第七十四話
カリュセア、グリモーア、テルアモア、ギルガゾア。
地上では、この世に生きる権利の無い神とされており、姿を見た物は、下位神以外ではほとんどいないだろう。
四人は普段別行動だ。
しかし、唯一、下位神に罰を下すことができる存在でもある。
この四人は、一つの部屋に集まっていた。
半球のドーム状の部屋。
円卓があり、椅子がいつつ。
どれも真っ白で、限りなくシンプルなものだ。
なお、素材に関しては、まあ、地上ではプライスレスだと言っておく。
すでに埋まっている椅子は一つだけ。
カリュセア。上位神の一人で、アムネシアにおける『節理』を認識する存在だ。
青い髪の青年。それが第一印象だろう。
スーツを真っ白にしたようなもので、かなり落ち着いている。
「もうそろそろ時間か」
そう言った瞬間、カリュセアの左の扉が開いた。
入ってきたのは妙齢の女性だ。
今も光沢を放っている銀髪をなびかせて部屋に入ってくる。
羽衣を着ており、神聖さが高い。
カリュセアをちらりと見て椅子に座った。
「あなたは何時も早いのね。カリュセア」
「グリモーア。時間の五分前丁度に来るのも相変わらずだな」
女性の名はグリモーア。
アムネシアにおける『万象』を認識する存在だ。
「さて、そろそろ来るか」
「そう言うことじゃな」
右から入ってきたのは、ギルガゾア。
ローブを着た老人で、アムネシアにおける『歴史』を認識する存在だ。
「こうして集まるのは何年ぶりかのう……」
「七億年前、魔王誕生の判決で集まって以来だ」
「よく覚えておるな……」
「あなたを覚えているだろう」
「もちろんじゃ」
苦笑しながらも椅子に座った。
そして、時間になって一秒後。
「ブイブイ~!テルアモアちゃんの登場だよ~!」
とびっきりの笑顔で巨大な斧を背負った少女が入ってきた。
金髪を肩のあたりで切りそろえており、妹的な雰囲気が強い。
「登場するのはいいが、時間はまもれ」
「ん、時間ぴったりのはずだよ?」
「……まあいい。とにかく座れ」
テルアモアは斧を椅子にかけておいて、椅子に座った。
彼女はこれでも、アムネシアにおける『才能』を認識する存在である。
「それでは、今回の会議を始める」
この部屋での会議はいつも決まっている。
『節理神カリュセア』が司会進行。
『万象神グリモーア』がリアルタイムでの確認。
『歴史神ギルガゾア』が情報の補足。
『才能神テルアモア』は……邪魔にならない程度でペラペラしゃべる。
と言った感じだ。
「今回の議題だが、下位神の一人『聖極神ベリルサーガ』の件だ」
「何かあったの~?」
テルアモアが首をかしげる。
他の三人が思ったのは、『こいつ絶対の報告書読んでないな』であったが、いつも通りなので進めることにした。
「下位神の禁止事項である『神隷の紋章』の手続き抜きでの大量生産だ」
「あーあれね。確か、手続き抜きでも作っていいけど、確か5個までだよね」
「そうだ。聖極神ベリルサーガは、今現時点で50個もの紋章を作っている」
解除方法が存在するとは言っても、拘束能力があまりにも高いのである。
だがしかし、生産コストも高く、そもそも手続きを開始して許可されるまでに、短くても二週間はかかるので、手続き抜きでも5つまでなら作っていいことになっている。
当初の予定ではそのようなことはなかったが、解除できるアイテムが存在しないわけではないので(解除アイテムが流通している訳でもないが)、及第点として今のようになっているのだ。
「そもそも。紋章の生産力そのものが、設定当時よりも高くなっていることは事実です」
「そうじゃのう。上位神にとっても、かなり昔のことと言っても不思議ではないわい」
グリモーアとギルガゾアも、一応気になっていたようである。
「まず、聖極神ベリルサーガに対する罰だが……『深淵幽閉』を『20億年』とする。異論はあるか?」
カリュセアの判決に、三人ともが驚いた。
『深淵幽閉』とは、考えること以外の全てを禁ずること。
特殊な施設で完全な監禁状態になる。体のすべてを拘束し、全ての部位が一ミリも動かなくなる状態。
それを、20憶年。
下位神を含め、神が死ぬことはない。
不死性が強いとか高いとかという話ではなく、もともと寿命という概念が存在しないのだ。
これは、人から下位神となった『創造神ゼツヤ』も同じである。
深淵幽閉は、何かをされるわけでもなければ、何かを強制されることもない。
だが、それと同時に、何もできないのだ。
神々は、思考速度を早くし、急な展開でも十分な思考を得ることはできる(個人差はある)が、思考を遅くすることはできない。
20億年だと言われれば、本当に20億年。考えることしかできないのだ。
なお、三人は驚愕はするものの、反論はなかった。
理由は簡単。聖極神ベリルサーガが『前科持ち』だからである。無論。昔にも紋章を作りまくっていたわけではないが。
「反論はないけど、思い切った判決だね」
「というのも、アイツは懲りない部分があるからな……」
「そうじゃのう……で、いつも『創造神ゼツヤ』に関わりのあるものがチャラにしておったわい。ん?今回、関係があるものじゃったかの?」
「テルアモア。どうなんだ」
「んーとね。今回かかわった『茅宮ミチヤ』っていう人族の前世が、『創造神ゼツヤ』の転移元らしいよ」
「ほう……」
「懐かしいのう。数千億年ほど前であったか。世界レベルの文明崩壊が起こった時、VRMMORPGのデータの一つに過ぎなかったファイル一つをこの世界に転移させ、感情と記憶を解凍して復興させたのじゃったな」
「そのVRMMORPGがあった時代に、その人物は生きていた。と言うことでしょうか」
「そうなるだろう。しかし、ここまで創造神ゼツヤがかかわるとはな……」
カリュセアは、それはともかく、と続けて、こういった。
「とにかく、判決についてはこれで通しておく。それから、紋章の規制についてはどうする」
「今まで通りでいいんじゃない~?下位神が下された罰の原因と内容は、全ての下位神に通達されることになっているんだから、見せしめにもなるしね~」
「テルアモア。あなたは変わりませんね……」
グリモーアが溜息を吐いたが、テルアモアが言ったことは事実である。
神であっても間違いはある。そのほとんどは私利私欲に走った場合がほとんどだが、そうした項目を一つずつ対応していくしかないのだ。
そもそも彼らは、完璧な法など存在しないという前提の下で話しているのだから。
だからこそ、漏れていく水を、穴をふさいでいくように、彼らはこれまでそうしてきている。
だからだろう。テルアモアの言い分に対して、反論はなかった。
「それとね~。その『茅宮ミチヤ』だけど、『真名解放』のスキルを持っているみたいだね」
「何だと……」
カリュセアが節理権限に寄って、ギルガゾアが歴史を観覧し、グリモーアが万象に残る記憶から、それぞれ検索している。
そして、茅宮ミチヤのスキル欄に、刻まれていた。
「確かに、取得すること自体はできるだろう。いや、取ることができないように設定することが不可能と言う方が正しいのだが……」
「そうですね。真名解放ですか……」
「異世界人じゃから、自分にすることはできないじゃろう。しかしのう……」
三人は頭を悩ませる。
数千億年前の世界レベルの文明崩壊。
これは、当時の自分たちが設定した『真名付与』と言う現象により引き起こされたものだ。
真名と言うのは、彼ら四人が生み出す節理のシステムが設ける、全知的生命体に対する才能解放の状態だ。
そもそも、この世界には、名前がなかった。
当時、ほとんどの生物が何かに縛られた状態であった。
才能神テルアモアが、才能を封印している状態だと指摘し、今のままでは発展が遅くなると考え、『真名』という形で開放することにした。
なぜ、真名と言うものが解放するのか、と言うのは、テルアモアにしかわからない。
なおかつ、テルアモアは説明が下手なので、他の三人が分からないということもあるが。
結果として、全生物が自分の真名を知り、才能が解放された。
その結果、至上主義の考え方を持つものが台頭し始め、戦争が引き起こされた。
四人は最初止めることを考えたが、歴史神ギルガゾアは、適度な戦争は必要だと考えたのだ。
なぜなら、歴史を見れば、技術の発展と経済の成長には争いがつきものであり、戦争はその中でも代表格だ。
この時、彼らは予測を誤った。
世の中には、『降参』と言う言葉がある。
負けを認めるという単純な意味だが、この言葉があるがゆえに戦争はいずれ終了し、新時代の幕開けにつながると、戦争で学んだ愚かさを、学ぶことが出来ると考えた。
しかし、そうはならなかった。
戦争は各地で激化し、結果として起こったのは、新時代の幕開けではなく、文明の崩壊だった。
気づいた時にはすべて遅かった。
だが、上位神は制限することはできても、何かを与えることはできない。
下位神との違いはここだ。下位神なら、何かの献上、その対価として何かを与えることが出来る。
だが、上位神にはできないのだ。
彼らはすぐさま真名に対して制限を付けて完全に封印する。
そして世界の復興を、彼らが認知することが出来た中で最高の生産能力を持つ『ゼツヤ』に託した。
ゼツヤはその生産能力で、世界の半分以上をたった一人で復興させた。
その後は、人類が自分たちで復興を続け、今に至る。
その過程で超絶的な才能を開放し、人間としての枠を超えたゼツヤは、『創造神ゼツヤ』となる。
それが、数千億年前の真実だ。
「どうする。制限をかけるか?」
「私個人としては、まだ問題はないように思います。ただし、監視はするべきでしょう。解放状態は子に受け継がれることはありませんが、長命種の解放により、判断を見誤ることも考えられます」
「それが及第点じゃろうな」
「私もそれで問題ないよ~」
三人としては、『お前はそもそも考えてないだろ』と感じていたが、言わなかった。
ともかく、彼らの会議は終了した。




