第六十三話
さて、奴隷たちの状況だが……。
「『ブラックサイクロン』『エンドメテオレイン』『ベリアルサイン』」
黒い竜巻と黒い隕石の雨と黒い閃光がアースを襲う。
なんというか、容赦がないというより、それしか知らないという感じである。
「なんか……突っ込んでいくだけでもすごく怖く感じるのは気のせいだろうか……」
「たぶん気のせいじゃないと思う」
「ええ、私もそう思います」
「あわわわわわわわ」
「なんというか、攻撃回数が少なくなってきたな……」
「私もなかなか切り込めませんね……」
「竜人族として生を受けて長いはずなのですが……圧巻ですね。これは」
コハクも現実逃避気味な感じでプルプルしているし、フルーセも溜息を吐いている。ルークもなかなか乗り込めないので微妙そうな表情だ。
「しかし、あれはもうどうにもならんな……」
結局はそれであった。
「……どうしたのですか?皆さんは攻撃を仕掛けないのですか?」
「いや、あの魔法の雨の中で攻撃を仕掛けるとか、一歩間違えたら自殺行為だぞ」
「間違えなければいいだけの話だと私は思いますが……」
天才肌じゃないんだから……本当に勘弁してほしいところなのだが、聞いてくれないのかな。この願い。
「バスタードのヤツ……一体どんな教育してきたらこうなったんだろうな……」
親の顔が見たいということだ。
まあ、クラリスタにとってバスタードは、父親ではなく大叔父だが。
「それにしても、なかなか倒れませんね……」
確かに、クラリスタの言う通りだ。
本人が使っているのだからまあ分かるだろう。
魔法名以外何も言っていない、本来のものからすればかなり威力は落ちているはずだが、それでも手数の話もある。
ぶっちゃけると訳が分からない。
「とにかく、出来ることは多くないからな。とにかくやるしかないだろう」
「そうですね……」
と言うことで……。
次の瞬間、遠距離攻撃だけだが、イナーセルたちも混ざることにした。
あ、ちなみに、噴火レーザーに関しては、ルークがどうにかしている。
さすが、真名を解放された絶命種。威力もすさまじい。
「ていうか、シュレイオも竜魔法はすごいな……」
「これでも、竜魔法に限定するなら本はかけますからね」
そう言えばそうだった。
まあ、竜魔法とは言っても、竜族性が混じっている感じだ。
簡単に言えば『竜火魔法』や『竜水魔法』と言った類のものになるのである。
「それにしても、他のところにも、魔王の親衛隊クラスが来てるって話だが……マスター方は大丈夫なのか?」
「人族と竜王のところですか。確か、イーゼラーが向かっていますよ」
「魔竜か」
思いだすように言っているが、イーゼラーの実力は、普通に奴隷たちを上回っている。
性格は結構ずぼらなので、大概のことなら問題はないというのが正しいのだが。
「……!今、なんかあったな」
遠くの方で、何かの雰囲気が大きくなった。
「これは……アークヒルズとイーゼラーに何かあったのか?」
「そうみたいですね」
イナーセルとミーティアが呟く。
奴隷たちと、モンスターたちも気が付いていた。
「つかうのは予想外でしたね……」
「うむ」
ミラルドとヨシュアも呟く。
「一体どういうことなのですか?」
クラリスタがかなり気になるようだ。
「まあ、イーゼラーにもアークヒルズにも言っているだろうから、別に話しても問題はないだろう。マスターはな。意志あるものの真名を認識して、それを口にすることで、なんていえばいいんだろうな。解放することが出来る」
「真名解放のスキルを持っているのですか?」
「ああ、知っているのか?」
「私も文献でしか見たことはありませんが……あなた達が全員そうなのですか?」
「ああ、モンスターを含め、奴隷たちは全員解放されている」
「なるほど……ちなみに聞きますが……その人族の魔力の量は?」
「あ~……多分。魔王より多いぞ」
クラリスタは頷いた。
「なるほど、間違いではないですね。文献通りです」
「してほしいのか?」
「ええ、とても」
一体何を知っている?
「早くこの竜を倒しましょう。そして、真名解放の対価についても考える必要がありますね……処女でも売れば何とかなるのでしょうか?」
……まず、人族の男と言うものを学びなおした方がいいと思う。
「マスターって結構ヘタレだもんなぁ……」
「そうですね。以前。温泉のある宿に泊まった時、壁一枚をはさんで私たちもつかっていたのですが、特に興味はなさそうでしたし……ミチヤ様に対して、体でどうにかするのは無理だと思います」
思えば、冒険者ギルドでの会議室にいた時、ミーティア達女性陣は、春瀬や風雅と目を合わせたことがあるのだが、まあ、年相応というか、慣れていない感じではあった。
あれが普通なのだとすると……よくわからないものである。
「主のことだからな。話でもして、メリットさえ感じさせればいいのではないか?」
ミチヤを見る限り、ある程度のデメリットを踏まえてでもメリットをとるタイプの人間ではある。
だからと言ってギャンブル好きと言うわけではないが……。
「ていうか、いきなり処女を売るとか言うなよ。子供ができたらどうするんだ?」
「?子供はキスをすることで生まれるのではないのですか?」
「「「「「「「「「「………………」」」」」」」」」」
……天然の変態か?この女。
うちにいるガキども(ヨシュアとミラルド)も、そのあたりは知っているというのに……。
ちなみに、ミラルドに関しては皆さんの知っての通りだ。で、ヨシュアも、あれから学んだ。
……速い気がしないわけでもないがな。
「どうしたのですか?」
「いや、何でもねえよ。で、なにかでかい攻撃はできないのか?」
「できますが……魔力が足りません。急遽私が出ることになったので、私本人もかなりの魔力を使ってしまったので……」
そりゃそうだろうな。魔族の姫を送りだすのだ。そりゃ量だってすさまじいに決まっている。
「それなら、この魔力を使え」
ハルカに渡されたものとは違うものだ。
だが、それでも、多いことに変わりはない。
「かなり多いですね。ですが、これなら問題はありません」
クラリスタは手を前に出す。
「始めましょうか
【黒き炎、毒の水、災いの雷、破天荒の風
枯れ果てる土、死に絶える海、死の灰を降らせる空
失意に満ちた精霊よ
後悔に苦悩する救世主たちよ
絶望の未来への橋をかけよ
今、我が瞳を、自壊する心の光で満たせ】」
なんかヤバそうで黒い魔方陣が構築されていく。
何時の間にか、妙な雰囲気を生み出す風が吹き荒れてきた。
クラリスタが持つ引力を、再現しているかのように。
「【デスペアーリグレット】!」
次の瞬間。
アースの溶岩が全て、停止した。
「な……なんて威力だ」
そして、全員が気づいた。
クラリスタが自然落下していることに。
「明らかに魔力切れだな……」
イナーセルがため息を吐くと、フルーセに向かわせる。
クラリスタはフルーセの背でぐったりしている。
「若さゆえ……なのか?」
「でしょうね」
イナーセルの呟きにシュレイオが答える。
あ、アースが方向変換してどこかに向かおうとしている。
「追うぞ!」
イナーセルの声に、全員が頷いた。
が、「もうどうにでもなれ」とつぶやいていたのは、一応、秘密にすることにした。




