第七十二話
「あの……ロイさん。手加減って言葉、知ってます?」
「言葉の意味なら知っているよ」
まだ誰も死んでいないが、ある意味で死屍累々だった。
建物に突入したのはいいのだが、襲ってきたもの達に対して、ロイは回復魔法をかけていくだけ。
血液に何か影響でもあったのだろうか。かけられたものが低血圧みたいな感じになっているのだが……。
「しかし、容赦ないですね」
「貧血程度でいいのなら簡単だよ」
「あ、厳密に言うと、貧血と低血圧って違うらしいんで……」
「今回の場合だと低血圧か、覚えておこう」
ロイは進んで行く。
「……ここまで出番がないのは久しぶりだな」
ミチヤはまだここに来てから一度も斬っていない刀を見る。
水を張ったようにきれいだが、心境としては変な感じだ。
それにしても、広い。
「今回の目的、とにかく、勢力を潰すことって言ってたけど……」
制限があるとは言っても、神が持つ体力や耐久力と言うのは計り知れないほどなので、倒そうと思えば日が10回は暮れるらしい。
戦闘員は潰しておいて、奴隷として使われている職人たちを解放、簡潔に言えば、事実上の再起不能にすることが重要だ。
ちなみに、『神隷の紋章』をすべて回収し、壊すことが必要事項だが、これは事後処理の一つでもあるので、率先してすることではない。
「あ、ミチヤ君」
「どうかしたんですか?」
「ちょっとあの集団をやってきてくれない?ちょっと魔法を無効されちゃって」
「対策してなかったんですか?」
「そう言われると痛いが、必要ではないと思っていたのは確かだ。君もいるしね」
「適材適所を免罪符だと思ってませんか?」
「世の中そう言うものだよ」
「ステータスプレートが量産されている中でその言葉の重さを知らない人多いと思うんですけど」
「うーん。それには賛成しよう」
「……ちょっと行ってきます」
ミチヤは刀を構えなおす。
で、居たのは……何体もの巨人だった。
なんで部屋の中に……いても狼くらいだと思ってたよ。
「刀を使うまでもないな……調子に乗ってんじゃねえぞ」
久しぶりの『覇気』である。
巨人はすべて気絶した。
「ミチヤ君」
「なんですか?」
「手加減と言う言葉を知っているかい?」
「言葉の意味なら知っています」
「……」
「……」
ミチヤとロイは謎の握手を交わした。
というわけで(何が『というわけ』なのか自分でもよくわからないが)、さらに奥に進んで行く。
上に行く階段と下に行く階段があった。
「どうしますか?」
「うーん……地下から作業音がちょっと聞こえる。多分何かを制作中なんだろう。ミチヤ君はそっちに行ってくれない?僕はちょっと上に行って凝らしめてくるよ」
「それなら上は任せます」
ミチヤは下に行った。
何かいきなり牢屋があった。
中を見ると、種族は様々だったが、母親は子供が多い。
人質だろうか。
次の瞬間。足音が聞こえる。
「おい、貴様!どこから入ってきた!」
「いや、普通に階段からだが……ていうか、もうこの建物に入ってから30分くらいたっているはずだけど……気づかなかった?」
「上にいたものはどうした!」
「低血圧でぶっ倒れているか、絶賛気絶中だ」
それでは地獄絵図である。
「まあとにかく……」
ミチヤは超速で接近すると、腹にパンチを一発入れた。
「グホ……」
気絶したようだ。
「警笛ならせよ」
さて、どうするか……。
牢屋には他には道がないらしい。なんかすごくて抜きっぽいというか突貫工事っぽい感じがしなくもないが、今見えている者たちしか人質がいないというのなら、それは好都合だ。
ミチヤは刀をスッと構えると……それを一気に抜き放つ。
その一閃で、牢の檻が全て粉々になった。
切ると面倒なのでかなり荒っぽいものになったが、実質的に問題はない。
「まだここで待機していろ。そのうち応援が来るから」
そういうと、さらに階段を降りて行った。
階段長いな……。
お、何か異様に光っているな。
見ると、そこから先はめちゃくちゃ広い作業室だった。
なんかいろいろやっているんだな。
……ん?
他にも部屋があるようだ。螺旋階段を皿に下って行って、仲を見る。
「いやあああああ!離してえええ!」
「おい、こいつを黙らせろ」
なんか手術台の上で貫頭衣を着た少女がスキンヘッド&サングラスのスーツ男数人に取り押さえられていた。
台の前に立っている男はイケメンだが、右手に持っているあれは……紋章っぽいな。
神、地下にいたんだ。
ミチヤは一応と言うことで全身錬金をした後、ドアを蹴り破った。
「な、なんだ貴様!」
「俺は……なんだろうな。通りすがりの巻き込まれた勇者だ。名前は茅宮ミチヤだ」
「ど、どうやってここまで来た」
「いや、正面から堂々と。連絡なかった?」
「黙れ!『セイントカノン』!」
男の手から閃光が放出された。
ミチヤはそれを一刀両断する。
おお、さすがゼツヤが強化した刀だ。
「なんだと……」
「驚きすぎだと思うぞ?神と比べるとそこまで埒外って訳でもないと思うが」
「だまれ!貴様、この女がどうなってもいいのか!」
男は少女の髪を乱暴につかむと、どこから出したのか、ナイフを少女の首筋に当てる。
で、首筋に当てたことでなんとなく意識が行ったのだが、喉仏がはっきり見える。
……男の娘?
まあいいか。
「あっ!」
ミチヤは男と後ろを指さして叫んだ。
「ん?」
男は後ろを向いた。
ミチヤは溜息を吐いた後、素早く近づいて顔面をぶん殴った。
男の子を素早く回収すると、入り口から飛び出した。
「おい、貴様!この私を愚弄するのか……ってちょっと待て!」
男も追いかけてきているのは分かるが、待つほどミチヤは優しくはない。
で、全身錬金状態のミチヤは本気で走るとどうなるのか。
三十分で進んだ道のりが二秒で終わる。
そう、建物の外にまで出てきていた。
そばにハルカがいた。
「まだもうちょっとかかるからこの男の娘預けておくぞ」
「了解した」
ハルカは預かると、頭をなでていい子いい子していた。身長は一緒くらいだけど。
よし、OK。
ミチヤは二秒でまた同じ場所に戻ろうとしたが、途中で男が息切れしているのを発見した。
ずいぶんとコメディ属性の強いやつである。
「はぁ、はぁ、貴様、やっと戻ってきたか。あの子娘はどうした」
「もう建物の外だ。あと……あいつ、女の子じゃないぞ」
「はっ?」
気づいてなかったのか……。
「そ、そんなはずはないだろう」
「しってる?男って言うのはな。喉仏がはっきり見えやすいんだ。女は違うけどな」
「まあよい」
「ああ、俺としても、なんかもうどうでもよくなってきた」
その時、足音が聞こえた。
「おーい。ミチヤ君。そっちにいる~?」
「いるぞー!」
「了解……え、いるの!?」
どたどたと降りてきた。
「おお、本当だ。ええと……名前、教えてもらってもいいかな」
「良かろう、私の名は」
「今だ、『バインドネスト』!」
突如現れた蜘蛛の巣ネットが縄状になり、男の動きを封じ込める。
亀甲縛りで。
「趣味か!?」
「いや、僕もそんな趣味はないけど、この空間は縄を用いた拘束魔法を使う場合、亀甲縛りになるように設定されているみたいだね。魔方陣にも干渉で来ているいいカテゴリーの領域だと思うよ」
「誰得だ!」
もう訳が分からんぞ!?
「はぁ、とにかく、とらわれている人を開放するか」
「そうだね」
「ふふふ、フハハハハハ!貴様たち、あの奴隷たちには『神隷の紋章』があることを知らないようだな。愚か者どもめ、貴様たちが助けようとした瞬間。奴隷たちは全員死ぬことになるぞ!紋章を解除してほしければ、この縄を解け!」
「自分で頑張って。ミチヤ君。行こうか」
「ああ」
二人は歩き始めた。
で、結局救出した。
助け出したもの達をどうするかという話になったのだが……。
「中には帰る場所がいない人達がいるから、ミチヤ、ラシェスタへの護衛を宜しく」
「丸投げか!ちょっとフルーセ!来い!」
フルーセが馬状態で馬車を引っ張りながら来た。
……うーん。落ち着いているな。まあそれはいいことだが……。
人化している時だけ精神年齢が低くなるのだろうか。
疑問はいろいろあるが……まあとにかく。
もう知らん!




