第八十四話
「ミチヤ様。最後の最後にグダグダになりましたね」
「言うな」
ミチヤは溜息を吐きながらも、現在尾行中だった。
それは、アドニスと言う生徒を、である。
「昨日も校庭にいなかったしな。授業が終わるとすぐに学校から離れてる」
昨日は実力が見れると思っていたが、姿が見えなかった。
「そうでしたね。まあ、何か理由があるのは分かりましたが、尾行する必要があるのですか?」
「教師だから知っておく義務があると判断した。優勝に彼の実力が必要不可欠とは言わないが、彼が参加してくれた方が俺としては安心だ」
「あえて反対はしませんが、先生だからと言うのは少々、職権乱用のような気が……」
「知らんな」
ミーティアはずいぶんと都合のいい考え方だと感じたが、そんなミチヤだからこそ様々な困難を乗り越え、結果的に胃潰瘍と戦っているのだから、本末転倒の連続だと思い、心配するような、どういえばいいのかわからない心境であった。
「建物に入ったな。鑑定では……孤児院の跡地か」
いたるところが風化している。建設からかなり時間が立っていることは分かった。
まあ、同じような建物が並んでいるのも事実なのだが。
「現在は運営はされていないみたいですね。こんな環境ですから、孤児院があっても、そしてそれが運営不可能な状態になっていても不思議ではないのですが……」
「やりきれない部分はあるな……」
「それとミチヤ様」
「なんだ?」
「わざと気配を隠していませんよね。彼が先ほどからちらちらとこちらを見るときがあるのですが」
「ご名答」
ばらしておいても別に問題があるわけではないからな。
むしろ、ばらしておいた方が問題が少ないと感じたためである。
人なんて見ておけば、目的地に行かせるタイプなのか、途中で止めるタイプなのかは一目瞭然だ。あくまでもミチヤにとってはだが。
「どうせだから入るか」
「怖いもの知らずですね」
「知り合いのパワーインフレが天井知らずだからな……」
ミーティアも遠い目になった。
実際にすさまじいからな。
さて、現実逃避はこのくらいにしておいて……。
ということで、ばれていることは確信してでの潜入である。
言葉の選び方が妙かもしれないが、それが一番適しているだろう。
「中はかなりボロボロだな」
「そうですね。最低限のライフラインはあるようですが……」
きれいなものが買えなかったのか、買う手段がなかったのか、手段があっても許されなかったのか、どちらにしても、少々不衛生である。
近くの部屋から子供たちの声がする。
「孤児院は運営はされていないが、続いてはいるようだな」
「そうですね」
その時、ドアが開いてアドニスが来た。
「ミチヤ先生にミーティア先生」
「よう、ばれるように尾行してきたぞ」
アドニスは苦笑した。
「この孤児院は……」
「もう大人はいないんですよ。俺が一応年長者なんで、引っ張っている感じです」
「対校戦に出ていなかったのは、その間に長い時間束縛されることを拒んだからか」
「そう言うことです」
対校戦の間は、中央エリアに生徒全員が集まることが決まりになっている。
だからこそ、その間は、彼はここに来ることはできないし、全員を中央まで誘導する能力は彼は持っていない。
「こんな状態ですけど、一応、税金はとられるんですよ。時間は無駄にはできないんです」
一体どうやって稼いでいるのかは……周辺の魔物でも倒しているのだろう。それくらいしか思い浮かばない。まあ、畑でもあれば何とかなるとは思うが……。
「ま、気持ちが分からんわけじゃない。あと……それだけじゃないな」
そう言って、ミチヤは天井を見る。
「分かってるんですか?」
「ああ、この真上から、すさまじいほど病原体を感じる。誰かは知らないが、重い病気を患っているんだろう」
真名解放をつかっても、なおすことが不可能であることが分かるほど、それほどのものだった。
これまで旅をしてきた中で病気にかかったものがいなかったわけではないが、その中でもすさまじい。
アドニスは溜息を吐いた。
「そういうことです。医者に見せることはできないし、それに、見せたとしても、たぶんわからないって言われると思います。真剣に見ても見なくても。だから、せめて一緒にいる時間は多い方がいいと思ったんです。それに、孤児院にいる時点で、家族はいないんですしね。感染する病気ではないとのことだったので、それだけが救いですけど」
捨てられた可能性も否定はできない。
「他の生徒には言ってないんだろうな」
「はい」
こんな町で育っているのだ。生徒に言ったら、それなりに一緒に考えてくれるだろう。
「自分一人でどうにかできると思ってるのか?」
「それは思ってないです。俺にだって全然わかりませんから」
「だろうな。ここから見ても思うが、俺にも治し方は分からん」
ゼツヤがいれば病気なんてすぐに治る薬が手に入るかもしれないが、制限の話もあるし、そもそも、自由に連絡ができるわけではない。
「だからこそか」
「そういうことです。先生はどう思いますか?」
「……それを、会って三日しかたっていない俺に聞くのか……」
困った生徒ばかりだな本当に……。
「あえて言うなら……別に今のままでも俺は問題ない」
「先生ならわかっているんじゃないですか?俺の実力」
「ああ、すさまじく強いな。俺と比べてなら……まあ俺の方が強いだろうけど、第一学校程度のもの達なら簡単に倒せるくらいの実力は普通にあるだろう」
嘘偽りない真実だと、ミチヤは考えている。
「俺にはわからないんです。何が正しいのか」
「聞くが、自分がやっていることに後悔があるのか?」
「それはないですよ」
「それなら、やってることが正しいとかそんなことを考えている時点で三流だな」
ミチヤは言葉を選ばない。
選ぶ意味もなければ、その必要もないと感じたからだ。
「俺でも三流ですか……」
「そうだ」
「それはちょっと厳しいと思うんですけどね」
「16年しか生きていない若造にはわからんことだ」
「先生って17歳ですよね」
「まあな」
それはあくまで肉体年齢の話であって精神年齢は115歳だが。
「どうするのかは自分で決めればいい。別に俺個人としては、君がこのまま、裏切者の序列一位でも構わない」
「いやな二つ名ですね」
「それならもうちょっと考え直せ。俺はもう帰る」
ミチヤが孤児院から出ると、ミーティアもついてきた。
「少々、私も厳しいと感じたのですが……」
「人生そんなもんだよ」
ただでさえ考えることが多いのだ。
面倒なことは面倒であることに変わりはないし、自分で考えるべきこともたくさんある。
「あの病気の子。治らないのですか?」
「ああ、多分、彼女が生きることが出来る残りの時間のすべてを使っても無理だろう。それほどのものだ。ヨシュアに薬を作らせても、ちょっと延命出来るくらいだろ」
「何もしないのですか?」
「何もしなかったことが無いと俺は記憶している」
ミーティアは苦笑した。
「はぁ……別に自分で抱え込んでもいいんだが、今の俺は先生なんだから頼ってもいいのに」
前世で、創造神の弟子たちのことを思い出した。
六人いたが、全員が病気で10年も生きることができないもの達だった。
脳波を完全にコピーして、電脳化することで疑似的に延命したが、それでも、彼らがプレイしていた『ネイバーワールド・オンライン』のキャラクターとしてしか登録できなかったので、あの世界が終わると同時に、彼らも消えてしまった。
あの時の、ゼツヤの顔はよく覚えている。
「ミチヤ様は難儀な人ですからね」
「相棒には屈折していると言われたことがあるがな」




