第八十六話
フラグ、と言うものがある。
主に、自分が言ったことや考えたことが本当に発生することだ。
有名どころを言えば、相手になんからの高威力遠距離攻撃を行い、爆発が発生してよく見えないときに『やったか!?』と言った時、大体相手が耐えているかほぼ無傷の場合が多い。
で、フラグを回収するのが誰なのか、それに関してはいろいろ意見が分かれるところだが、回収する可能性が高いものも決まっている。
即ち、行動範囲がかなり自由なものである。
オマケに思考すらも自由なものもいるのだ。
そう、ミチヤの吸血鬼の奴隷。ミラルドである。
ヨシュアと言う見張りがいるのだが、当然、二人の好みは全く違う。
ミチヤが作る料理には二人とも興味はあるが、それは置いておくとして。
とにかく、ヨシュアとはぐれたミラルドは、遠くからでもミチヤの声を聞き取ることが出来るので、耳をすませば帰って来ることが出来る。
オマケに、彼女は吸血鬼なので、羽で跳べる。あまりやらないけど。
そのため、ミチヤ本人を直接見つけて直で跳んで行くことも可能だ。
彼女の視力は両目とも6.0である。大概見えるのだ。
で、問題なのは、そろそろ夕方になると言う時間帯、授業はもう終わっているだろうというものだが、ミラルドがどこで何をしているのかと言うことである。
耳がいいミラルドは、遠くからでも話を聞くことが出来る。
しかも、レベルは1000を超えて測定不能になっている現状、聖徳太子も涙目レベルの脳内演算も可能なのだ。
ちなみに、レベルの高さが思考レベルに直結するわけではない。そこは勘違いしないように。
ミラルドの場合、聞きとる能力と聞き分ける能力の両方が高いだけである。聴力チートを地で行くのだ。
彼女が現在していること。
それは、第一学園エリアにて、服を見ていたのだ。
ヨシュアに頼めば旅の途中で手に入れた最高峰の布を使って好きな服を作ってくれるが、そのアイデアはこういったところからもらうのである。
ミラルドの説明は少々言葉足らずなところがあるので、ヨシュアが最近、ミラルドに念筆と言うスキルを強引に取得させたのは、彼女たちにとっては記憶に新しい。
そして、彼女が店を出て、少し歩いた時だった。
海道とばったり会ったのは。
ちなみに、春瀬も風雅もいない。彼一人であった。
「君は……確か茅宮の……」
一瞬、ミチヤの名字が茅宮だということを忘れていたミラルドだったが、海道の姿を見て思いだしたようである。
まあ、普段その呼び方はしないので分からないのも無理はないのだが。
「お久しぶりです」
「ああ……ひょっとして、ミチヤも来ているのか?」
「?第四学校で教師をしていますよ」
こういったことを残さず言ってしまうのも、ミラルドのいいところであり悪いところである。
「君は……今もアイツの奴隷なのか?」
「そうですよ」
「そんなのはダメだ。俺が解放するように言ってやるから、今すぐに案内してくれ」
「……?」
ミラルドは海道の考え方はある程度分かっているが、10歳と言う部分もあって、首をかしげた。
「別にその必要はないと思いますけど」
「君は、あんなやつの奴隷でいいのか?自由に生きたいと思っているんじゃないのか?」
解放されるまでもなく、彼女は普段から自由である。
というのも、ミラルドの場合は自由に行動しているだけで様々な情報を拾ってくるのである。
耳から入ってくる情報に対して記憶力がいいのはアムネシアにおける吸血鬼の特徴だが、それに加えて聞きとる能力と聞き分ける能力が高いミラルドは、普通に歩いているだけでもいろんなところからいろんな情報を収集できるのだ。
他の奴隷たちがいろんな役目を持っているのだが、彼女の場合はほとんど自由だ。
「今のままでも、私はかなり自由ですよ」
「だが、君は奴隷だろう。何かされているんじゃないか?」
主人次第と言うことを知らない海道と、彼が何を言いたいのかいまだによくわからないミラルド。
話がかみ合わないのも無理はない。
「特に何もされていませんよ。ご主人様は優しいですから」
「そんなはずはない。奴隷を持っているんだ。しかも五人も」
「?」
現在、ミチヤの奴隷は六人だが、エルフのテラリアが奴隷になったのは、彼に最後にあった時よりも後である。
それをミラルドは思いだした。
「今は六人ですよ」
「また奴隷を買ったのか!アイツは一体何を考えているんだ?」
まあ、ミチヤが何を考えているのかは10歳のミラルドでは到底理解できないが。
ミラルドは知らないことだが、精神年齢差は105歳である。
「今からでも遅くはない。俺が君を開放しよう」
「別にその必要はないですよ」
「……一体君はあいつのことをどう思っているんだ?」
ミラルドのミチヤに対する評価。
「料理がおいしいですし、ご主人様もおいしいですし……私にとっては才能の主人だと思っていますよ」
ほぼほぼ食料だと思っているようだ。
「え、アイツもおいしいって、どういうことだ?」
「吸血鬼ですから、血も食料です」
地球で様々な美味の料理を食して、さらに、この世界でもモンスターの肉を食べ、体内の魔力が多く、血液にも膨大な魔力が宿っているミチヤの血は、ミラルドに限らず、吸血鬼にとっては絶品なのである。
で、一度、全身錬金状態の時に血を吸ったことがある。
……ミチヤは全身錬金の練習中に吸血されて驚いていたのだが。
その時の血の良さと言ったら、もう言葉にできないくらい素晴らしいものなのだ。
栄養分も豊富で、美容効果もかなり高い。
数日は元気でいられるし、肌のツヤツヤ感もかなり続く。
極上のスープのようなものである。
そんな主人を持ったミラルドは、吸血鬼の中でもかなり幸運だと認識している。
普段出してくれる食事もおいしいのだ。
吸血鬼にとってこれ以上にいいことはない。
「だが、それなら、奴隷でなくともいいだろう。永遠にあいつに縛られることになるぞ」
「?吸血鬼の寿命は平均で6億年です。奴隷は主人がなくなると解放されるのです。良い主人を持った私にとっては、本来はいつまでも続いてほしいのですよ」
ちなみに、ミラルドがミチヤの奴隷であることにこだわる理由がもうひとつある。
最高のコンディションを与える魔法『ヴィーナス・グローリー』
あれが奴隷限定だからである。
「どういうことだ?だって、奴隷なんだぞ?」
「そう言うことではないのです。奴隷であるかどうかではなく、幸せであるかどうかなのです。私は幸せですよ」
摂理によって、ある条件にそったものは奴隷になってしまうが、それでも、その先の人生がいいものなのか、悪いものになるのかは主人次第だ。
そして、その時、ミラルドが付けているペンダント(←マーキング)を追って走ってきたヨシュアと、たまたま話しながら散歩していた風雅と春瀬が、話している海道とミラルドを発見した。
三人の心境は。
『フラグ回収はやっぱりされたか』 ←風雅
『彼女が発見されたか。なんか予想通り』 ←春瀬
『何故、こうなってしまうのだろうか』 ←ヨシュア
三人の意見をまとめると『いい加減にしろ!』である。
三人はその現場に歩いていった。
「あ、ヨシュアさん」
「ミラルド、ここで何をしている?」
無表情だが、よく見ると眉間にしわを寄せているヨシュアである。
「海道、何やってんだ?」
「あ、風雅と春瀬か。今、ミチヤの奴隷が……」
風雅が話しかけて、海道が答えた。
そして次の瞬間、三人のコンビネーションプレイが発生する。
風雅は海道に話しかけている。
春瀬は、風雅の存在感を上げるため『ヘイトブースト』という魔法を風雅に使った。
ヨシュアは、すぐさま離れるため、魔法具を使用して、ミラルドの手をとって走り出した。
ちなみに、魔法具で消音している。
次の瞬間、その会話は終了していた。
今回の苦労役に三人は、とにかく何とかなったと信じたかった。
……まあ、ミラルドがミチヤの勤務先を言ってしまっているだろうから、安息はないだろうと予測しているのだが……。




