第七十七話
……遠い。
「遠いぞ。フィーアリング学園国」
「そうだな……」
三日くらいずっと飛んでる。王子見えない。だって移動速度がフルーセの十分の一以下だもん。
「……ヨシュアは暇じゃなくていいよな」
「マスターの刀を調べていた」
「何時の間に!?」
うっかりしていた。
まあそれと同時に、やりかねないと思っていたことでもあるし、いつか見せてもいいと思っていたことでもあるのだが。
「で、どうだった?」
「信じられないくらい性能が上がってる。一体何があった?」
「ゼツヤにあったんだよ」
「創造神ゼツヤ?」
「そう。で、ちょっと数分くらいで強化してもらった」
ヨシュアが愕然とする。
まあ、ゼツヤの作業、ほぼほぼ即席だったからな。驚くのも無理はないだろう。
「い、一体どれほど技術を学んでいけばこの境地にたどり着けるんだろう……」
バスタードが言うには、数千億年はいるらしいけど。
人の寿命では無理だ。というか、魔王や竜王ですらも無理な領域である。
人の寿命は100年ちょっとしかないのだ。無理なものは無理なのである。
ていうか、ゼツヤ、神になるのはいいけど、一体どれだけ生きる気だ?
「まあ、地道にやっていくしかないだろ。別に神になりたいわけでもないだろうし」
「……それもそう」
ゼツヤも、制限にはいろいろと苦労しているはずである。
まあ、神になる条件など知らないし、ゼツヤも多分制限で言うことなどできないだろうが。
「しかし、そこまで強化されているのか?」
「純粋な攻撃力は数倍になっている。魔法だって切れるだろうし、様々な状態異常から所持者を守る付与もかかってる」
「思ったより普通だな。制限がかかってるのかね?」
攻撃力が数倍になっているのは少々驚いたが、魔法を切断したり、状態異常無効は普通にやっていたような気がする。
制限か。あいつにかかった制限はかなり大きいことになるが……神になれるほどなのだから当然か。
「これが……普通?」
「ああ」
別に珍しいことではない。
「しかし、これほどの技術、自分が統治している国では、これほどの技術がたくさん存在すると言う意味でもある。すごい」
「あいつなんでもできるからな。全ジャンルの武器や防具を作るのは朝飯前、体力や魔力を全回復するポーションなんて片手間に作る。大陸を守れる守護結界の像みたいなものがあったとしても、アイツなら普通にやっちまうだろうしな。俺よりも料理できるし。建物だって普通に作っちまう。で、モンスターだって作るからな」
ミチヤの作る料理は、ゼツヤが行っていたことをまねた部分も多いからな。
別に弟子と言うわけではないが。
「それにしても、主の友好関係はすさまじいな」
「今更だ」
人族ではスリートップの国の二つと知り合ったし、魔王や竜王とも普通に話す。
冒険者ギルドのグランドマスターとも知り合いになった。
……どうなるんだろうな。俺。
「フィーアリング学園国でも妙な友人ができるのかな?」
ミラルドが首をかしげている。
多分、出来るんだろうな。
この世界の強さのインフレはすさまじい。
一応、勇者としての素質は持っていないミチヤも、すさまじいステータスを得ている。
この世界で何年も真剣に戦ってきている者が、弱いはずもないのだ。
「……マスターにとって厄介なことは一体なんだ?」
テラリアが聞いて来る。
「……そうだな。あえて言うなら……クラスメイトが育成だとか何とか言って来ていたりしたら、もう俺の安静は消え去るだろうな」
主に、海道あたり。
風雅とか春瀬とか、本当に一緒に来てほしいと思う。来るとしての話だけど。
「だな。海道だったか?あの聖剣持ってるやつ。あいつが来たら面倒だろうな」
「ていうか……あいつの場合は尻拭いが大変で……」
第一王女と第二王女誘拐作戦に大きく貢献するし、ついででそこにあった最高峰のアーティファクトのパクリ作戦にも貢献していることになる。
アーティファクトはアークヒルズの自室に保管することになったらしい。保管を宣告した時のハルカの雰囲気がちょっと怖かった。
確かに、あのアーティファクトがなかったら、すくなくとも火山帝竜アースの段階で止まっていたことになるからだ。
倒しに来てくれたあの三体と、風雅、春瀬がいたからよかったものの、もしいなかったら、ハルカの首は飛んでいるだろう。
なぜなら、ハルカが冒険者ギルドのグランドマスターであることを認めていない種族もいるのだ。
そういった種族の情報収集部隊が、アーティファクトを盗まれる原因を作ったものが、冒険者ギルドとしての依頼を介してきた海道たちだからだと突き止める可能性が高いからである。
被害総額を聞いた時、ハルカは顔面蒼白になったそうだが、風雅の『概念破壊』と春成の『世界』による『完成』を、ミチヤの魔力を使って達成できたことで何とか被害はなかったものの、首の皮一枚つながったと言っていいだろう。
まあ、一度死を経験しても一週間後にはトラウマもなく問題なしに暮らしている竜族や竜人族のメンタルの頑丈さと心の広さと神経の図太さには脱帽するしかないが、まあ、本人たちがいいと言っているのだからいいのである。竜王がバカなだけあってみんなもバカでよかった。
最強種族と噂されるもの達は実力だけでなく、その神経も伊達ではない。
海道は弱くはないのだ。少なくとも一般人からすれば。
なので、いろいろ面倒なのだ。
強さを求めているのはいい。
それに、俺達の世界において、奴隷と言うものは認められない思考を持っていることも、別に否定はしない。
ミチヤだって、地球にいるうちに奴隷を手に入れようなどと言うことはさらさら考えなかった。
……この世界に来て一日目で奴隷を買うことを考えたのも事実だが。
普通に考えれば反対されることなのかどうかは別にするとしても、ミチヤのやり方を認めることが出来ないものがクラスメイトにいることは予想していたし、その中に海道がいることもなんとなく分かっていたことだ。反対しなかったら海道じゃない。
だが、それゆえに面倒なのだ。
「治ってほしい……ってことは望んでないが……」
「無理無茶無謀だもんな」
もう本当にその三セットで……。
「……っていうかさ。みんなが海道に対して思っていることって何?簡潔にでいいから教えてほしいんだけど」
全員が考えた。
イナーセル 「……子供?」
ヨシュア 「お子様」
ミーティア 「絵本の勇者様ですかね」
ミラルド 「ご都合主義?」
タイダロス 「青いな」
テラリア 「諸悪の原因」
ほぼほぼ容赦なかった。
「マスターはどう思ってるんだ?」
「一言で言うと……なんだろう。やっぱり子供ってことになるのか?」
自分にとって理想の正しさと言うものは誰にもでもある。
貫くか変わるかどうかは個人の自由だが、多くの人間の場合は変化していく。
海道の場合は貫いたのだ。
そして、海道にはそれを貫くことが出来る力があった。
素晴らしいことではあるのだあろう。尊敬しても不思議ではないことでもある。
だがしかし……幼い。
「学校と言うのは、学ぶ場所でもあるからな。それに、なんとなくだが……本当に来るような気がする。もうちょっと、理解してほしいもんだな」
「まあ、弱肉強食であることに変わりがあるわけじゃねえもんな。気付かなかったのなら、それまでの奴だったってだけの話だ」
世界が正しいかどうかは、誰かが決めるものではない。
少なくとも、異世界人が決めていいことではない。
郷に入ったのだ。それならば、郷に従うしかないのだ。




