第八十二話
放課後、多くの生徒が校庭で的に向かって魔法を発動している。
それを、ミチヤは校庭の隅から見ていた。
ん?
奥の方を見ると、三人の生徒が並んで構えている。
そして、三人いっぺんに詠唱した。
規模の大きい魔法が発動され、爆炎が巻き起こる。
まあ、本人たちにとっては予想外の威力だったようで、ちょっと近くの木まで炎上している。
ミチヤは苦笑しながら、水属性の魔法を使って消化した。
その生徒のところに歩いていった。
「大丈夫か?」
「は、はい。三人でやれば、大きい魔方陣ができるんじゃないかって思って、それでやってみたら、あんなことになってしまって」
ショートカットの女子生徒、テルルがおどおどしている。
「まあ、先生がいるから問題はないよ。しかし……良く気付いたもんだ。まあ、その発想力は大切だからな。どんどん見つけていくといい。だが、危険だと思ったらやらないようにな」
「「「はい!」」」
サイドテールのアリンとロリ巨乳のミトンも頷いた。
しかし、先ほどのこと、やったことはないが確かに可能ではある。
魔法などと言うものは、才能によってレゾナシウムの放出力が変わるから発動可能範囲に差が出てくるというだけの話なのだ。
だが、レゾナシウムが足りていれば使うことが出来る。
それならば。三人が一緒にすればいい。
ただし、三人全員が全て詠唱してはならない。
そうすると、三人それぞれの魔法が独立して発動する。
なので、詠唱を数人で分割する必要がある。
欠点もあるが。
「だが、一応これにも欠点がある。詠唱を分割する以上、三人が一緒にいる必要がある。となると、知性の有る敵だと、三人を分断しようと考えてくる。そして、三人の誰か一人が間違えると、その時点で詠唱は失敗する。そうなると、魔法は当然失敗になる。落ち着いてすることだ」
三人一緒にするということは、メリットも大きいがデメリットも十分にある。
「それと、これが一番重要なんだが、三人で発動する場合、三人で均等にレゾナシウムを使うわけではない。詠唱の文字数が多い順に使用される。ある程度、自分の体内にあるレゾナシウムを認識することは俺達はできるけど、それでも、全員の消費量が同じではないから気を付けるようにな。気を付けないと、一番レゾナシウムの使用量が多い人がすぐにガス欠になるから」
魔力が極端に多いミチヤにとってはどうでもいいことではあるが、それでも、教えている生徒達にとっては関係のない話ではない。
再び校庭の隅に戻ってきた。
「ミチヤ様は先生もできるのですね」
「ミーティアか」
ミーティアが微笑みながら来た。
「まあ、そこまで難しいことでもなかったからな」
「確かに、あの授業を聞く限りはそう思いますよね」
そこまでだったか?
「ところでミチヤ様」
「なんだ?」
「地球では、教師と言うの配分で教科書を作るものなのですか?」
「ンなわけないな。ただの相棒の言葉だ」
「無ければ作れ。シンプルかつかなり強引ですね」
「分かってやっているけどな。まあ、目的が目的だからな。これくらいやってちょうどいいだろ。しかし……才能はそこそこあるんだな。この学校の生徒」
成長速度が思った以上に早いのである。
悪いことではないのだがな……。
「そうですね。知らなかっただけで、知ることが出来た今、成長しているように感じます」
と言うかそもそもの話、彼らはやる気だけはもともと十分にある。
だが、やる気だけで今までやってこれるかどうかとなると話は別である。
となると何が彼らをここまで残らせることが出来たのかとなれば、それは才能なのだ。
だが、才能が開花するかどうかは環境で決まる。それはどの世界でも同じ。
「まあ、教師としては楽だからいいけど」
教師としてあるまじき発言だがな。
「それにしても……元気ですね。皆さん」
「そうだな。普段から胃潰瘍と戦っている俺とは大違いだ」
慣れないものはなかなか慣れないし、ハラハラすることもあるのだ。
「優勝。できますか?」
「出来るだろ。それに……一人……俺達と一緒に旅ができるレベルの奴がいる」
「ええ、それは私も感じていました」
アドニス。という男子生徒だ。
刀を持っていたから、彼もミチヤと同じ刀使いだろう。
クラスの中でもかなり落ち着いており、雰囲気が他とは違う。
「実力はあるが……その実力をどう使うのかを考えている感じだな」
「そうですね……ただ、こんな世界ですから、ただ戦うことが本当にすごいことなのか、それに疑問を持つものがいないとも言いきれませんから」
いつでも前に出ることができることが、剣に殺意を乗せることが、そこまで自慢できることなのか、そこまで本物なのか。
それを聞かれれば、ミチヤな首を縦には振らないだろう。
「何時の時代だって、壊す力よりも、育てる力の方がすごいことだってことは、変わらない。俺はそう考えている。だが、壊す力も必要だからな。そうじゃないと強者にくわれる。だから強さを持つ必要がある。簡単まとめれば……世知辛いと思う」
「そうですね……」
育てる力に特化することと、壊す力に特化することは全くの別ものだ。
だが、その二つを身に付けるのはかなりしんどいことである。
「ん?あれは……」
遠くから馬車が見える。
どこかの貴族エリアで見た物だ。
ミチヤの前で止まると、中から男が顔を出した。
その顔は間違いなく、フィーアリング学園国国王、ゴルバード・フィーアリングであった。
「……何しに来てんの?アンタ」
「これでも国王なのだが容赦はないようだな……まあそれはよい。ちょっとこの近辺に配属させている私の側近の貴族の馬車に乗せてもらっているのだ」
大胆なカモフラージュである。
「で、途中経過でも見に来たのか?」
「まあそんなところだ。しかし……一日でここまで上達するとは……頼んでおいてなんだが末恐ろしい……」
「それは今更だ」
ゴルバードが生徒たちを見ている。
「まあ、これなら任せておけば問題はないだろう。期待している」
「報酬に関しては別に期待していない。というか……これはこれでいい経験になるからな。教師の着任を、報酬の前借りだと思っておく」
「面白いな。君は」
「それはどうも。ん?」
また誰か来ているようだ。
国王も顔を引っ込ませた。
その馬車は、学校からちょっと離れたところで止まった。
降りてきたのは金髪の少女だった。
なんか驚愕しているけど。
ミチヤは行ってみることにした。
「どうかしましたか?」
「あなたは一体誰?このエリーゼ様に話しかける権利があると思っているの?」
即席でそれを言うことができるこの子の精神力ってすごいと思うんだ。
「俺はミチヤ。昨日からこの学校の教師をすることになった新任教師だ」
「この学校に教師ですって!そんな馬鹿な。この学校に配属させる教師は全てリトランゼ家が極秘で手回しして、多額の資金を与えて解雇させているはずよ!」
……教師がいないのはそう言う理由か。
ていうか、極秘でって思いっきり言ってたけど、それって言ってよかったの?
「まあ、国王からの直々のことなんで」
ミチヤは書類を見せた。
エリーゼはそれを見た。
「こ……これは……ま、まあ良いですわ。今からでも遅くはないですし。あなた。金貨10枚を差し上げます。それを持って、ただちにこの学校から立ち去りなさい」
……金銭感覚がおかしくなったのだろうか。金貨10枚が全然高額だと感じない。
「ミチヤ様……」
ミーティアも苦笑している。
「……どうしました?この学校から立ち去るだけで、金貨10枚がもらえるのですよ」
「いえ、既に、白金貨を何千枚と持っているので……」
事実である。
ちなみにその七割が、ドッペルキングのヌレハからもらったものだ。
貯蓄パネェ。
「く……ここまでの屈辱は初めてですわ。リトランゼ家を愚弄して、どうなるかわかっていますの?」
「国王から直々に任命されている俺をどうかするのも少々危険な気がしなくもないですけど」
「私もそう思います」
ミーティアも同じ意見のようだ。
「フン!知っていますの?この国は国王よりも、貴族の方が権力は強いのですよ」
……国王、近くにいるんだけど……いいのか?
「そして、あなたは一体何なのですか!」
エリーゼはミーティアを指さした。
「私はミーティア、天使族で、ミチヤ様の奴隷です」
「フン!いたるところに切り傷があるようですし、それに、髪もそこまで手入れされておりませんわね。まあ、私のように高級品を使う権利もないのですから、それも仕方のないことですが」
「ミーティア。ほれ」
ミチヤはポーチから取り出したマントもミーティアの頭からかぶせた。
そして、手を出した。
「『ヴィーナス・グローリー』」
緑色の光の波が出現して、ミーティアを包んだ。
そして、マントをとった。
切り傷のような小さい傷すらも完全に回復し、身に付けている服も汚れはないし埃一つない。
髪も、ふけは完全に除去され、キューティクルが完全に復活してサラサラの銀髪に。
肌は潤いを完全に取り戻し、スベスベを超えてテュルンテュルンに。
しかも、睫毛は一本残らずカールしているし、まぶたには薄くアイシャドウが塗られているし、唇にも淡い紅をさしており、本来女性として最高ランクの素材であるミーティアの美貌がものすごくランクアップしている。
「俺が編み出した最高の回復兼コンディション魔法『ヴィーナス・グローリー』だ」
ちなみに回復魔法でもある。四肢欠損以外なら大体治る。
「は……反則よ!私にもしなさい!」
「俺の奴隷限定な」
その言葉に、ミーティアが軽くガッツポーズしたことにミチヤは気づいていなかった。
そして、遠くの方でミラルドがガッツポーズして、ヨシュアが首をかしげていたことには気づくはずもなかった。
「ま、魔法にもこういった使い方はあるのさ。貴族の権利を使って研究してみるといいぞ」
「は、速く戻りますわよ!」
エリーゼは馬車に駆け込んだ。
そして、馬車が走りだした。
「なかなか爽快だったな」
「そうですね」
……ただ、思うのは……。
「ミーティア、どこからどう見てもクオリティ浮いてるな」
「狙ってやったことではないのですか?」
無論だ。




