第八十三話
「さて、昨日みんな校庭で魔法の練習をしていたけど、何か感じたことはあるか?」
次の日の授業の最初、ミチヤは生徒全員に聞いていた。
まず最初に答えたのはイカロスだった。
「前よりも使いやすくなったし、上達したって自覚できるんだが……なんていうかな。なんかすかっとしない」
まあ、君は完璧な突撃タイプだ。そう思うのも無理はない。
「ジャンルは異なるにしても、ほとんどイカロスが言ったことが全員の言いたいことをまとめているんだよ。それぞれに合ったやり方がある。それを見つけていくのが『自分を見つめ直す』ってことだ。で、イカロス。君は魔法を使うことにあまり個人的に納得ができていないようだが、それならばどうすればいいと思う?」
「自分になった武器の特訓をする」
まあそうなるだろう。
「だが、やみくもにやっても意味が無い。それは分かっているはずだ。貴族連中は大体魔力も多いから、脳筋魔法使いにだいたいごり押しされて負ける。毎年そうだっただろ」
「……脳筋魔法使いってなんだ?」
「とにかく自分が使える中で、後先考えずに攻撃魔法を使いまくるやつのこと。武器を持った場合、単に力任せに突撃するやつを脳筋って言うけど、脳筋は魔法使いにもいるんだよ」
根本的に実力が拮抗していない限り、駆け引きが重要になる。
そんな時に、単に突撃していては勝てるものも勝てない。
で、そんな状態でおたがいが脳筋だったら、火力が高い方が勝つに決まってる。
「俺は頭は使うのは嫌いだ……」
「先生は何も、突撃戦術を否定している訳ではない。対抗戦のルールを見たが、学校の生徒を三人除いて全員参加のバトルロワイヤルだったな。で、三人はトーナメントの方に出場するって感じだったが、まあどちらにしても、突撃でもやりようによっては勝てるんだよ。三人組で考えよう」
黒板に赤いマグネットを三個置いて、その反対側に青いマグネットを三個置いた。
「赤が君たちだ。貴族連中は脳筋魔法使いばかりだし、過去の記録を見たら全部が魔法使いだった。君たちは昨日。魔法について飛躍的に向上したと思うが、それでも、単に撃ちまくって勝てると思うか?」
「……まず才能さで負けそうですね」
セイルが苦笑する。
「何言ってんだ。気合でどうにかすりゃいいんだよ」
イカロスが答える。
「いや、去年はそれができなかったんじゃないか」
「そりゃそうだけどよ……今年はできるさ」
「まあ先生もその闇雲な自信の根拠が知りたいけど、イカロスが言う通り、できるようにすればいいんだよ」
ミチヤは、赤いマグネットの内、一つだけを青い方に近づける。
「本番中は、痛みを伴うことを嫌った貴族連中への配慮として、本来受けるダメージを無効にして数値化し、そのダメージ量に寄って削れていく装甲型魔法具『ゲージリング』を使うが、まあ、衝撃によるノックバックはあっても痛みはない。先生も機能試した。こんなものがあったら、イカロス。君は怖くはないだろう」
「勿論だぜ!」
「だが、魔法の集中砲火に耐えきれないから途中で抜ける羽目になる。向こうの貴族連中も、『第四学校の下賤ごときが私たち貴族に近づくな!』みたいな感じで突撃して来るものを集中砲火してくるだろうからな」
これは記録でもそうだった。
ちなみにセリフも同じである。
「だがしかし、ここですでに確定していることがある」
ミチヤは指をパチンと鳴らして、青いマグネット三つから近づいてきている赤いマグネットに矢印を引っ張る。
「さて、この突撃している赤に対して、この青三つは魔法で攻撃するわけだが、この時点で、範囲攻撃の魔法を使ってくると思うか?」
「要するに、使ってくる魔法は、直線形のもので、しかも正面からしか飛んでこない」
セイルの言う通りである。
「そうだ。記録でもそうだった。それなら、この二人は何をすればいいと思う?」
ミチヤは残っている赤いマグネット二つを指で叩いた。
「相手の移動の阻害、突撃中の味方に対する防御魔法の発動や魔法抵抗力の上昇。他にも上げればいろいろありますね」
「そう言うこと」
「でも。使ってくる魔法はそれなりに強力だと思うけど、間に合うのかしら」
くせ毛が特徴の女子生徒、ピリオネが首をかしげる。
「まあ、ぶっちゃけ間に合わない場合の方がほとんどだろう。なんせ、作戦の効率上、突撃中の味方に対していろいろ支援する必要が出るからな。詠唱をする前提だと、もうほぼほぼ間に合わん。貴族連中、早口言葉だけは鍛えているからな」
ちなみにトーナメントの場合、それぞれの学校代表の位置がそれなりにはなれているのだが、これは、突撃してきたとしても魔法の詠唱時間を確保しようとして貴族が決めたことである。
「それじゃあ、一体どうすれば……」
「単純かつ強引な手が無いわけではない」
「なんだ?」
「この突撃役の奴が……」
ミチヤは、突撃中の赤いマグネットから、青いマグネットから出ている矢印に対して、さらに大きな矢印を引っ張る。
そして、青いマグネットから出ている矢印に×を付ける。
「敵が使った直進型の魔法を斬り落とすってことだ」
教室中が愕然とした。
「ど、どういうことなんだ?」
「実際にやってやるよ。全員一回。外に出な」
ということで、校庭に出た。
ミチヤは学校の備品庫にあったちょっとボロい剣を構える。
「それじゃあ、ミーティア。ま、簡単に宜しく」
「分かりました。『ニブルヘイムランス』『コメットレイン』『ラーヴァストライク』」
氷の大槍が三本、小さめの隕石が何十個か、マグマの大玉が一つ。
それらが不規則に跳んでくる。
ミチヤは剣に付与術をかけると、それで魔法を次々と叩き切る。
すべて斬り終わると、付与術を解除した。
「うっそ……」
イカロスが驚愕している。
まあ、驚愕しているのは他の生徒も同じだが、その中でも、普段から突撃しかしていなかった彼にとっては衝撃だったのだろう。
「まあ、ここまでできるようになれとは言わないが、慣れてくれば軽くこんな感じだ。それとミーティア、わざわざ当たったら致死性になるもの択ばないでくれない?一瞬焦ったんだけど」
「さあ、何のことでしょうか?」
……まあいいが。
「一体どうやったんだ?」
「付与術だよ。そもそも魔法なんて言うのは、要素を持ったレゾナシウムにすぎないからな。さっきの魔法だってそれなりの威力だが、使った魔力は、君らが保有可能な魔力の数百分の一でしかない」
「理屈は分かったが……」
「まあ、第一学校でも、使って来ても一つも魔法で三発くらいが限界だ。ミーティア見たいなのはいなかったから安心しろ。というか、こんな化け物が第一学校にいたらドン引きだし」
「ミチヤ様。少々言いすぎな気が……」
「ん?あ、すまんな」
話を戻そうか。
「で、君たちにあるものを渡そう」
そう言って全員に配ったのは、小さめのノートだった。
「日記帳だ」
「日記をつけたら強くなれるのか?」
「イカロス。君は直列つなぎしかしない主義なのかな?もうちょっと中に色々とはさんだ方がいいと思うぞ。少なくとも、今日自分に何が出来るようになったのか、できなかったのか、何を知ったのか、何をする必要があると感じたのか。そう言ったことが分かるように成る」
「先生は書いてるんですか?」
ピリオネが手を上げて質問した。
ミチヤは完全に硬直した後、一度明後日の方向を向いた。
そして、もう一度生徒を見る。
「とにかく、日記を付けてみな。成長記録にもなるぞ」
生徒全員の気持ちはこの時一緒だった。
付けてないんかい。




