イカロスがリンゴの実を木からとって近くにいた子供たちに投げ渡していた。
良い兄貴分だ。
さて、こんなことになった理由。
ちょっと前に種を巻いたらこうなった。としか言えん。
成長速度がちょっと変な方向性に進んでいる気がするのだが……そこのところどうなのだろう。
「しかし……この成長速度、どこかで見たことがあるような気が……『ラッシュプラント』をもとにしたのか?」
「その通り」
ザナークル王国で、たしか、ヤナモと言う村だったか。そこに海道が放った植物だったはずだ。
「成長力だけを再現したということか」
「うむ」
「植物にも精通しているのか?」
「植物として認識するのではなく、それを材料にすることで生産することを補っている」
植物のことはよくわからないが遺伝子工学は得意と言っているようなものか?
しかし、これだけでも雰囲気がかなり変わる。
……ところどころで肉が実っていたりするのだが……いいのかあれは。見るもの全員が不思議がっているぞ。
「まあいいか。食料問題は改善されるだろう。栄養がちょっと偏りそうだが、穀物までやっていたらきりがないからな」
「不可能ではないけど、面倒な部分が多い」
耕すの嫌です。
面倒だからだ。
「さて、次にどうするか……」
することはいろいろあるような気がしてならないのだ。
とはいっても、何かが思いつくわけでもない。
海道は来ないでほしいけど。
アドニスの孤児院に行くか。
行ってみたが、あまり雰囲気は変わっていなかった。
ミチヤはドアを開けて中に入る。
「おじゃまするぞー」
「先生……」
玄関の近くでアドニスが苦笑していた。当然である。アポもくそもないのだ。ここが日本だったら不法侵入である。
「で、最近はどうだ?」
「先生がまいた種。あれのおかげでどうにかなってます。食料に関しては外部に頼らないとどうにもならない部分が多かったので、それが解決できました」
「そりゃどうも」
その時、子供が一人こちらに来た。
「あ、黒髪の先生!」
この世界で黒髪は珍しいのである。
だが、ミチヤと呼ばれないのは逆にどういうことなのだろうか。
その子供がいったのを聞きつけたのか、子供たちが奥の部屋からわらわらと来た。
「あの時の!」
「ねえねえ。また料理作ってよ~」
ミチヤがここに来るたびに、料理することを頼まれるのだ。
まあ、『神格料理』のスキルを持っているミチヤだ。
子供たちの胃袋を掴むのに、苦労することはなかったのである。
そのせいと言うこともあって、料理することになったのだ。
まあ、そのくらいはどうと言うことはない。
が、ちょっと調子に乗っている部分も否定はできない。
「三回まではやってやるって言ったはずだが……」
「ケチなこというなよ~先生~」
「いい大人なんだからさ~」
普段胃潰瘍に苦しんで言うことを知らない子供たちは言いたい放題である。
アドニスも苦笑していた。
ミチヤは溜息を吐くと、近くにあった岩を素手で握りつぶす。
「はっはっは。いくら温厚なお兄ちゃんでも怒る時はあるぞ。命をかけて言いなさい」
「「「YES、My Load!」」」
変わり身の早いガキどもである。
で、畑などに行って作業をして、それからミチヤは料理をした。
一仕事終えた後にこういった食事と言うのは進むものだ。
みんなおかわりをねだりまくっているが、自分で言って働かせたあとなので、文句は言わずに着々とこなしていく。
ただ飯ぐらいは好きではないが(自分で作るし)、笑顔を見るのは好きである。
食器洗いをしていると、アドニスが話しかけてきた。
「何かすみませんね」
「別に問題ない。ただ、普段甘やかしているのは分かったがな」
「ははは……何をさせればいいのかわからないということもあります。自分のことに必死ですから」
「そりゃそうだろうな。良くそんな実力になれるような訓練時間があったものだと感心できるほどだ」
アドニスの実力は何度も言うように高い。
その実力をどう使おうと思っているのかは知らないが、すくなくとも、一度に何人も面倒を見れるほど、彼は器用ではない。
それはミチヤも同じだ。彼も六人を引っ張っているが、それはそれぞれが一人でも問題ないのだ。
もとより、人族以外の種族は、幼い時代から一人で生きていける種族も多い。オーガはその中でも典型的で、そのオーガであるイナーセルが家を出て武者修行を始めたのは三歳のころだという。
ミチヤが三歳のころか。一体何をしていたのだろうか。なんせ、前世の記憶持ちで今の人生を歩んでいるのだ。生まれたばかりに赤ちゃんプレイとか『あ~~~ストレスたまる~~~』みたいなことしか考えたことはない。まあそれはいいか。
「働くことを覚えないと大人になった時につらいからな。親のすねかじりのニートにしかなれん」
「なんというか……先生が言うと生々しいですよね」
まあな。
前世を含めて115年も生きているのだ。経験や知識はいろいろある。
「まあいいが、やっぱりどうにもならんな」
ミチヤは二階を見上げる。
「リリアも、分かっていると思います。多分ですけど」
あれから風雅と春瀬にあって話した。
彼女を病気を治すことが出来るかどうか。
ミチヤたちが望む結果を基準を前提とすると、不可能。と言うことになった。
風雅の『概念破壊』だが、そもそも、概念を消滅させるということ自体、世界に対して影響力が大きすぎる。
調節ができるかどうかと言う問題ではなく、病気に蝕まれている少女の体では、その反動に耐えることが出来ないという。
完成に達しているとかそう言う意味ではなく、耐えられないのだ。
竜族領土で問題がなかったのは、そもそも行おうとしたことが漠然としていて、なおかつスケールが果てしないものだったからだ。
結果的に、『今』を破壊することで世界を再構成したといっても過言ではない状態だった。
確かにそこまででかいスケールであれば、概念破壊と言うことが適合する。
そもそも、病気を治すというカテゴリー自体、概念破壊と言うに値しない。
病気と言うにしては症状があまりにも重く、概念破壊と言うにしてはスケールが小さすぎる。
風雅は以前、竜族領土で概念破壊をした時に、妙な感覚がしたらしい。
その感覚は、本人にもよくわからないものだったらしいが、簡単に言えば、納得できない何か、と言うものだ。
概念破壊。これはすさまじい規模だ。使うだけでもかなりの魔力の使用を強制される。
だが、破壊した概念は、何処に消えるのか。
破壊と言う言葉は、機能しない状態にすると言う意味である。
作品を破壊すれば粗大ゴミになり、建物を破壊すれば瓦礫の山になり、魔法を破壊すれば何の要素もないレゾナシウムにかわる。
損害を破壊する場合、その破壊したものを材料にして利益を生み出す。
概念破壊は、概念を壊し、その概念がその場に存在不可能な状態を形成することで、大量のレゾナシウムが、それ以外のものを形成するように誘導を行う。というものだ。意味が分からん。
何を持って損害と言うのか、何を持って利益と言うのかは発動者である風雅が決めることだが、それでも、人の死であったり、自然の損失が『破壊』され、『元の状態』以外が存在不可能になったことで、元に戻った。
ただしこれは、結果に対する適量の対価として魔力を使ったから出来たことだ。
仮に病気一つに対して『概念破壊』を行う場合、わざわざ豆腐を潰すのに全力でハンマーを振り下ろすようなもの。
本来なら手でちょっと叩けばつぶれる。この場合なら、その下にあるものがちょっと振動する程度のものだ。
だが、ハンマーを振り下ろせば確実にその下にあるものも壊れる。
病気にかけた場合、もとよりその力には物体を壊す力が設定されているのだから、余剰エネルギーが少女の体を破壊し、最低出力でやったとしても町が消える恐れもある。
結果的に、ミチヤが望む結果にはならない。
「……はぁ、世知辛いもんだな。本当に」




