第八十七話
「え、海道にあったのか?」
「うん!」
ミチヤは頭を抱えたくなったが、あえてしなかった。
最近現実逃避が多くなっている気がするからな。
いや、生徒達に教えている時は何の問題もないのだが。
「ん?海道がいるってことは、風雅と春瀬もいるってことだよな」
「そう言うことになるな」
となると、あの子の病気も治せるかもしれないな。
だが……概念破壊で治すのはダメだな。シヴァに頼むしかない。
そもそも、槍で貫くことに変わりはないのだ。病弱少女にそんなことをしたら、情報規制状態になるのは確定である。
じゃなくて。
「しかしなぁ……会うといってももうちょっと遅いタイミングと思っていたんだが」
まあ、会わない方がよかったんだけどね。
「まあ、受け入れようぜ。マスター」
「他人事だと思って……」
まあ、イナーセルからしたら他人事かもしれんが。
「さて、どうするかな。まあいいか、もう臨機応変で」
というか、これまでずっとそうだった気がするのだ。
今更と言えば今更である。
「そう言えば、マスターが俺達を解放しない理由は何なんだ?そうすれば海道もうるさくならないと思うが……」
「ん?ああ、一応理由はある。俺の称号に『真名解放の奴隷使い』って言うのがあっただろ」
「たしかあったな」
「なんか、その称号そのものが効果を持っているようでな。真名解放状態の所有奴隷数が多いといろいろ補正を受けやすいんだ。あと、体質とかがよくなったりもするから、ステータスプレートでは判断できない部分も影響すると思う。ミラルド、舌なめずりをするな。俺は食料ではないぞ」
まあ、ミラルドにとって、ミチヤと言うのはちょっと言うことを聞いておけば極上のものを食べさせてくれる人である。
少ない労働で最高の食事を食べられるのだ。そう言う意味では、現代日本人からすれば『ふざけんなゴルア!』と言いたい心境であろう。
しかしまあ見つかってしまったものは仕方がない。
だってどうにもならないことをいつまで悔やんでいても仕方がないのだ。
免れることができないのは十分に分かっているからである。
でも、竜族領土にいる時は全く遭遇しなかったな。
あれが続けばいいと思っていたのだが。どうやら人族領土にいる時はあってしまう運命らしい。どんな運命だ?
「ちょっといろいろ見て回るか。というか、生活環境そのものもそんなに良くないからな……」
「在庫だけはあるからな。完全無料の食堂でも開いたらどうだ?」
「できないわけじゃないが面倒だしな。個人用の参考書作ってたからちょっと頭が痛いし」
「ミチヤ様の故郷では参考書は先生が個人に対してつくるものなのですか?」
「ンなわけないな」
ということで、荒れている大地でも十分に育ってくれる種を各種ポーチにぶっこんでそれぞれいろんなところに行くことにした。
ちなみに、日光だけでOK。水すらもいらない。
だって、植物が保有する魔力で育つからな。その魔力生成のために日光を利用するように改良したのである。
いや、厳密には、そうしたのはヨシュアだが。
その時のミチヤたちの感想だが、『農業って一体……』と言う感じだった。
そして、ミチヤもいろんなところに行って種を植えている。
リンゴの樹みたいなものもあるので、植えていけばみんなが食べられるであろう物もたくさんあるのだ。
ただし、ここで予想外の出来事があった。
「茅宮、見つけたぞ!」
「……」
海道に遭遇したのである。
この日以上に、日常において町に貢献することを選んだ自分を恨んだことはない。
「何でお前がここに……」
「もちろん。お前から奴隷たちを解放するために来たんだ」
「……まあ、そうだろうな」
それ以外に海道が来る理由もない。
いや、むしろ他にあってほしいのだがな。
「解放するために来たのは分かった。で、具体的に何をするつもりなんだ?」
「決闘だ。俺と戦え」
「立会人も証人もいない中ですることではないだろう……ここには王はいないぞ」
「だが、俺の方が強いという証明になる」
「……強さを抑止力だと考えている。と解釈しても?」
「そういうことだ」
まあ確かに、もしも海道が俺よりも強いというのであれば、一々突っかかって来るのはミチヤにとってはいいことではない。
弱肉強食と言うわけではないものの、単に、自分よりも強いものが自分を監視しているのと同じなのだ。
「ちなみに、俺が勝った場合はどうなるんだ?」
「万に一つもないことだが、その時はそのままだ」
別に勝っても負けても問題はないのだが、どちらかにしかメリットのないことのどこが決闘なのだろうか。
まあ確かに、奴隷を持つことが出来ないということは、称号の『真名解放の奴隷使い』の効果が発揮しないことになる。
ステータスの減少はこれからさき、どんなパワーインフレがあるかもわからない現状では面倒なことになるのは間違いない。
確かに、今の状態を続けることが出来るのは、ミチヤにとってはありがたい。
「そのままだってお前が言うということは、俺が勝った場合は奴隷を持つことを黙認するということか?」
「そんなはずはないだろう。茅宮、お前は奴隷を持つということがどういうことなのか、まだ分かっていないようだな」
どうでもいいが、話にならん。
「お前は、俺が間違っているといいたい。そう言うことか?」
「そうだ。分かったのなら、彼女たちを解放しろ」
奴隷たちを、と言わないあたり、海道もまだまだ思春期の子供である。
「却下だ」
「もういい。口で何かを言うのはやめだ」
海道は聖剣を構えた。
ミチヤは一応と言うことで持っていた愛刀をポーチから出した。
「いくぞ!」
海道が突撃してくる。
「『聖王斬』!」
聖剣が光り輝く。
だが、海道の体から魔力が流れている様子はない。
なるほど、竜族領土で王女二人がいた家のそばにあった像をぶった切ったのはこの技か。
威力はあるようだな。
だが、ミチヤの愛刀には及ばない。
ミチヤが普通に一閃すると、聖剣は簡単に弾かれた。
「ば……バカな」
「準備運動だというのなら、もっと強力な技を出してきてもいいぞ。勝敗を決するルールは聞いていないが、もっとあるんならそれで来ても構わない」
ミチヤはその辺にある木の枝を拾った。
「何のつもりだ?」
「確認だ」
「バカにするな!『聖王斬』」
「それしかないのか?まあ、それならそれで楽だからいいんだけど」
ミチヤは刀で受け止める前に、木の枝を構えた。
木の枝はバキリと音を立てて折れた。
まあ、こんな枝一本だ。
付与もしていないのだから、折れない方が不思議である。
「何がしたかったんだ?」
「いや、ずいぶんと武器を大事にしないんだなって思っただけだ」
「どういうことだ?」
「別に。で、どうする?まだ続けるんなら、それでもいいが……」
「当然だろう。俺は負けていない」
「そうか、で、聖王斬をまだ使い続けるのか?」
海道は『何を言っているんだ?』と言いたそうな顔つきで、口を開く。
「この技はとても優秀だぞ。発動までの時間は短いし、俺が使える中で一番威力も高い。それに、お前も根性だけはあるようだが、この技を使い続ければ、どのみちお前は受け止める力はなくなって行くだろう」
塵も積もれば山となるとはいうが、それがいいたいのか?
というか、受け止めているんじゃなくてはじき返しているのだが……。
実力を測れないのは、相手に殺意がない状況では別にかまわない。
だが、これから困りそうである。
あえて言わないが。
どうすればいいのかね?
「俺はまだまだいけるぞ。『聖王斬』!」
まあとにかく。
海道が自分が持つ聖剣に負けていることは、言うまでもない。




