第七十六話
ミチヤは胃薬を飲んでいた。
まあ、いろんな意味で胃がヤバくなったのだ。
何故ってね……。
ちょっと前にコマンディアの本部を潰した時、男の娘を助けた。
その男の娘なのだが……。
「まさかの……王子か」
「マスターって本当に苦労人だよな」
現在飛行中の馬車のなか、ミチヤの呟きにイナーセルが答えた。
「いいよなぁお前ら奴隷で。主人の心配をする必要はあっても、自ら行動したり考えたりする必要ないんだもん……」
トラブル体質だということは何となく自覚していた。
面倒なことは大体することになると分かってはいた。
だが……こうなってしまうとは思っていなかった。
「ハルカ。俺に全部押し付けやがって……」
「そう言えば、SSランクの冒険者が来ていたという話でしたね。そうであるなら、今回のコマンディア本部殲滅作戦の責任者は彼女と言うことになりますが……彼は馬車で向かっている訳ですね」
超豪華だったよ。
「主のことだからな。一方的な決定事項を宣告されたということか……」
ミーティアとタイダロスが苦い顔をする。
ヨシュアとミラルドが首をかしげている。
まあ、君たちはまだそう言うことを考える年ごろではないよ。もうちょっと人生長く生きてからでいいから。で、学んだら助けてくれ。
「今回助けた王子って、どこの国でしたっけ?」
「確か、『フィーアリング学園国』だったはず」
名前からなんとなく分かると思うが、一応詳しく説明しよう。
フィーアリング学園国。
中央に首都があり、その周りを、等間隔に四つの都市が存在する。
フィーアは、ドイツ語で4だ。
それぞれに学校があり、それらで競い合っている感じである。
都市とは言ってもそこまで広いものではないが、宿泊施設と拠点みたいな物件とかが多いところらしい。
学園都市。と言ったところか。
「この中でフィーアリングについてなんか詳しく知っている人いる?」
ミチヤは奴隷たちを見た。
すると、コハクがピョンピョンと跳ねた。
ええぇ……。そう来るか。
スライムとは言ってもわかる部分は分かるのだろうか。
「……例えば?」
ミチヤが聞くと、コハクはぺたーんとひらぺったくなった。
「分かるか!」
その肉体言語やめろや!人には分からん!!
コハクはハッとして(?)、近くにあったアイテムポーチから紙とペンを取り出すと書き始めた。
ものすごく高速で。
そして、ミチヤに見せてくる。
うわ、汚ねぇ、この世界の文字なので覚えるのに苦労したってのに……。
「ええと……『大体は第一学園がトップクラスの実力』らしいな。いつ知ったんだ?」
スラスラ……。
「『大体600年前』……なあコハク、ジェネレーションギャップは愚かエイジギャップだぞ……ん?もしかして、この中で一番年上?」
ミチヤは前世を入れても115歳である。
奴隷の中ではミーティアが一番年上のはずだが、それでも300歳くらいだったはずだ。
600年前って……。
「結構いろんなところに行ってたんだな。コハク」
コハクはピョンピョン飛び跳ねた。
で、そこからもいろいろ聞いた。情報は600年前だが。
学園都市とも言えるこのフィーアリングだが、その実態は階級&人族至上主義とのこと。
数字が小さいと、それがそのまま階級順になる。
第一学園は、当然数字が一番小さいため、貴族がよくいる。
第四学園は、貧困層出身や人族以外の種族もいる。
二と三は知らん。
学園の施設も、あからさまに差があるらしい。
一番大きな違いは……教師のやる気。
数字が大きくなる毎に、教師はやる気が下がって行くらしい。
教師の授業内容も適当になったりするが、学校の共通方針として、教師のやり方に沿って学んでいくスタイルとのこと。
施設にあまりにも差があるため、満足なことが出来るかどうかは不明。
都市そのものの治安もまるで違う。
「明らかに大丈夫じゃないな……あと、ちょっと嫌なフラグ立ってる気がするんだけど……」
それに対して全員が頷いた。
そして、ミチヤを除く全員が考えていた。
この人が生徒、もしくは教師になった場合、どうなるのだろうかと。
ちょっと想像するが……溜息を吐いているところしか想像できないのだが。
「はぁ、まあ、郷に入っては郷に従えというが……俺あれ嫌い」
ルールには従ってやるが、一々くだらないことを強要されるのは嫌いだ。
法は護るが、モラルなんぞ知らん。俺は異世界人だ。
現実逃避をしない主義ではあるが、即断承諾なんぞくそくらえである。
「どんな奴がいるんだろうな……」
どの場所に行っても訳の分からないくらい強いやつっているからな……。
節理云々があるとは言っても、パワーインフレがところどころあるのは十分わかっているのである。
竜王とか魔王とか。あと、アース本体とそれを倒すために現れた三体とか。
「階級だとか、人種でグダグダ言ってるのはあまりいい気分にはならないしなぁ……ま、第四学園にも強いのはいると思うが……」
「……なあマスター」
「なんだ?イナーセル」
「なんかもう教師になる前提で話を進めている気がするのは俺の気のせいか?」
「いや、もう学園国とか言っている場所に行くとか、もういろいろフラグ立ってるからな。この際その方向性で考えて言った方が気分的に楽だ」
若干現実逃避しているような気がしないわけでもないが、それを考えるのは今のミチヤではない。
「どの学園に放りこまれるのかは知らんが、第四がいいなぁ……意識高い系とかプライド高いのとか面倒なんだもん……」
異世界学園あるあるだ。
回避したいこととか、たぶん遭遇することとか、まあいろいろあるのだが……。
テンプレは未来を予測しやすいので別に根本的に嫌いと言うわけではないが、いやな運命を受け入れる必要があるのでかなり面倒なのだ。
「至上主義……か」
ミチヤは考える。
至上主義。何かが一番だと考えて、他を下だと考えるということだ。
ミチヤとしては、あまりこの言葉は好きではない。
「ご主人様はそう言う考え方は嫌いなの?」
呟いたつもりでも、ミラルドにはしっかりと聞こえていたようである。
というか、馬車の中だとどんな音でも聞こえるか。
「好きじゃないな……」
磨かれる前の宝石の原石を磨くのは、三流細工師でもできる。
一流の錬金術師なら、道端の石ころだって宝石に変えることが出来る。
元の素材がいいとか悪いとか、そう言うことが重要だという考え方は、三流がすることだ。
相棒は言っていた。
本当の意味で本物であるというのなら、宝石の原石だろうと、道端の石だろうと大して変わらないと、全ては、生み出すものの腕次第だと。
だから、誰がいいとか悪いとか、そう言う話はあまり好きではない。
最終的に、結果的に、その何かが、どう輝くのか。それが重要なのだ。
結局は……信じれるかどうかだ。でも、諦めることを否定するわけではない。無理なものは無理で、出来ないことはできない。だから、それをちょっとずつ広げていくしかない。
それを、知っているはずだ。分かっているはずだ。
ミチヤは、後ろを向くことを否定することはない。
弱さを認めることが出来る強さに、どれだけ心の強さが詰まっているかを知っているから。
頭を下げて頼ることが出来る強さに、どれだけ何かを成し遂げたい意思があるのかを知っているから。
それでも、達成できるものは少数だろう。
だが、悔いはないはずだ。
だから、ミチヤはそっちの方がいいと思う。
相棒も、多分、そういうだろうから。




