第七十五話
「報酬ってさ。たくさんもらう機会が多いのは悪いことじゃないけど……使う機会があまりないんだよな……特に資金」
「まあ、君の場合、自給自足システムがほぼ完備しているからね」
ミチヤは覇竜城下町のとある地下倉庫で、バスタードと話していた。
ゲームをしながらであるが。
「そう言えば、今の貨幣制度って、金貨とか銀貨みたいな感じで百進法だけど、これってずっとそうだったのか?」
「いや、私がこの世界に生まれた時代……まあ、七億年前だが、その時は紙幣制度だった」
「紙のお金に価値があった時代もあったんだな」
「うむ、で、今みたいに百進法だった時代もあれば、金貨統一だった時もある。銀貨統一だったこともあるな。流石に銅貨統一はなかったが」
「魔族領土でもそうなのか?」
「そうだな。そうした方が、偵察隊をこっちに向かわせたときに、経済状況を認識しやすい。変わる毎に合わせるのは少々大変な部分もあるが、そのあたりの価値の調節や設定は私がするからな」
「……バスタードってひょっとして賢かったりするのか?」
「アークヒルズやヌレハにも言われるが……」
思えば、友好関係も広いな。
ヌレハか。ドッペルゲンガーの王だったが、あの王からの報酬金はすさまじかった。
種族統一での引きこもりの貯蓄は伊達ではない。
「やっぱりそう言うのって、事件があったりするときに変わるのか?」
「うむ、銀は聖銀……ミスリルとも言うが、それに使うことも無いわけではないから、ミスリルを使うと有効にダメージを与えられるモンスターが大量繁殖すると、とにかく銀貨をかき集めてミスリルにする時があったな。アミュレット法国ではないが、人族のどこかの宗教国家がバカ儲けしていたぞ」
「……」
そう言った金属の製法は、やはりそう言った部分が握っているということか。
「君のドワーフの奴隷に聞けば詳しく分かると思うが、ミスリルと言うのは人族で扱う場合は少々難しい部分がある。適切な製法が必要になってくるから、そう言った場合に儲かるところはやっぱりあるんだよ」
「……戦争景気みたいなもんか?」
「うむ、良くも悪くも、戦争と言ったものや大規模な戦闘と言うのは、戦うもの達が所属するもの以外の組織や国が儲かるものだよ。地球でもそうじゃないのかい?」
まあ確かに、日本は第二次世界大戦でぼろ負けしたが、朝鮮戦争で武器を作りまくって景気がよくなったからな。
戦争はすると被害がでかいが、支援すると設けるのはどこでも同じである。
「資金は持っていて損はないからね。だがしかし、バカ儲けしても、それがいつまでも続くわけではない」
「だろうな」
「ミスリル系の武具を作りまくって、その時はモンスターの殲滅に成功したが、規模がすさまじく、銀が足りないといった場所がかなり多くなった。そんな時、資源が豊富な、というより、誰も手を付けていないような金山を発見したらどうなると思う?」
「金貨統一性になるだろうな」
「そう、銀が全くないわけではないが、それでも、金を使わなければ経済が回らない。アムネシアは広いから物々交換では限界が生じる。アイテムポーチがあるといっても、それは変わらない。だから、適正価格を早く決めることが必要になる。三年に一度、頂上会議があるようだが、それで適正価格は決めているとアークヒルズは言っていた」
経済システムか……。
「そのあたりはよくわからんな……」
アムネシアは、今の時代は百進法が採用されているが、はっきり言うと、最低の価値である銅貨一枚と最高の価値である白金貨一枚では、百万倍しか価値に差が無いのだ。
白金貨百枚で、銅貨一枚と比べて一億倍の価値の差になる。
紙幣制度であれば、紙に書かれている金額に従えばいいだけの話なのだが、そのあたりはよくわからないのだ。
この世界には、今のところ、金貸しはいても銀行はない気がする。少なくとも見たことはない。
そういったものを利用する気はない。
技術に差がありすぎて分かりにくいのだ。
科学の代わりに魔法があり、機械の代わりに魔道具が存在するからである。
「まあ……異世界人にはわからない部分はあるだろうね」
「そうだな」
エネルギー問題にしても、この世界では魔法具がおもな手段だから、全てにおいて魔石さえあればなにも問題はない。
魔石は迷宮に行けば取れるので、あとは、魔法具の研究で魔石の使用量や、迷宮に行くもの達の供給量で価値が変わってくる。
地球なら、化石燃料におけるエネルギー問題が深刻で、自然エネルギーについても研究されているが、実用化は遠いだろう。無論。電力の供給力と言う問題である。前世の方ではほぼ自然エネルギーで補えるほど発達していたが。
「何ができて何ができるのか、地球とアムネシアでは大きく違う。だから、何に価値があってなにの価値が低いのかが分かりにくい」
「まあ、私も地球に行ったとき、同じことを考えるだろうね」
「魔法があるからこそ便利と言う部分もあれば、科学技術が低いから不便と言う部分もある。俺がこの世界に来て思ったのはそれだ。バスタードが俺の世界に来たとき、そして、もし魔力が使えなかった場合、それとはまったく逆のことを考えるだろうな」
「だろうね……だからこそ、価値の調節が難しいんだ。ただ……」
「ん?」
「このゲーム端末。これは本来、アムネシアで再現するにはとても困難なはずだよ。この世界に来た異世界人の多くは、これを再現しようとは思わなかったらしい。もちろん。パソコンも同様だよ」
……む?
「まず、中身を知らない場合が多い、さらに、ナノレベルの製造設備があるわけでもない。魔法具はミリ単位でいいしね。センチ単位でいいものもある。だが、液晶だとか、電子基板だとか、バッテリーだとか、そういったものを再現するための技術が、本来はないはずなんだよ。この世界にはね。そして、その設備を生み出す技術もなければ、専用の素材をそろえることも難しい」
なるほど。
「この世界に来た多くの地球人は、こういったものの利便性は知っているが、その内部構造を知っている者が少なく、さらに、それを細部まで知っている者はもっと少ない。そして、完全に再現する者は、今までにはいなかったはずなんだ。ミチヤ君。君はなぜ、これらを作れるんだい?」
「そりゃもちろん、そう言った設備をゼロから作れるほど進歩した時代で、技術を学んできた経験と記憶があるからだ」
「……ああ、なるほど、君、前世持ちだね」
「そう言うことだ」
前世である26世紀において、そう言ったことはそこまで難しいものではなかった。
無論、簡単ではないが、それでも不可能ではない。
そう言った知識を持っているから、ミチヤは作れる。
そして、あった方が便利だから、作った。
まあ、ローカルレベルのゲーム端末の通信技術までしか持っていないので、ローカルくらいならできても大規模なネットワークはできないが。
だがそれでも、ゼツヤならやってしまうのだろうが……あいつの技術力は理解不能だ。
「そう言えば、なんで紙幣制度が出来たんだ?はっきり言って、コピーは簡単だろう」
「アーティファクトでしか作れないものを採用したんだ。七億年前はアーティファクトをそのまま使っていて、魔法具なんて作れなかったからだと思う」
「その時代が続けばよかったがな……」
「いや、その時召喚されていたある付与術師が、魔力の本質を発見すると同時に、魔法具を開発する基礎を作り上げたんだよ。そうなったら、紙幣を生み出すアーティファクトから、偽札を創り出す魔法具が作られるかもしれないからね。そうなって、紙幣と言うものの価値が暴落したんだ」
「そうか……ん?付与術師で魔法具設計が得意……なあ、その付与術師の名前って、『カムイ』じゃないか?」
「良く知っているね。その通りだ」
ミチヤは内心ため息を吐いた。
いろいろ疑問はあるが、創造神の最強の弟子は、大昔にこの世界で暴れたということだ。




