第六十八話
「……あれ?なんかみんないないな」
ミチヤはドアから入ってきて覇竜城の、ミチヤに貸し出されているエリアでつぶやいた。その肩ではコハクがプルプルしている。
いるのがテラリアだけだった。
「む、マスターか」
「ああ、他の皆は何処に行ったか知らないか?」
テラリアが言うには……。
イナーセル ヨシュアに拉致されてアース体内へ。
ヨシュア いろいろ連れて素材集めでアース体内へ。
ミーティア シュレイオの今回の件の事後処理の手伝い。
ミラルド 何かコンサートがあるという話を聞いて行った。
タイダロス ヨシュアに拉致されてアース体内へ。
フルーセ 母親に会いに行った。
ルーク 日向ぼっこ。
「ヨシュア……何があったんだろうな」
「それは私にもわからないが……目が血走っていて時々よだれを垂らしてフンフン言わせながら息をしていたぞ」
「12歳とは思えんな……ミラルドは楽しんでるだろうな……またあのコンサートホールにでも行ったのか?」
「そことは別らしい」
「そうか、で、イナーセルとタイダロスに関してはまあ、ご愁傷さまってことで、ミーティアの事後処理って言うのは……」
「今回の件で、恐ろしい量の被害が出ると周りの種族のもの達が思ったのだろうな。それで、たくさんの援助物資で大儲けしようとしたらしいのだが……」
「風雅と春瀬のせいで全部なかったことになったもんな……」
「竜族領土においては、シュレイオが運営していることで資金はかなりたくさんあると私も昔から聞いているからな。買うだけの資金ならあると踏んだのだろう。そこで、多くの種族の商会が手を組んで商談を持ちかけてきて……」
「全部なかったことになったといっても過言ではない状況か」
「ああ……」
戦争景気じゃないんだから……。
「手伝いって……そんなに多いのか?」
「ああ、クロノスが指示したからだと思うが、ラシェスタは来ていなかったが……」
「だろうな」
契約のほとんどは無駄になったはずなので、することにはそもそも意味はない。
まあ、ラシェスタそのものはクロノス個人が保有する商会と言うことになっているはずだがな。
竜族領土にいたことで指示がしやすかったのだろう。
戦いの最期の方は空気だったが。
「で、フルーセの母親に会いに行ったというのは……」
「それなのだが……ミラルドが聞いたところ、あの時来たセアルハーグ。実はフルーセの母親だったらしいのだ」
「はっ!?」
「しかも、その母親から生まれた希少種はフルーセだけらしくて……」
「あ……そう」
「オマケに、セアルハーグの王位継承権を持っているのは、代々希少種のものだけと決まっているらしくて……」
セアルハーグの希少種は全て雌だ。
……疑似的に女王制と言う意味でもあるが……まあそれはいいか。
「あいつ帰って来るのかね?」
「私にもわからないが、マスターはどうするのだ?」
「ん?まあ、別にフルーセは奴隷って言うわけでもないしな。判断は任せるさ」
「いいのか?」
「そりゃな。居てくれた方がうれしいのは事実だが、フルーセがいてもいなくても、誰の迷惑にもならないのは事実だ。利口だし」
「まあそうだが……」
「それはそれとして、ルークの日向ぼっこって……そう言うの好きなのかね?」
「まあ、シュレイオが言うには、絶滅種になる以前も、ほんの数体しか存在しない超希少個体だからな。分かっていない部分も多いのだろう」
「外、曇りだったぞ」
「……」
「……」
会話が止まった。
「それにしても、マスターはこれからどうなると思っているのだ?」
「さあな。だが、もう今回のような戦闘はないと俺は考えてる」
「どういうことなのだ?」
「相手に神がいるのはもう間違いないだろう。だが、今回の件で、魔王の親衛隊と姫が来た。今回の件に関しては、魔王にとっても都合の悪い部分があったということでもある。メタと言ってもいい対策がされるのは間違いないだろう。俺が知らない技術だって、世界にはたくさんあるはずだからな。だから、もう今回のようなことにはならないはずだ。それに、まだ手がないようには見えないんだよな……」
「ということは……」
「おそらく、モンスターで攻めてくるという手段はもう取ってこないはずだ。竜王すらも動くということが証明されたわけだからな」
どんな作戦を考えたとしても、竜王が出てくるという時点でかなりの影響がある。
頂上会議に出席する種族の内、少なくとも、戦闘力において最強と言われているのが竜王だからだ。
しかも、その竜王を支えているのがシュレイオなのだ。
ハルカから聞いた話だが、冒険者ギルドは基本的に個人的な付き合いや契約はしないらしいが、代々、竜族と契約してうしろ盾を作るほどだという。
それほど、竜族と言うものの存在は重要なのだ。
シュレイオがいなくなっても、竜王がい無くなっても、この世界のバランスは崩れるらしい。
数々の領地での運営権を得ている冒険者ギルドが調節し、そのうしろ盾で竜族がいることでバランスを保っているからである。
「だから、戦闘力最強の竜王が動くとなったという時点で、もう、生半可なものは投入できない。そして、やつらにとって、最も想定外なことがあった。それも二つ」
「?」
「今回、火山帝竜アース三体が合体したわけだが……ミーティアと話しあってみたが、あれはアーティファクトに寄るものだと分かった」
「何!?」
「簡単に言えば、あれはアースたちのスキルと言うわけはない。コマンディアが行ったことだということだ」
「だが、コマンディアは、魔力増幅装置も持っている。火山帝竜アースを生み出すのは難しくないだろうし、アーティファクトを使うだけでできるということは、ほぼいつでもできるということになるのではないか?」
「いや、出来ることが重要ではない。できたものが強すぎることが原因なんだ」
「……共闘本能か」
「そう。いくら強いモンスターを出すことが出来たとしても、共闘本能の範囲内に達してしまうと、本当の意味で計画が進まない。それに、あれほどのモンスターだからな。簡単に制御はできない。まあそもそも動かせないがな」
「そういうことか……」
「俺のまだ何となくでしか把握できていないが、アイツらは、もうそのアーティファクトは使えない。メタのような対策を超えて運用することができるほど、向こうも技術を用意するには時間がかかるだろうし、しかも、こっちの対策は本気だからな」
「ふむ……」
「それに、アースを残してしまうことで、間接的に、膨大な資源を俺達に与えてしまっているんだよ。その中には、いい魔法具の素材もあるだろうから、対策が取れることはほぼ間違いない」
「では、噴火山脈竜アース以外が出てきたら……」
「同じだ。共闘本能を刺激することは間違いない。そして、もし続けたとするぞ。そうなると、次にその超強力なモンスターたちが矛先を向けるのは誰だと思う?」
テラリアは分かったようだ。
「そのアーティファクトを持っているコマンディアか」
「そう。数々の長たちは、今度は、その元凶となるコマンディアを狙う」
「なるほど、生み出すモンスターが強すぎたということか」
「そういうことだ」
「もうひとつは何だ?二つあるといっていたが……」
お、てっきり忘れると思っていたが……。
「今回俺達が戦った中で、不明瞭なのは誰だと思う?いろんな面においてだ」
「私からすればマスターが一番不明瞭だが」
「否定はしないが、もっといるだろ」
「風雅と春瀬、だったか」
「そう、スキルについて自分でもよくわからない部分って言うのは誰にでもある。だが、あの二人のスキルは、本当の意味で確定ができない。だからこそ、うかつな手が取れない」
ミチヤにとっては、風雅の『概念崩壊』はまだ予想範囲内だった。
破壊神シヴァ。神と言う時点ですさまじい何かを秘めているのは間違いない。
そして、風雅のようすだが……まだ、何か見せていないな。契約しているのか、何かのスキルを所持しているのかどうかは不明だが、何か隠しているのは間違いない。
春瀬の方だが……これは本当の意味で予想外だった。
タロットと言うのは占いにも用いられているものだが、魔力が絡むとここまで効果を発揮するとは思わなかったのだ。
今度タロット占いでもしてもらおうかね。魔力を含ませて。
シュレイオやアークヒルズでも、概念破壊を行うことはできないし、実際に見た時に、到底理解できないものだったらしい。
それを補うことを超えて、完成の域に達するというのは、何ともすさまじい話だ。
「あの二人が……確かに、私にとってもわからない領域だった」
「しかもだ。今回のケースは、数々の証拠や文献を合わせることで、何回も発生さえることが出来るというものだ。だが、それに対して、俺達が一回目で出し惜しみせずに使ったことで、向こうも、実質的な被害が出る確率は低いと判断するだろう」
そう、シュレイオは書類整理に追われているだろうし、それを手伝っているミーティアも苦労していると思うが、それでも、被害にあった町や村ですら、もう今まで通りに暮らしている。
しかも、実質的被害が全てなかったことで、存在はゼロ。
シュレイオに聞いたことだが、あの瞬間、天変地異すらも改竄されてなかったことになり、大量の命が失われたことすらもなかったことになり、すべて蘇生したのだという。ケガなんてあったことすらもうないだろうという話だ。
しかも、自然や命と言った部分にとどまらず、全生態系。さらには、誰かがつけた足跡、誰かが地面に落とした汗の跡すらも全て元通りになった。
それを聞いた時はもうほとんど恐怖しかなかったが、それはすぐに自分に向かうことになった。
魔力の消費量だ。
あれほどの大規模改竄だ。相当の魔力を使っただろう。
実質、二人はその大量の魔力の消費、運用のために一週間眠り続けた。
だが、その時に、ミチヤが直接触れて魔力供給をしたのだが、終始、ミチヤのようすは全く変わらなかったのだ。
これは要するに、今回の概念破壊。そして、『世界』の『完成』に使用する魔力を消費したとしても、普通に魔法を使用したのと同じような感覚しかなかったということになる。
強力なスキルを使うとしても、使うのが人である以上、魔力は使うことになる。
その無尽蔵の魔力を、ミチヤは持っているのだ。
「これからの向こうの動き方も注意だが……これからの皆から俺に対する扱いも心配する必要があるかもしれないな」
「このことはみんなには……」
「まだ言えんな。イナーセルとミーティアは無駄にそう言うところに敏感だし、ヨシュアとミラルドはまだそう言うことを知る年齢じゃないだろう。タイダロスは理解できずに混乱しそうだからな」
「そうか……」
「……実はな。俺の奴隷には、全て、個人個人で役割がある」
「役割?」
「そうだ」
イナーセルは、悲観しない性格を含めて、ある程度の知識者であり、いざと言うときのリーダーを務めてもらうため。
ヨシュアは、アイテムの開発と、それに関連して、数々の状況に対するミチヤ達の適応力を最大限高めるため。
ミーティアは、レイピアと魔法の両方を使えて、前衛も後衛もできること。その外交知識からラインを判断してもらうため。
ミラルドは、吸血鬼であることから来るその圧倒的な聴覚と、その自由思考による緊張感の調節と、スキルから来るとっさの汎用性が高いから。
タイダロスは、ベアーであることから来る圧倒的な嗅覚と怪力、過去の偉人の言葉を多く知っているが故の判断力による引き際の判断のため。
「テラリアはな。俺が望んでいる通りの思考速度を持っていること。全属性の中で、もっとも汎用性の高い風属性において、ミーティアを上回る実力持ち、なおかつ騎士剣使いとして高い実力を持っていること。そして、自分でも気づいていないだろうが、理性的と言う意味では、テラリアは一番高い。自分から踏み込まないと言う意味ではなく、前提と言う意味で、俺が求めている程度の思考制御ができると言う意味だ。だから、今回みたいな話ができるのはテラリアだけだし、他の誰かに言えるとかそう言う話じゃない」
「私が……理性的か」
「最近、剣筋に迷いがあったり、魔法の構築が遅かったりすることがあった。テラリア。君は俺達の中で一番特徴がないと思っているようだが、そんなことはない。何度も言っているが、買うかどうかは俺が選んでいるんだ。もっと大船の乗ったつもりでいろ」
ミチヤはドアを開けた。
「それと、弱さを認める強さを掴むことだな。そうでないと、いつか、重要な時に誰かに頼むことができないぞ。それができなくて落ちていくやつは、たくさん居るだろうからな」
そう言ってミチヤはドアを閉めた。




